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リアクション
推理研、集合!
お遊びに余念がないと言われればそれまでの事であるが……。
百合園女学院推理研究会と名のついた部活に参加している霧島 春美(きりしま・はるみ)にとっては、それすらもまた推理研究の一環である。人が集まるところに事件あり。頭脳は大人で見た目は子どもの多い契約者たちの集まるところにも、また事件は起こりうる。そんなわけで――「参加しない?」と誘われたから「うん、行く行く!」と彼女は二つ返事で快諾した。
まあ結局のところ……学生たちの集まりなんてそんなものかもしれなかった。
「というわけで、かんぱーい!」
春美は集まったメンバーを前にグラスを頭上へと掲げた。
その勢いで、カシャンっとグラスが音を立てる。もちろん他の仲間たちも一斉にグラスをあげて、それぞれが隣同士や対面相手のグラスと打ち鳴らしていた。
それらを見ながら、しっぽをふりふりしてるのは春美のパートナーのディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)である。
「みんな久しぶりだよねー。こうしてまた集まることが出来て、ボク超うれしい!」
「ほんとほんと。たまにはこういうイベントもないとね」
そう言って、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)がディオネアの言葉に頷く。
彼女たちは皆、推理研のメンバーだった。
推理研とはもちろん、前述の『百合園女学院推理研究会』の事である。ブリジット本人が設立した百合園女学院の研究サークルで、もちろん百合園と名がついてはいるが、他の学校の生徒たちも参加可能である。無論――男子も然り。
そういうわけで、ここのメンバーには男子生徒もいる。
ちょうど今回の忘年会に参加している七尾 蒼也(ななお・そうや)がその一人だった。
「いやぁ、こういう集まりもたまには悪くないよね。……あーあぁ……これでジーナでもいれば、もっとテンションが上がるのになぁ」
「もう、蒼也ってばすぐそんなこと言うんだから! いいじゃない、別にジーナがいなくたって……。他のみんなが楽しませてくれるよ!」
蒼也の正直すぎる一言に苦言を漏らすのはペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)である。
彼女はあまりにもため息の多い蒼也に向けて、むうっとした顔をしてみせた。
「いや、そうなんだけどな……」
苦笑する蒼也である。が――やはりため息は尽きない。
はぁっと息を吐きながら、彼は近くにあったカツ丼をいただきまーすと食べ始めた。
「あ、ところでみんな! 言い忘れてました!」
その時、口を開いたのは春美である。
彼女はどかっと馬鹿でかいスピーカーをテーブルの上に置いた。
「ついさっき、あゆみさんから連絡が来たんでした! ついでだから、みんなに聞こえるようにここに流しますね!」
そう言って春美はスピーカーの電源を入れる。
そのスピーカーの奥から流れてきたのは、月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)の声だった。
『はろはろー。はるみん? みんな? 聞こえる?』
「はい、聞こえてますよー」
春美が答えると、あゆみの良かったと安堵する声が返ってくる。
彼女も遥か遠い月に行きながら、みんなのことを心配していたようだった。
――そう。あゆみは月に行っているのである。
どういうことなのかと言えば、彼女はいずれ宇宙の銀河調整官になるのが夢だったのだ。それがついに叶い、(自称)銀河パトロール隊の独立レンズマンとして宇宙に飛び立っていったというわけだった。それにはパートナーのヒルデガルト・フォンビンゲン(ひるでがるど・ふぉんびんげん)もついていっている。彼女はあゆみの話が終わると、春美に向けて感謝を述べた。
『春美さん、感謝しています。あゆみのわがままを聞いて、わざわざこちらの辺境の星までやって来てもらえるなんて……』
「ええ? そんなこと気にしなくていいですよー」
あははと笑う春美。
そうである。彼女もまた、あゆみに続いて銀河へと旅立つ一人だった。
