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リアクション
『束の間の休息、たまに企み』
「さー! もうヘバってだめだよ〜って甘えた子猫ちゃんはこちらへきなさーい! 叱咤激励と補給をプレゼントするわよ〜!」
「ポムクルさんも訓練兵さんもこちらへどうぞですわ」
救護・補給係りであるニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)とカーミレ・マンサニージャ(かーみれ・まんさにーじゃ)が大型輸送用トラックから降りつつ叫ぶ。
救護や補給係りはこのトラックに乗り、いかなる場所でも訓練兵・ポムクルさんたちのフォローができるようにしていた。
「さて、まだそんな服を着てるあんたたちにはこいつを特別プレゼントよ!」
オカ、ニキータの手には、ポムクルさんサイズのシャンバラ国軍制服があった。
「あつそうなのだー」
「いらないのだー」
「なんですって〜? 武装だけじゃ物足りないと思ってせっかく作ったのよ? 補給もあげるから着てみなさいって!」
ニキータお手製の制服に難色を示すポムクルさんたちのもとに、カーミレがクッキーを差し出す。
「クッキー、お好きなんですよね? どうぞ。それにあの制服も私たちが一生懸命作ったものですので、着てくれると嬉しいですわ」
美味しそうな色とりどりのクッキーをポムクルさんに見せるカーミレ。
「一生懸命ならしかたないのだー」
「ふふっ、ありがとうございますわ。それに、一番頑張った方にはこの『立派な付け髭』もあげちゃいますよ」
そう言って近くにいたポムクルさんに髭をつけるカーミレ。途端にポムクルさんたちから歓声がわく。
「すごいのだー!」
「かっこいいのだー!」
「がんばるのだー!」
素早く制服に着替えクッキーを平らげ、訓練へと戻っていくポムクルさんたち。
「……あの子たちのセンスがわからないわ」
「ふふ、可愛くていいじゃないですか」
走っていくポムクルさんを見届けて、他の訓練兵たちに補給を続けていく二人。
もちろん、補給だけではない。怪我をした訓練兵たちもここで手当てを受けていた。
「あいててっ!」
「ああ、これは確かに痛いかもです」
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の手当てを受けて痛がる訓練兵。訓練中に怪我をしたのだが、打ち所が悪かったようだ。
しかし、ジェライザは落ち着いたまま治療を施していく。
「あいた、ってあれ? 痛くない?」
「はい、これでもう痛くないはずです」
「ほ、ほんとだ……」
ジェライザにかかればどんな怪我もたちどころに引いてしまう。訓練兵の間ではそう囁かれていた。
「でも少し筋肉がこってるみたいですから、あちらでマッサージを受けてくださいね」
「はあ……」
言われるがまま、案内された方へ歩いていく訓練兵。
そこにではジェライザのパートナーである斑目 カンナ(まだらめ・かんな)が忙しそうにマッサージをしていた。
「あのー」
「ん、また来たのか。次から次へと……」
ざっと見た限りでも三人以上がマッサージを待っていた。一人で回すのは厳しそうだ。
「……何か手伝うことはありますか?」
忙しそうなカンナを見かねて、訓練兵がそう尋ねる。
「いや、訓練兵である君にそこまで頼むわけには……と言いたいが手伝ってくれるとありがたい」
「なら、お手伝いしますよ。……雑用くらいしかできませんが」
「いっしょにてつだうのだー」
ポムクルさんたちも手伝いに乗り気である。訓練にはあまり乗り気でないのに。
「それじゃ先にあんたのマッサージをしてしまおう。手早くさせてもらうけどね」
手早くとは言っても的確にマッサージをこなし、訓練兵の疲れをこりほぐしていく。
その後は訓練兵A君、ポムクルさんたちと協力してスムーズにマッサージを行え、一息をつくカンナの姿があった。
「手当てはですねーこうやって、『治ります様に』って強く願いながらかけるんですよー」
「治りますようにーなのだー」
「そうですそうです〜その調子ですよー」
おっとりとした口調のクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)がポムクルさんに応急手当などを指南している。
