空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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第1章 夏だ! 湖だ! バカンスだ! 6

「それじゃ、いくよー!」
 浜辺でビーチバレーに興じるリオート・ラグナイト(りおーと・らぐないと)は、オレンジ色のビーチボールを打ち上げた。
 頭の上に乗っているポムクルが「なのだー!」と同じように声を出した。すっかりリオートになついているポムクルだ。リオートもそれほど悪い気はしていなかった。
「リオくん! こういうのもたまには悪くないでしょ?」
 ビキニ姿の蓬莱 ありす(ほうらい・ありす)が声をかけた。
 スタイルはそこそこだ。だけど決して悪いという意味じゃない。
 リオートは肩をすくめた。
「うん、悪くない」
 ビーチボールは影月 銀(かげつき・しろがね)のほうに飛んでいった。
 銀はすかさずボールに手を伸ばした。彼は以前『何事も本気でやるから楽しい』と聞いたことがあった。なら、その通りにやってみよう。きっと楽しくなれば、ポムクルさんたちも喜ぶはずだ。
 疾風迅雷の速さで、陣は遠くに伸びたボールを拾いあげた。
「銀!? そんなに本気でやらなくてもいいんだよっ!?」
 思わずミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)は声を張り上げた。
 銀は眉を曲げた。
「む、そうなのか?」
「ゆる〜くやっていいんだよ。それが楽しいんだから」
「しかし、『何事も本気でやるから楽しい』とも聞いた」
 目の前のジュース缶がいきなり爆発するのを目の当たりにしたように、銀はさらに眉間に皺を寄せた。
「それはその……そういうときもあるけど。でも、今日はちがうの。バカンスなんだから」
「バカンスだと違う?」
「そういうこと」
 銀はいまだに理解しかねているところがあったが、とりあえずうなずいておいた。
 バカンスは違う。心の中にそれを刻みつけた。
 ボールは続いて山葉 加夜(やまは・かや)たちのほうに飛んでいった。
「いくよ〜、たいむちゃん!」
 加夜は両手を組んでボールをぽーんと弾き返した。
 跳ねたボールは空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)ことラクシュミ・ディーヴァのもとまで飛んでいった。
 冷房完備のたいむちゃんスーツを着たラクシュミは、動くのが少しつらそうだった。決して身動きの取りやすい格好とは言えない。
「あわわわっ……」
 慌ててボールを追いかけるラクシュミに、ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)が呼びかけた。
「たいむちゃん! 一緒に打とうよ! 合体技〜! アタ〜クッ! ってね!」
 ラクシュミはそれにうなずいた。二人の息がぴったり合う。
 腰を落として両手を組んだ二人の拳は、左右から一緒にバシィッとボールを弾き返した。
 が、二人が思っていた以上にスピードが出た。ボールの勢いは強く、慌てて加夜が声を出した。
「あ、危ないですよ〜っ!」
 だけど、ボールは見事に相手の手に当たり、くるくると回って、まるでバスケットボールのように人差し指の先に着地した。そのまま回り続けるボールを見ながら、発光する美少女のエルキナは一言うなった。
「これがビーチバレーね。なかなか面白いじゃない」
「は〜、良かった……エルキナさん、運動神経が良いんだね」
 たいむちゃんはほっと胸をなで下ろした。
「当然よ。これでも、戦いは専門なんだから」
 にやりと笑ったエルキナは、ピシッと指先を弾いてボールを飛ばした。
 まるで銃弾みたいに飛んだボールはボンッと加夜の胸に収まる。
「すごっ……」
 エルキナは驚嘆した加夜たちの視線に見つめられて、くすっと笑った。



