空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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第2章 酔い回るころ賑やかなり 5

「噂には聞いていましたが、間近で見ると本当にカワイイですね〜」
 結崎 綾耶(ゆうざき・あや)はすっかりポムクルさんにメロメロだった。
 テーブルの上に座っているポムクルさんをつついたり撫でたりしながら、にやけた顔をしている。それだけポムクルさんに夢中ということだが、あいにくと匿名 某(とくな・なにがし)はそこまでポムクルさんを愛でたりできなかった。
 むしろ、ポムクルたちとたわむれる綾那のほうがカワイイと思う。そんなことは口にはしなかったが。
「完全にポムクルさんの魅力にやられてるな……」
「そりゃあそうですよ! こんなカワイイ生物、他にはなかなかな見られませんから!」
 綾那は拳を握って力説した。
「ところでポムクルさんたちは、鞄の小人たちとも仲よくできますかね?」
 テーブルの上に置いてある鞄の口をのぞき込みながら、綾那はたずねた。
「さあ、どうだろうなぁ……。試しにやってみればいいんじゃないか?」
「うーん、そうですね。ものは試しです」
 綾那が鞄を開けて、呼びかけると、中からは数匹の小人が出てきた。
 ポムクルさんたちとはまた毛色の違った小人で、どちらかといえば鍜治屋のおじさんたちにも見える。ポムクルさんたちと小人たちはしばらくお互いを見合って、警戒心のようなものを抱いていたが、やがてどちらともなくゆっくりと握手をかわすと、すっかり打ち解けてしまった。
「仲間なのだー」
 と言って、小人たちと腕を取り合って踊るポムクルさんを、綾那は微笑ましく見つめた。
「良かったな、仲良くなって」
 某が言うと、綾那は「はい」と、笑顔でうなずいた。
「それにしてもこいつら……遺跡修繕のための裏方さんなんだよな? こういうのとか見せたら、興味持つのか?」
 某は空京大学学長の名前をつけられたスマートフォンの『ティ=フォン』や、剣状態のフェニックスアヴァターラ・ブレイドを見せたりしてみた。
「なんなのだー?」
「機械なのだー?」
 ポムクルたちは首をかしげながらも、『ティ=フォン』や機械的な形状をした剣に触れて、いろんな角度からそれを観察した。
 某は面白そうに笑った。
「やっぱり機械は好きなんだな」
「ですねぇ……。ところで、一匹持ち帰ることとかできないでしょうか? あまりにも可愛すぎます」
「ムリに決まってるだろ」
 某は綾那とほおづえをついて話しながら、あきれ顔で言った。
 まったく可愛いものとみると、女の子はどうしてすぐに持ち帰りたくなるのだろう。男には一生わからない感覚の一つだ。もしかしたら論文にしでもして提出したら、良い線までいけるんじゃないか? 某は何気なくそう考えながら、「ああ、そうだ」と思いだしたように振り返った。
「弄るのはかまわないけど、頼むから壊すようなことはしないで――」
 某の身体が石になって、ピシッとひびが走った。
「なのだー?」
 首をかしげたポムクルたちが持っているスマートフォンは、すっかり部品と基盤の塊だけになってしまっていた。
 剣状態のフェニックスアヴァターラだけは、意思を持っているため、なんとか自力で逃げ出して難を逃れたようだが、スマートフォンは見るも無惨な姿だ。バラバラになったスマホ部品を見つめながら、某はダメージを負ったようにがくっと崩れ落ちた。
「お、俺のスマホがぁ……」
 彼の嘆きの横では、綾那が今日一番に目を輝かせていた。
「機械いじりしてるポムクルさんたちもカワイイです〜!」