その横ではサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が銃の使い方を教えていた。
「誰かを助けるため、私たち救護係りも時には武器を使わなくてはならない。それは肝に銘じておいてほしい」
「ならしゃげき訓練を受けたほうがいいのかー」
「となると主戦場にでることになる。あくまでも緊急時に使うのだ」
丁寧な口調でポムクルさんたちに銃の使い方を説明し、同時に怪我人を守り逃がす方法を教えていくサイアス。
頭の中では、ポムクルさんサイズの銃を製造してくれるよう打診しようとも考えていた。
「こんな感じなのかー」
「そうですよ。中々筋がいいですね」
「えへへなのだー」
「……あー可愛いです」
耐え切れず、ポムクルさんを抱き上げて頬を摺り寄せるクエスティーナ。やられているポムクルさんもどこか嬉しそうである。
そのままクエスティーナはポムクルさんをもふりまふり可愛がりながら怪我人の手当てをしていく。
「はあ、この暑い中みんなよくやるねー」
手を仰ぎながらビデオカメラを回して、訓練・補給・救護の様子を撮影するエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)。
「でもレジーヌも頑張ってるし、思いっきり遊ぶわけにもいかないもんね〜……」
撮影をするエリーズのカメラにレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が映される。
「はい、こちらが補給です。えっと……水だけでなく塩分も補給してくださいね」
常に笑顔で、訓練に参加している兵たちを労わるよう接するレジーヌ。だが、ただ補給をしているだけではなかった。
訓練の状況を把握し、次の補給地点ではどれだけの物資が必要かを予測、移動中に準備を行い効率的に補給をする。
このレジーヌの行いによって、全ての補給地点でスムーズに補給が行われていた。
素晴らしい功績、ではあるのだが。
「あのー補給をー……」
「え、ええと、すす、すいません……! ここ、これ……!」
男性の訓練兵が来るたびに帽子を深くかぶり、ぎこちない動作で補給を行うレジーヌ。
「あれがなければもっとスムーズなんだけどねー……というか、レジーヌを困らせるなー!」
そして、レジーヌを困らせる?訓練兵に【嫉妬のミサイルポッド】が飛んでいき、嫉妬の炎が爆発するのだった。
「順調のようだな」
「ええ。現在は市街戦を想定したゾーンで傭兵弾と交戦中です」
「契約者たちを中心に陣形を形成し攻撃、直に突破するでしょう」
飛空艇の上で行軍を見守り、指揮する鋭峰とルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。
「団長。一つ、よろしいでしょうか」
ダリルが真剣な面持ちで鋭峰に話しかける。
「なんだ?」
「ポムクルさんの一部を教導団で預かり、継続しての訓練や実際の教導団の活動に参加してもらうのはどうでしょう」
「……一時の訓練では伸びるものも伸びぬ、ということか」
「可能性はおおいにあるかと。ご検討頂ければと思います」
鋭峰に礼をして頼むダリル。
「本人たち次第の部分もあるが、考えておこう」
「なるほど。では、もし実現するなら私がポムクルさんたちを指導しましょうか?」
話を聞いていたルカが笑いながら問いかける。
「いや、ルカが面倒を見ては団長専属のポムクルさんになりかねん」
「それもいいじゃない? それに、ダリルでも同じようなものだと思うけど」
「ポムクルさん親衛隊か。忍ばせて置くにはもってこい、だな」
顎に手をやり真面目に考え始める鋭峰。可愛いポムクルさんに守られる鋭峰、面白い構図である。
「って言ってる間に、市街戦突破しましたね。もうすぐ最後ですが、気が緩んでないといいんですけど」
「何か仕掛けているのか?」
鋭峰の問いにふふんと言いながらルカが答える。
「ええ。ただで終わらせるには、もったいないですしね」
「何を仕掛けている?」
「それは、秘密です」
どうやら最後まで気の抜けない訓練になりそうだ。