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リアクション
『泣いたり笑ったり夢見たり筋肉痛ったりツアー 4』
「これは、負けてられないな」
ミルディアの匍匐の速度に追いつくは瑞江 響(みずえ・ひびき)。砂だらけながらも、さわやかな笑顔。
「あたしだってまだまーだぜんぜーーーんっ! 平気なんだよねっ!」
「元気いっぱいだな。ほら、ポムクルさんたちも彼女の精神を見習おう」
「歩きたいのだー」
辛い辛い匍匐前進に音を上げ始めているポムクルさんを応援する響。
「……ちょっとマテ、響……マジで俺様、ツライんだ、けど……」
ミルディアと響の後ろにはへっろへろのアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)がいた。
「こら、あまり情けない姿を見せるな。ポムクルさんだって頑張っているんだぞ?」
「そーだよー? イシュタンもほらっ! もっと元気に♪」
「そ、そんなこと言われても匍匐前進ってきつくて……」
「俺様はただ、夏のレジャーを満喫しに……」
いまいち気合が足らないイシュタンとアイザックの発言。
それをパートナーであるミルディアと響が聞き逃すことはなかった。
「あいだっ!」
「レジャーがなんとか言ったか?」
「いや、そのいだ! いた、痛いです響さん! そっと足を蹴らないでくれ! 俺様が悪かった」
静かにアイザックに制裁を加える響。
「そんな弱きじゃ痩せられない! さあ! あともう10キロいってみよう!」
「ま、まずい……超ドMダイエット祭りが開催されてしまう! みんな逃げてー!」
ミルディアの鬼のような提案に悲痛な叫びをあげるイシュタン。
「ふふ、自分たちのチームは元気がありあまっているようですわね」
「そうですね」
元気な四人を少し後ろから見ていたマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)と近衛 美園(このえ・みその)。
ここまでは成り行きを見守っていた二人だが、それもここまで。
「みなさん、前方を見てください」
「あんまり浮かれていると、痛い目にあいそうですよ?」
その言葉に反応した四人は前方を見やる。
そこには一人の男の姿があった。
「……さて、そろそろかな」
堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)が複数の気を気取る。
「……そこだね?」
手に持っていたエアーガンのトリガーを引く。放たれたペイント弾は見事に匍匐前進をしていた訓練兵にヒットする。
「うわっ! ってなんだ、ペイント弾かー」
「はーい! ペイント弾に当たったそこの君はこちらへおいでなさーい」
「え? え?」
館下 鈴蘭(たてした・すずらん)にあっつあつに暖められた砂地の場所へと連れられる訓練兵。
「ペイント弾に当たったあなたは、このあっつあつの砂の上で腕立て100回よ!」
「ええええええ!?」
「愚痴言う前に腕を動かす! はいイッチニー!」
鈴蘭の掛け声の下、あっつあつになりながら腕立てをするハメになった訓練兵。
その顔からは「ちゃんと匍匐してればよかった」という後悔が見える。
「っと、あんまり騒いで見つかってしまえばあちらの方と同じような目に遭いますよ?」
マルティナの言葉に息を呑むイシュタンとアイザック。が、他二人は違った。
「あれはあれで……ダイエットになりそう♪」
「ふむ。ここは一つ、先陣を切る武士道精神をお見せしようか」
「「えっ」」
ミルディアと響のアグレッシブさ加減に思わず声がハモる二人。
その間も一寿が次々と匍匐している訓練兵を撃ち抜き、鈴蘭がそれを連行している。
「……うおおおおお! こうなりゃ、ヤケだ! こんな訓練、響への愛で乗り切ってやるぜ!
ポムクルさん、俺様の生き様についてこーい!」
遂に暴走モードへと突入したアイザック。その勢いに乗せられ、何体かのポムクルさんも果敢に前進。
「おっと、障害役が一人だと思ったか? その考えじゃ、戦場は生き抜けないぜ?」
突然、岩陰から現れたダニー・ベイリー(だにー・べいりー)の銃口が突出したアイザックに向けられる。
「うおっ!?」
「いい反射神経だが、一歩おせえな」
「させないのだー」
一体のポムクルさんがその身を呈してアイザックをかばう。
「お? 当たっちまったか? ま、潰れてたんならしゃーないってことで。そんじゃまた会うかもな」
そう言ってダニーは姿をくらませた。
「ポムクルさん! 平気か?」
「へいきなのだー」
「……意外と硬いんだな」
「はい、アウト」
某立ちしていたアイザックを一寿が射抜く。
「はーい、契約者一名ごあんなーい!」
「そんなばかなー!」
断末魔をあげながら、アイザックはあっつあつの砂地に連れて行かれた。
「……仕方のない奴だ」
「うん、やっぱりあっちもやっておこう♪」
「えっ?」
「……本当に、変わった人たちですわね」
「まあ、それもチームなのかもしれませんね」
その後、アイザック以外の五人もわざとペイント弾にあたり鈴蘭指導のきつーい罰を受けるのだった。
「えーっと、その人は腕立て、こっちの人は腹筋でお願いします」
ペイント弾に当たったもの全てが腕立てをするわけではない。
霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)の指示の元、個人個人で違う罰を受けていた。
「次の子が来たわよーこの子はなにをするの?」
「えーっと……背筋でお願いします」
これもテキトーに指示しているのではない。
沙霧が訓練兵をリストアップして体調や得意不得意を判断し、その人にあったメニューを決めていたのだ。
「さー! どんどんいくわよー!」
(鈴蘭ちゃんが鬼教官に……帰りたい……)
沙霧の内心ではこんなことを思っているのは内密なのである。
「はい、お疲れ様でした。これお水ですので、ゆっくりと飲んでください」
罰という名の適性訓練メニューを終え、疲れた訓練兵たちに優しい言葉をかけて回る度会 鈴鹿(わたらい・すずか)。
「そっちの方も頑張って。あと少しです!」
絶妙なタイミングでの励ましに、心が折れそうになる訓練兵たちも何とか最後までメニューをこなすことに成功していた。
「ふむ。これがポムクルさんとやらか。小さきものよのう」
「もうだめなのだー」
「確かに、少々ダレすぎておるのう……」
ポムクルさんを見ながら扇を仰ぐ織部 イル(おりべ・いる)。
「して、なにかやる気にさせる鍛錬方法はと……」
イルが鍛錬方法を考えている間にほとんどの訓練兵が、課せられた罰を終えていた。
「よーし! よくがんばったね!」
「それではご褒美、ではないですけど少しでも息抜きになればと思います」
「ってなわけで! 【ダブル☆ベル】、歌いまーす!」
二人のアイドルの突発ライブに浜辺はいきなりライブ会場と化す。
最初こそヘバっていた訓練兵たちもすっかり元気を取り戻して、踊るやはねるやの大騒ぎ。……休憩できているかは微妙である。
「……これかの? ほれ、一番にゴールした者には、とっておきのアメちゃんをしんぜよう」
そう言うなり、イルは【空飛ぶ箒シュヴァルベ】の先端にアメちゃんの袋を吊るして飛んでいく。
「あめちゃんてなんなのだー」
「美味なるものぞ」
「ほしいのだー」
美味しいアメちゃんに釣られて、ポムクルさんたちも走り出す。
「イル様、それは餌で釣っているだけでは……」
歌い終わった鈴鹿が呟くが、その呟きはイルには届かず、寄せ返してくる波の音に消えていった。
この匍匐前進ゾーンでも過酷な訓練を強いられたが、優れた教官によるフォロー、チームワークでそれを乗り切り、
ほとんどの訓練兵が脱落することなく行軍を進めていく。