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リアクション
忘年会、アイドル歌います!
忘年会会場には、とあるステージが設置されている。
それは『忘年会・アイドル特別ライブ特設ステージ』であった。
なんだそれは――と言うことなかれ。
これはこの日の為に集まってくれた数々のアイドルたちが歌を披露するべく作られた、特別なステージなのであった。すなわち、これこそ忘年会に集まるファンたちの醍醐味。これを目的にして、わざわざイーダフェルトへと足を運んだ者も少なくないぐらいだった。
そういうわけで――
「みんな! 私たちの歌を聴けー!」
ステージ上に立った綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は雄叫びのような声をあげ、それにファンたちが声援を返す。その声援を受けながら、彼女は隣のパートナーであるアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)に目線を向けた。
そこには、二人だけにしか通じない視線のメッセージがある。
お互いに頷き合い、マイクを手にするさゆみとアデリーヌ。
衣装はアデリーヌが用意してくれていたもので、二人は色違いのそのアイドル衣装に身を包み、得意の持ち曲のうち二つを披露した。
「みんなー! 楽しんでいってねー!」
さゆみは観客へ向けて大声を飛ばす。
曲は、絆をテーマにした二つのものだった。
一つはアップテンポの曲で、そしてもう一つはしっとりとしたバラード調の曲である。
そのどちらもがさゆみとアデリーヌの声を軽やかに乗せてくれて、さゆみは徐々に気持ちが高まってきた。まあ――それは彼女が軽く酔っ払っているからでもあるのだが。
アデリーヌはやれやれ……と思った。
そもそもさゆみは最初は歌うつもりではなかったのである。
だからこそ酒を飲んでしまっていて、今ではそれによって勢いづいてしまっている。
ある種――それはそれでパフォーマンスとしては成功しているのでいいのだが、果たしてその勢いがどこまで続くかどうか。
(……せめて倒れないようには、見守ってあげないといけませんわね)
そんなことを思いながら、アデリーヌはさゆみに続いて歌声を乗せた。
曲と共に、歌声はステージのはるか遠くまで響き渡っていった。
――それからまあしばらくは、アイドル歌手たちの独壇場である。
さゆみたちの次にステージに上がったのは、下川 忍(しもかわ・しのぶ)、赤坂 優衣(あかさか・ゆい)の女性アイドルペアであった。……というよりかは、忍一人というべきだろうか。優衣は彼のために衣装とメイクを担当している。優衣のメイクで見事に男の娘アイドルに生まれ変わった忍は、ステージ上で素晴らしいパフォーマンスを披露した。
(ええい、こうなったらとことんやってやる!)
派手にメーキャップを施された忍は、半ばやけくそになる。
歌を歌いつつ、男の娘らしいかわいらしい踊りを踊ってみせた。
やがて観客たちは魅了され――次のステージを待ち受けることとなった。
次に登場したのは、忍と同じく846プロというアイドル事務所に所属する松本 恵(まつもと・めぐむ)だった。
「みんなー! 盛り上がってるかーい!」
恵は忍の後に登場すると、すぐに観客たちにマイクを向けてその熱気を煽った。
そして、次にはヒーローらしい変身ポーズを取る。
「いくよ……! チェンジブレイズガード!」
すると次の瞬間――
ガシィィィンッと大きな効果音を立てて、その場にヒーローコスチュームに身を包んだ忍が現れていた。
彼はポーズを取ると、同じヒーローのようなコスチュームに身を包む松本 優(まつもと・ゆう)と歌を歌い始める。それはアイドルヒーローらしい歌で、忍のかけ声に合わせて会場の皆も歓声をあげていた。
「ワァァァァ!」
「カッコイイー!」
ステージは盛り上がりを見せ、観客たちの声にも熱が入る。
しかしなぜか――歓声は子供たちばかりだった。
「さあ、みんな! 準備はいい!?」
そう言って他のアイドルたちに声をかけるのは赤城 花音(あかぎ・かのん)だった。
彼女はいま、歌に合わせたステージ衣装に身を包んでいる。
それは今日の為に特別に用意されたものであって、他にはない特注品だ。
そしてそれを見守るのは赤城 リュート(あかぎ・りゅーと)だった。
「花音、大丈夫ですか? リードボーカルなんて……」
「大丈夫大丈夫! まっかせといて!」
花音はそう言って笑顔で頷いた。
そうである。彼女は今回、他のアイドルたち皆を率いて歌うことになっていたのだった。それには彼女が作詞作曲した曲を採用した。
ダンスでエレクトな大胆なナンバー。
それを今回、全員で歌うのだった。
「よーし! いくよーっ!」
花音がそう叫ぶと共に――
ドォォォンッとステージ上にアイドルたちが一斉に飛び出した。
その中心にいるのは、もちろん花音である。
彼女は流れてきた曲に乗せて、ダンスと共にその歌声を乗せた。
君のココロ僕のココロ いくつもの旅を越えて来たね
見上げた空へちりばめた夢 永遠に色あせないで
この想いを響かせて 生まれた世界へ贈るよ
巡り来る輪廻の輪 描く未来の地図この手で創ろう
灯した蒼き炎の魂 この時代を駆け抜けて行く
感じる鼓動を解き放つ 確かな希望の光を掲げて
信じる事から始まる物語 明日の形は蜃気楼でも
それぞれに選ぶ意志 運命を切り開く真実
笑顔になれる不思議な言葉 全ての出逢いに…ありがとう
透き通る素直な願い 蒼空を翔ける祈りよ届いて
たとえもう会えなくても 繋がっているよ…創空の絆
そして歌の絆はどこまでもどこまで広がってゆく。
リュートはその歌声を乗せる花音をステージの横で見守りつつ……優しく微笑んだ。
(花音……僕らの未来の絆も……ずっと続いていきますように……)
歌は遠く――果てなく――
広い蒼空の向こうへと続いていった。
そして、イーダフェルトは猛スピードで、イーダフェルト2号へと追いついていったのだった。
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