空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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第1章 夏だ! 湖だ! バカンスだ! 2

 ヴァイシャリー湖畔に並ぶ屋台通りでは、自ら店を出している契約者たちもいた。
 ラーメン屋台を出す渋井 誠治(しぶい・せいじ)はその一人である。
「へいらっしゃい! 渋井ラーメン一丁ね!」
 “渋い”と“渋井”を暗にかけているとも知れないラーメンを提供しながら、誠治はいそがしく立ち回っていた。
 頭にはタオルを巻いて、腕まくり。いかにもラーメン屋という出で立ちである。
 もちろん単なるラーメン屋で終わるつもりは、誠治には毛頭ない。夏と言えば涼しさ。涼しいと言えば冷やし中華。『冷やし中華、始めました』ののぼりも忘れないのが、誠治の商売意欲だった。
「って、ヒルデ姉さんはどこ行ったんだよ! この忙しいときに!」
 ラーメンがよっぽど珍しいのか、わらわらと客が群がる中で、誠治は一人で客と応対する。が、ふと視線を後ろに送ってみれば。

 ずぞー!

「…………」
 空のラーメンどんぶり5杯を重ねている水着にパーカーを羽織ったヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)の姿があった。
「……ヒルデ姉さん」
 誠治の非難めいた視線に、ヒルデガルトは最後の一口を食べ終えて、こほんと咳払いする。
「さて、お仕事お仕事」
「…………」
 何事もなかったかのように、ヒルデガルトは接客をはじめた。
 誠治のラーメン屋台はたいへん好評で、バカンスを楽しむポムクルたちもカウンターの上に乗って小さなどんぶりでズルズルと麺をすすっていた。
 いつの間にかヒルデガルトの頭の上にも、一匹のポムクルさんが眠っている。
 冷やし中華の麺を冷水で冷やす誠治も、その姿を見てくすっと笑ってしまった。
「ヒルデ姉さん、似合ってるよ」
「……そう?」
 ヒルデガルトは首をかしげた。
 それでも頭の上のポムクルさんが落ちないように気を使っているところが、微笑ましい。
「ほい、冷やし中華一丁! お待ちー!」
 キンキンに冷えた冷やし中華が、カウンターにドンっと置かれた。



「夏は氷! やっぱりかき氷だね!」
 両手を腰につけた空路井 みふゆ(うつろい・みふゆ)が、かき氷屋台の前で主張する。
 水着の上からメイド服のエプロンドレスだけを身につけて、みふゆは夏のメイドさん格好だった。
 一方、隣にいるパートナーのフローラ・アスタリクス(ふろーら・あすたりくす)もエプロンを身につけている。
 ただしこちらは腰だけのもので、水着は『2−2 ふろーら』というワッペンの貼られたスクール水着だった。
 なぜ、ということは問うてはならない。すべてはみふゆの趣味である。それでおおよそ説明は終わるのだった。
「しくしくしく……どうして私がこのような格好を……」
「いいじゃないのフローラさん! わがまま言わないの!」
 どっちが、ということははなはだ疑問だが、とにかく二人はかき氷屋台を始めた。
 『氷』とでっかく書かれたのぼりを立てて、かき氷機やシロップを用意する。シロップはイチゴ・メロン・レモン・ブルーハワイの四種類だ。追加料金で練乳もつけられる。オーソドックスなかき氷屋だが、それが売り。かき氷作りはみふゆが担当し、接客はフローラが担当することになった。
「い、いらっしゃいませー……」
「フローラさん! 声が小さい!」
「い、いらっしゃいませーっ!」
 みふゆのスパルタ教育で、フローラは恥ずかしさを押し殺して呼び込みをした。
 おかげでその萌える仕草にもやられたお客さんたちが、どんどんやって来る。
 小さなお客さんのポムクルさんも、ぴょこっとカウンターに顔を出して、かき氷を食べたそうな無垢な瞳を向けた。
「うっ、こ、これは、なんというポムクルビーム……」
 フローラは思わず一歩だけ足を引く。
「よーし! ポムクルさんたちには一杯だけ無料だー!」
 みふゆが宣言し、ポムクルたちは最初の一杯だけは無料で食べられるようになった。
「美味いのだー!」
「絶品なのだー!」
 かき氷はポムクルたちにも好評のようで、すっかりお気に召している。
 中には慌てて食べたことで、耳がキーンとなってしまっているポムクルもいた。
「次はかき氷の作り方も教えてあげるね!」
「わーいなのだー!」
 みふゆの笑顔の一言に、ポムクルたちも嬉しくなって笑ったのだった。



「あ〜ん、カワイイ〜!」
「なのだ?」
 ラムネを売る屋台の中でひときわ大きな声を出したのは五十嵐 理沙(いがらし・りさ)だった。
 なぜかというと、彼女の目の前にとんでもなく愛らしい生物がいたからだ。
 その名も猫耳メイドなポムクルさん。
 この日のために理沙が用意した衣装で、猫耳とメイド服を身につけたポムクルさんはきょとんとした顔で首をかしげていた。
「理沙、あまりはしゃぎすぎるとお客さんに引かれてしまいますわよ」
「あっと……そうだった……」
 クーラーボックスに氷とラムネを用意していたセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)に言われて、理沙は理性を取りもどした。
 ついつい夢中になり過ぎていたらしい。それもこれもポムクルさんがカワイイせいだが、商売をおろそかにするわけにはいかない。
「いらっしゃいませー! キンッキンッに冷えたラムネはいかがですかー!」
 理沙は気持ちを切り替えて、客の呼び込みをはじめた。
 ポムクルさんは小さい。おぼれると困るため、クーラーボックスからラムネを取り出すのはセレスティアと理沙の役目だった。その代わり、ポムクルさんはカウンターの上でお客さんにラムネを手渡す。
 んしょ、んしょ、と運ぶ姿が愛らしくて、理沙は思わず手を止めてにんまりしてしまった。
「理沙、顔つきがだらしくなくなってますわよ」
 セレスティアに言われて、ハッとなる。
 いかんいかんと、理沙は首を横に振った。
「でもでも! カワイイわよね〜! ……一匹、持ち帰ったらダメかしら?」
「ダメに決まってます。イーダフェルトの小人さんなんですからね」
「ちぇっ……残念だな〜……」
 理沙はどうやら、ポムクルを自分の経営するメイド喫茶のマスコットにしたかったらしい。
 自分がお持ち帰りされるかもしれない話をしているとは知らず、猫耳メイドなポムクルはぽかんと首をかしげていた。