というのも、あゆみに誘われたからである。彼女は調整官の一人に春美を推薦し、これからは二人で一緒に宇宙の悪と戦うことを約束したのだ。おかげで、春美のスケジュールはバタバタだ。忘年会が終わったらすぐに飛び立つ準備をしなくてはならない。推理研のメンバーにも、お別れを言う必要があった。
『こうしてみんなが集まって喋るのも、もしかしたら最後かもしれないね。ちょっと寂しいな』
「もう、あゆみちゃんったらそんなこと言って……寂しくなっちゃうじゃないですか」
あゆみの言葉に、春美もついセンチメンタルな気持ちになる。
それを吹き飛ばすように、あゆみは続けた。
『でもでも! 宇宙にはまだミステリが残ってるからね! なにかあったらまたみんなの力を頼っちゃうかも! レンズマンにもホームズにもね、たくさんのワトソンが必要なんだから!』
『そうですね……』
ヒルデガルトが、音声の向こうで微笑むような声で言った。
『私たちの未来はまだまだどうなるか分かりません。未来は約束されたものじゃないのですから。でもだからこそ、またいつかお会い出来る時が来ることでしょう。それを、楽しみにしようじゃありませんか』
二人はそう言って笑ったようである。
お互いの笑みが広がったような気がした。
『それじゃ、みんな、楽しい未来をね! 今日も明日も明後日もみんなの進む道が明るくありますように! クリアーテル!』
最後にあゆみの決め台詞が流れて、スピーカーから彼女たちの声は聞こえなくなった。
少し、推理研のメンバーたちの間に空白の時間が流れる。
だがやがて――春美が目元の涙をぬぐって顔をあげた。
「みんなの未来……あゆみさんも応援してくれているんですね」
それにみんなも頷く。
そうして時間は流れて――……いきそうだったが。
どうやらそうはいかないようだった。
「ぐっ、ううっ!?」
「蒼也さん!?」
いきなり腹を押さえた蒼也がバタンッと倒れる。
その身体が痙攣していて、指先が地面に何か文字のようなものを描いていた。
「これはっ……ダイイングメッセージ!?」
なぜかミステリー調の音楽が流れて、ブリジットたちがハッと息を呑んだ。
すると、慌てて彼女たちは動き出した。ペルディータは黄色いテープを取り出して立ち入り禁止区域を作り、春美は探偵帽を取り出してそれをきゅっと頭に被る。なぜか橘 舞(たちばな・まい)はこぽこぽと紅茶をカップに淹れていて、みんなにそれを配っていた。
「あのねぇ、舞……そんなことしてる場合じゃ……」
「え、でも……推理には休憩も必要よ。お茶ぐらいは飲まないと」
なぜかのほほんと言う舞である。
まあ、それはそれで必要かもしれないが――ともあれそれにいちいちツッコんでいる暇もなくて、ブリジットは仕方ないと諦めた。それに今は、とにかく蒼也の死因を確かめるのが先決だ。彼女はすっと膝を降ろすと蒼也の身体に触れ、それから目を見開いた。
「まだ暖かい……死後硬直も始まってないわ」
「ということは、犯人はまだ会場にいるってことね」
ベルティータが真剣な眼差しで言う。
そりゃいま死んだばかりなのだから当たり前だろうと言わざる得ないが、それはそれ。事の流れという奴である。まず死因を確認することから、推理は始まるのだ。
「外傷はないようね。カツ丼に毒が?」
「おにぎりの食べ過ぎかなー?」
「待ってみんな。でも、カツ丼に毒が入っていたとしたら、私もカツ丼を食べたから、彼にだけ毒を食べさせるのは不可能なはずよ」
ペルディータの一言と、ディオネアののほんとした言葉に、冷静沈着な返答を返すブリジット。事件は暗礁に乗り上げた。
が、しかし――
「ふっ、ここはついにホームズの出番のようですね」
「春美!」
いつの間にかホームズ仕様のおもちゃパイプと天眼鏡を取り出しつつ呟いた春美に、ブリジットがまさかといった顔をした。
「あなた、犯人がっ……!?」
「ふふ……このホームズに解けない謎はないのです」
得意げな顔をする春美。
そのホームズが、名推理を今まさに披露しようとした。
が、その時――
「…………だ、誰でもいいから……とにかく助けてくれないかな……」
「………………」
やけ食いで腹痛を起こしただけの蒼也が、呻くように言ったのだった。
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