空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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『泣いたり笑ったり夢見たり筋肉痛ったりツアー 5』

 ルカの言うとおり、行軍は確実にゴールへと近づいていた。
 皆ヘトヘトながらも気力を振り絞り走り続ける。その中を一際元気にパルクールしながら駆ける教官がいた。
「ほらほらー! せっかく障害物がこんなに設置してあるんだから、どんどんパルっちゃわないとー!」
 アクロバティックに飛び跳ね回る鳴神 裁(なるかみ・さい)。最初から参加しているが疲れを感じさせない身のこなしだ。
 パートナードール・ゴールド(どーる・ごーるど)を身に纏い、訓練兵やポムクルさんをしごきまくっていた。
「もうむりなのだー」
「うごきたくないのだー」
 と不平を漏らしつつ、見事にパルクルポムクルさんの姿が。名づけて、パルポムクルさん?の誕生である。
「あんまり襲いと蒼汁(アジュール)を飲ませちゃうよー!」
 単語から発せられる不穏な空気を察知した訓練兵たちも必死にパルクっていく。
 風前の灯は最後に激しく燃え盛る。……そうでないといいのだが。
「おっ! みんな元気になった? よーしそれじゃもっともーっとパルクっていくよー!」
「あらあら、元気な教官さんですね」
「これは負けてられないでござるな!」
「若さ、にはまだまだ負けてられませんしね」
 ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)音羽 逢(おとわ・あい)ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)が元気な裁を見ながら併走していた。
「ところで、ソフィアさんはどうしたんですか?」
 ルースのパートナーソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)がいないことに対して質問をするナナ。
「ああ、彼女なら今頃は……」

〜〜〜どこかどこか、それは訓練とは違う場所〜〜〜

「あークーラーにー、せんぷーきー。最高です、ニート最高ですねぇ〜」

〜〜〜そして、場面は訓練場へと逆行する……〜〜〜

「という感じでしょうね」
「ふむ。もったいないでござるな。せっかくの訓練でござるのに……むっ!」
「よこしまなのだー」
 逢とポムクルさんがナナに注がれる邪な視線を感知する。
「こらー! ナナ殿をそのような目でみるなでござる!」
「なのだー」
「ご、ごめんなさいー!」
 そう言って逢とポムクルさんがナナとルースから離れていく。
「あらあら」
「……訓練は仕方ない、のですがね。はあ……」
「ルースさん? ため息した分だけ幸せが逃げますよ? それに、訓練が終われば後は自由です。だから、ね」
 ナナの手がルースの手に重なる。
「ほら、ポムクルさんもあと少しです。頑張りましょう?」
「がんばるのだー」
 もう片方の手はポムクルさんと。
「ナナ……」
「あら、まるで家族みたいですね。……いつかそうなれると、いいですね」
「……! ああ、そうだな! よーし! ぶっちぎり一位だー!!」
 やる気まんまん(いろんな意味で)になったルースが思い切り駆け出す。
「ふふっ、これで部隊内で最下位になることはないでしょうかね」
「見事なゆーどーなのだー」
 ポムクルさんの言葉に微笑みながらルースの背中を追っていくナナ。
「きたきた、もうゴールだと思ってる連中が」
 幸せそうなルースたちや気を抜いている訓練兵を見た謎の人物がしめしめと笑う。
「さてみんな。準備はいいかしら」
「まっかせとけ!」
「ああ、任せておけ」
「準備は万全です」
 謎の声にジェンナーロ・ヴェルデ(じぇんなーろ・う゛ぇるで)エドワード・ウォーターバーン(えどわーど・うぉーたーばーん)フランシス・ウォルシンガム(ふらんしす・うぉるしんがむ)が景気よく答える。
 彼らの周りには『ようこそ!』『おめでとう!』『歓迎しよう、盛大にな!』等と労いの言葉が書かれた横断幕がかけられていた。
「おっと、来たぜ! 腕の見せ所だな!」
 横断幕を見た訓練兵たちの顔は確実に緩んでいた。
 それを助長させるようにジャンナーロたちが盛大に歓迎する。
「ナイスファイト、ようこそ楽園へ! ヴァイシャリー湖も祝福してるぜ」
「水やら塩飴やらも飽きたろう。ここからは炭酸飲料にこんがり焼いた肉! 野菜! なんでもあるぞ!」
「どうぞこちらへ。貴方たちにはその権利がある、ええ、美女の労いを受ける権利が、ね」
 フランシスの言葉の後に、訓練兵たちが目撃した人物。
 それは儚げな幻の少女、エルピスだった。さらりとした緑の髪と金色の瞳が温かく訓練兵たちを見て、微笑む。
 それだけ訓練兵の心はほぐれていく。(決してロリコンとかではなく、エルピスの笑顔の癒し効果である)
「さあ美少女の微笑を見ながら飲んで喰えや!」
「ここからは無礼講! 教官も訓練兵もポムクルさんもなし!」
 ジェンナーロとエドワードがその場を焚きつける。
 その言葉を信じきり、多くの訓練兵たちが肉をかきこみ、炭酸飲料をガブ飲みし、エルピスに癒される。
 けれど、違和感を覚える者もいた。
「何か、おかしい気が……」
「言葉にはできない、そんな違和感ね」
 周りを警戒するセレス・クロフォード(せれす・くろふぉーど)シェザーレ・ブラウン(しぇざーれ・ぶらうん)
 得体の知れない不気味さ、違和感を覚えながらもその正体を暴きかねている。
「確かにこの訓練は厳しかった。空からの急襲、匍匐、市街戦、パルクール……」
「それらは全て、私たちの経験になったことは明らか、だが……」
「……その、なんというか」
「教導団にしては手ぬるい、か?」
 後ろから聞こえてきた声に振り返る二人。そこにはウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)の姿があった。
「ああ、そうだな。確かに訓練としてみればきついだろう。だが、教導団の特別訓練にしては、ぬるいな」
「あまりそのようなことを言うと、本当に起こってしまいますよ? 何かがね」
 冷ややかな笑みを浮かべながらジェノが笑う。
「本当に、起こるとは?」
「そりゃ当然、予期せぬ何かさ。さてはて、ここが踏ん張りどころかな」
 ウォーレンは湖の方を見やる。それに習うようにセレスたちも湖を見る。
「……あれは!」
「なるほど。そういうことだったのね!」
 