「つまりだね、君たちには賢く世の中を生きてもらいたいのさ」
 ポムクルたちにそう語って聞かせたのは、炎羅 晴々(えんら・はるばる)だった。
 彼の言葉にポムクルたちはぽかんとした顔をしていたが、たまにうなずいてもいた。少しずつ学習してるのだろうと晴々は思った。悪戯とか、だまし討ちとか、そのうちいろいろ覚えるポムクルさんが現れるのも時間の問題だ。
 ピアニッシモ・グランド(ぴあにっしも・ぐらんど)は晴々がポムクルたちに向かって話しているのを邪魔しないように見ていた。
(マスター、楽しそうなの……)
 晴々は自分でも気づかないうちに笑顔になっていた。
 悪いことを教えるのは気持ちが良かった。例えば、冷静な相手を騙す方法とか。そういう相手はなるだけ冷静さを失わせるに限る。つまり怒らせるということだ。
「そうすれば、相手の脳みそは普段の半分も使い物にならなくなるからね」
「なのだー……」
 ポムクルさんは感心したようにうなずいていた。
 ピアニッシモはそれを見ながら、嫉妬のようなものを感じていた。自分にはマスターを楽しませることが出来ないと思っていた。ポムクルさんたちみたいに、いろいろなことが覚えられたら、出来たら、マスターはもっともっと喜んでくれるのに。ピアニッシモはちょっぴり悲しくなって、顔をうつむけた。
「ん? どうしたんだい? ピアノ」
 晴々はたずねた。ピアニッシモは首を振った。
「ううん、なんでもないの」
「そう?」
 晴々はそれ以上、ピアニッシモに追求しなかった。
 彼に聞こえない小声で、ピアニッシモはつぶやいた。
「小人さん、うらやましいの」



 晴々がポムクルさんたちに“賢い生き方”を教えたからだとは信じたくないが。
 中にはあくどさというか、ずる賢さを覚えたポムクルさんもいるようで、それらはシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)とやけに波長が合って、出店通りの各店舗ではちゃめちゃな買い物を進めていた。
「いやー、買った買った。これだけ帰れば満足よねー」
「美味しいのだー」
 テーブルについたシオンとポムクルさんたちは、買ってきたジュースを美味しそうに飲んでいた。
 そこに遅れてやって来たのは月詠 司(つくよみ・つかさ)で、彼は背中や両腕にお店の買い物袋を大量に抱えていた。
「シ、シオンくん……ポムクルさん……ひ、ひどいです……私を置いていくなんてぇ……」
「なに言ってんのよ、ツカサ。あんたはワタシたちのサイフなんだから、ちゃんと支払いをしてくれなくちゃ」
 無茶苦茶な言い分だが、これがシオンという人物だった。
 彼女は自分のことしか考えていないし、いままでもこれからも恐らくはそうだった。ポムクルさんたちはすっかりシオンの影響を受けて、司を案じるどころか、大笑いしていた。
「サイフーサイフー」
 司の頭の上に乗るポムクルさんが、ペチペチと彼の頭を叩く。
「うぅ……小人さんにまでパシリにされる私って……」
 司の目には涙が流れていた。



 三井 静(みつい・せい)はドキドキしていた。
(これって、デートかな……?)
 もちろん、それは隣にいる本人に確認すればいいことだし、それが最も手っ取り早い方法だということは静にもわかっていた。だけど、出来ない。出来たら苦労しないし、こんなにやきもきすることはないだろう。三井 藍(みつい・あお)と二人でイーダフェルトの庭を歩くということは、そういうことだった。
 二人は離れすぎず、だけど近づきすぎない微妙な距離で隣り合って歩いていた。
「なあ、静、見ろよ。あれが中枢部の神殿らしいぞ」
 藍は神殿群の一つを指さして言った。
 時代を経て苔むした建物が、藍と静の目の前にあった。藍は神殿を見あげながら、一瞬とはいえドキドキした心を忘れた。それだけ神殿は美しくかったし、壮大だった。なにかに目を奪われたとき、心は一瞬だけ手許から離れてしまう。そんな感覚だった。
(あ、そうだ……手をつなぐとか、どうかな……)
 心が戻ってきたとき、静はそんなことを思いついた。
 ゆっくりと藍の手に自分の手を近づけていく。だけど、触れそうになったその一瞬、静はバッと手を引いた。気づけば、周り中にたくさんのポムクルさんたちがいた。庭の茂みから、土の中から、神殿の隙間から。あらゆるところから、二人を興味深そうに見つめていた。
 じーっというその視線は、まるで静の心がドキドキしていたのを知っているようだった。
(う、うぅ……そんなに見られると……恥ずかしい……)
 静は真っ赤になって顔をうつむける。
「どうした? 静」
 気づいた藍が、彼の顔をのぞき込んだ。
 静は慌ててぱたぱたと手を振った。
「な、なんでもない! なんでもないから、藍!」
「そうか?」
 藍はなんだか釈然としない顔をしていたが、それ以上は追求しなかった。
(今日はもう終わろう! これで、おしまい!)
 静はそう決断した。ちょっぴり残念な気は、しないでもなかったが。