空京

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帰ってきた絆

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帰ってきた絆

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年を忘れる宴3

 天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)次原 京華(つぐはら・きょうか)。二人は楽しそうにはしゃいでいる仲間の契約者たちを見ながら、のほーんとジュースやお菓子をつまんでいた。
「いやー、賑やかだねぇ。ね? きょーちゃん」
 尋ねられた京華は、んっと結菜を見る。
 その手には自慢の日本酒の入ったグラスが支えられていた。
「そうだなぁ。ま、せっかくだから結奈も酒飲めばいいのに」
 そう勧める彼女だが、結奈はあまり気が進まないように苦笑する。
「私、まだお酒の味とかよくわかんないから……」
 すでに成人していてお酒を飲める年齢ではあるのだが、結奈はあまり進んで酒を飲もうとはしなかった。というのも、すでにその味は試したことがあったからだ。
 その時の苦い思い出が、彼女の頭にはまだ残っている。
「そっかぁ。残念だなぁ」
 京華もそれを分かっているからか、無理に勧めようとはしなかった。
 代わりに彼女は、周りの仲間たちに日本酒を勧めている。
 その餌食となったと言うべきか、京華から日本酒を受け取って飲んでいたのは透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)のパートナーの璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)だった。
「いやぁ、透玻様。たまにはこういう場も良いものですね」
 そう言って、主人であり契約者である透玻を見る璃央。
 透玻はその彼ににこっと微笑んでみせた。
 それは、普段は冷たく冷然とした態度を崩さない透玻にとっては珍しいことだった。
「そうだな。確かにたまには、こういうのも悪くないかもしれないな」
「………………………………て、あれ? 透玻様、その飲み物ってもしかして」
 璃央は透玻の手に持つグラスに目を止めた。
 それはどう見てもアルコール成分のある飲み物で、しかも透玻はそれをぐびぐび飲んでいた。
 心なしか――顔も赤くなっているようだった。
「ひっくっ……大体だなぁ……私だってたまには……羽目を外したくなる時もあるんだぁ」
「そ、そうですね?」
「ぬあああぁぁぁ! 貴様等ぁぁ! これで最後な気がするからどんどんはしゃぎまくれぇぇぇ!」
「ひえぇぇ! と、透玻様が壊れたぁぁ!?」
 彼女はなぜか分厚い本を取り出し、それを乱読し始める。
 しかも周りのポムクルさんに命令を出し始めた。
「おいそこの小人ども! じゃんじゃん酒持ってこんかい!」
「ぐえぇぇ……と、透玻様……それは小人ではなくて私の首……!」
 なぜかポムクルさんと間違えた璃央の首を絞めながらである。
 結果――
「ぐぇっ……!」
 璃央は気絶し、昇天した。
 そのままばたんっと倒れる彼を無視して。
「……………………ふあぁぁ……飽きた」
 透玻はそのように呟いて、読書に戻っていった。

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は酒を飲みまくり、スイッチが入ってしまっていた。
 つまり――酒に踊らされているということである。
「いいぞいいぞー、もっとやれー」
「あーはははは! いいぞ姉ちゃんたちー!」
 そう言って彼女たちをはやしたてるのは衆人環視の男どもだ。
 でまあ、つまり……彼女たちが何をしているのかというと。
「あはははははは! ぱーっと脱いじゃいましょう!」
 二人とも、何やらストリップショーさながらに服を脱いでいたりした。
 もちろん、シラフというわけではない。
「去年の憂さは去年のゴミと一緒にってね!」
「んっ……んふぅ……セレンってば……だ・い・た・ん♪」
 むしろ彼女たちは酔いに酔いまくっていて、すっかり酩酊状態だ。
 顔は赤くなり、大胆なポーズも何のその。いつの間にか取り付けられたポールを使って、ポールダンサーの技を披露していた。
「うおおおぉぉぉぉ!」
 男たちの歓声があがる。
 そうこうしている内に、徐々に過激さが増してゆく二人。
 下着姿になった二人は絡み合い、胸を揉み合い、その唇と唇をそっと近づけた。
「愛してるわ……セレン……」
「ん……あたしも……」
 そうして、ねっとりと絡み合う二人のキス。
 男たちがひゃほおぉぉぉぉと盛り上がっていた。