「時は満ちたわ。彼らの油断した横っ腹に穴を空けるね」
「よーし! その幸せな顔もここまでなんだから!」
 湖で待機していた姉妹シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)ルクレツィア・テレサ・マキャヴェリ(るくれつぃあてれさ・まきゃう゛ぇり)が遂に牙をむく。
 二人は鯱と化し、特殊舟艇作戦群【Seal’s】を率いて油断した訓練兵たちを襲撃。
「わ、っわあああ!! 鯱が襲ってくるううう!」
「いちだいじなのだー」
 突然の出来事にそれまでバカンス気分だった訓練兵やポムクルさんたちが慌てふためく。
「慌てないで! まだここに到達するまで時間はある!」
「その通りだ。準備をして迎え撃とうぜ?」
 セレスとウォーレンの掛け声が場に響く。まだ混乱している者も多いが、少なからず迎撃の準備を整えだす者もいた。
「怪我をしても、まあ治してあげますよ。私の見える範囲であればね」
 ジュノは怪我をした者を回復させる準備を整える。
「なに、無理に戦うことはない。奴らは水の上が主戦場だ。そう簡単に陸で戦おうとはしないさ」
「だからポムクルさんたちは先に行って。すぐに追いつくから」
「いやなのだー」
「一緒に戦うのだー」
 迫りくる敵大部隊にも臆せず、ポムクルさんたちが攻撃の態勢をとる。
「……わーん! 可愛い! 抱きしめちゃうっ」
「シェザーレ! 今はそれどころじゃないわ!」
 程なくして、激突する。未だ完全な統率のとれぬ訓練兵たちと待ち構えていた【Seal’s】。戦いの明暗は既にわかっていた。
「だからこそ、ここは撤退ってな!」
「各自無理せず逃げ切りなさい。ここは退くべき時です」
 ウォーレンとジュノが訓練兵たちをフォローしながら撤退させていく。
「そうはさせない!」
 獣人化を解いたルクレツィアが二人に追い縋る。
「待ってお姉さま。思った以上に撤退が早い。完全に瓦解させるのは無理よ」
「……あの四人にしてやられたわね」
「そうね。まさか半数程度しか脱落させられないなんて、予想外だったわ」
 撤退しつつ、本当のゴールへと向かっていく訓練兵たちを見つめて微笑むシルヴィア。
「……頑張りなさい。最後まで」
「……」
 二人の側にエルピスがやって、いや、エルピス?が。
「……っぷはあ! いやー騙した騙した! 皆、お疲れ様!」
 エルピス?の正体。それはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だった。
「誰にもバレなかったみたいだし、襲撃作戦も上々じゃない? この服装もねっ!」
 『えるぴす』と書かれたスクール水着を指差して、満足そうに笑うローザマリア。
「ま、俺たちは一言もゴールだなんて言ってないし」
「油断した奴らが悪い、ということだな」
「まあ、どれくらいが本当のゴールをくぐれるか、見ものだね。……それに」
 ローザマリアは目撃していた。
 【Seal’s】にやられた訓練兵たちやポムクルさんが協力し、立ち上がってゴールに向かっていこうとする姿を。
(……単純な力とか、そういった強さは必要。だけど、諦めない強さも見につけて欲しかった。
その点では、この訓練は有意義になりそうね)
 そう考えて、訓練兵たちに活をいれながら手を差し伸べるローザマリア。
 なのだが、ただ一人。フランシスだけはいつまでたっても肉を焼くことをやめなかった。