 新婚旅行で訪れる場所と言えばどこを思い浮かべるだろう。
 ハワイ? グアム? いやいや古い。
 ヨーロッパ? 東南アジア? ただの旅行かよっ!
 何を言っているのか若人よ。どこに行くのかではない、誰と行くのかが重要なのだ。
 元LA市警SWAT隊員であるジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、愛する新妻フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)と共にヴァイシャリー湖畔を訪れている、のだが―――
「み……」
 尋常じゃなく緊張している。愛妻が水着姿だからだろうか、それとも手を繋いで歩いているからだろうか。
「みずうみ……だな……」
 煌めく水面でも、さわやかな風でもない。ひきつった顔から出た言葉は、まさかの事実確認のそれだった。
「いや……違う」
「違う? 湖がですか?」
「……いや………………湖だ、間違いない」
「ふふっ。はい、湖ですね」
 照れている様が可愛らしい。それを誤魔化すかのように缶ビールを一気に呷るあたりは可愛いくもあり、カッコ良くもある。
 もっともっと一緒に居たい、傍に居たい。そう思えることが何よりも嬉しいことだとフィリシアは噛みしめていた。
「わたくしにも頂けるかしら」
「ん? あ、あぁ、これか。いや、ちょっと待て」
 そう言って彼は軍服のポケットからもう一缶、いや、二つ、三つとビール缶を取り出した。
「まぁ、いくつあるのかしら」
「2人で飲もうと思ってな。これで全部だ」
 そう言って取り出した一つを手渡そうと―――
「そちらを頂けますか?」言って指差したのは飲みかけの缶だった。
「いや……これは、その」
 これを渡すという事は、彼女がこれを飲むという事は、口を付けるという事は自分が口を付けた所に彼女の唇が触れるということであり、それを世間一般では間接キスと称するもので―――いいや待て待て違ういや違くない、問題はそう、自分が先で彼女が後という事は間接的に相手の唇に触れるのは必然的に後に触れた者ということになるわけで、どうあっても何が起ころうとも自分が彼女の唇に触れる事はない、彼女だけが我が妻だけが自分の自分が触れたその箇所に自分に代わって自分の代わりに彼女の唇を―――
「どうかされました――――――!!! ………………んむぅ」
 酔いも回って混乱してて。
 それでも最後は男らしく、妻の唇を奪ってみせたのだった。


 双丘が男を魅了する。
 胸部のそれ、臀部のそれ。大きな一つのそれではダメだ、二つあるからこそに美しい。
 双眼鏡を覗きながらに大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は女体の美麗さについて、論理をこねくり回していた。
 浅瀬で水遊びをする美女、ビーチバレーをする美女に笑顔で散歩する美女美女美女。びしょびしょなら尚良しだが、この際贅沢は言うまい。美しいラインを堪能できるだけでも感謝しなければなるまいて。
「剛太郎」
 大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)の声がした。声の聞こえ方からして背を向けたまま言っている、といった所だろう。いつもよりボリュームが小さいのも、きっとそのせいだ。
「ビール、取ってくれるか」
「了解」
 ゲルバッキー印のビール。パッケージも変だが味はもっと変だ。独特と言うか、かんに障ると言うか。とにかくイラッと来る味だ。
「ペース、速いんじゃないか?」
「そうかのう? まぁ、天気もロケーションも最高とあっては酒もすすむというものじゃ、あっはっは」
「ロケーション? って、何を覗いている?」
「覗きっ?! 失礼な、わしはそんな事はしておらん」
 いまさら遅い。横顔しか見えなくても、頬はだらしなく緩んでいる。明らかに景色を堪能している者の表情ではない。
「ご、剛太郎こそ、そ、双眼鏡で何を覗いていたんじゃ」
「じ、自分はただ美しい湖畔を眺めていただけで、決して女子を見ていたわけでは―――」
「わしだってそうじゃ―――」
 2人が苦しい言い訳合戦を始めた時だった。2人の前を発光している美女が通り過ぎて―――。
おっ
むふ
 反射というのは恐ろしい。
 目視できる距離だというのに双眼鏡を構えて、2人揃って双丘を追っていた。
「………………」
「………………」
 見ていた部位は違うのかもしれないが、もはや言い訳は不可能だった。
「はは……ははは」
「あははははは」
 顔を合わせて苦笑い。気まずい空気から逃げるように2人は一気にビールを呷るのだった。