 キラ・ガロファニーノ(きら・がろふぁにーの)ティア・ジェルベーラ(てぃあ・じぇるべーら)は宴会芸を見て盛り上がっていた。
 無論――この後にキラとティアの出番も控えている。
 ノリノリのキラに対して、ティアはおろおろしていて、自分の出番など出来ればなくなって欲しいと思っていた。というのも、宴会芸と言っても何をしたらいいのかさっぱり分からなかったからだ。彼女は次の自分の出番をびくびくしながら待っていた。
「ああ……ああ、キラ……芸って言っても、具体的に何をすればいいのかしら……」
「そりゃあ決まってるよ! 火の輪潜りとかするんだよ!」
 自信満々に答えるキラ。
 ティアは「え」という顔をした。
「火の輪潜りってもしかして、あのテレビとかでたまにやってる……?」
「そうだよ! だからティアもレッツトライするのさ!」
「嘘…………」
 目を見開くティア。
 キラはうんそうしようと一人で勝手に頷き、さっそく火の輪を用意し始めた。
 ポムクルさんに輪っかを用意してもらって、そこに火術の炎を纏わせる。
 呆れるぐらいスムーズに、巨大な火の輪が完成した。
「さあ行くんだよ、ティア! 自分の殻を破るんだ!」
「え、ええいもう! どうにでもなってー!」
 やけくそになって輪の真ん中を飛ぶティア。
 しかしこれがまあなんと――成功しちゃったりするのである。
「あ……で、出来た」
「ひょおぉぉ! すげぇぜ姉ちゃん!」
 火の輪潜りに成功したティアを、宴会に参加してる男たちが拍手で出迎えた。

 高いところから回転しつつ、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)は派手に飛び降りてきた。
 それをおろおろと見守るのは、彼女のパートナーのクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)である。
「蒼フロ終了で全てを有耶無耶にできる今こそ、あたしと女の子だけの神聖百合帝国建国を宣言するのだ!」
 などと、無茶苦茶なことを宣言するレオーナ。
 お尻にゴボウが突き刺さっていたり、着地に失敗して鼻血がだらだらと流れていたりする様は、見る者が見れば顔が引きつること間違いなしである。
 しかし――彼女は全く気にしない。
 それがレオーナクオリティ。
 周りの皆はそのことにはすでに気づいていて、やれやれと呆れていた。
「大体終わりだとか言っておいてまだまだ●●●なことしたり●●●なのはどういうことなのよ、●●! あたしは認めないからね! この世界は百合のために存在すると言っても過言じゃないんだー! こんちくしょー、●●●ブター!」
「わああぁぁぁ! 駄目ですぅ、レオーナ様ぁ! それ以上は放送禁止用語がぁぁ!」
 クレアは必死にピー音を入れたりしてレオーナの発言をカバーするが、それでもやはり彼女の強行は止められない。
 素っ裸になったレオーナは、ひゃっほーっと過激に忘年会会場に飛び込んでいく。
「行ってこい三●世界!」
「ひいいいぃぃ、それだけは駄目ええぇぇぇ!」
 クレアは涙目で、どうにか世界観を守るために奮闘するのだった。

「ちょっと何考えてるのよ、奏ちゃん! やめっ……!」
「ふははははは! お姉ちゃんも飲めー!」
 そう言って、自分の姉であり契約者である東江 抄子(あがりえ・あやこ)にお酒を飲ませるのは奏子・東江(かなこ・あがりえ)であった。
 お酒と言っても抄子たちは未成年であるため、酔っ払うことの出来るノンアルコールジュースである。
 しかし結果的には――抄子は東江の思惑通り酔っ払ってしまった。
 悪酔いした抄子は東江と共にくんずほぐれつのキャットファイトへ。
「ふにゃーっ! このバカ妹めー!」
「ぎゃー! お姉ちゃんが襲ってきたー!」
 二人ともげたげた笑いながら、衆人環視のもとに服をぼろぼろにし合う。
 結果、男たちが鼻血を流しながら目を丸くしていることに気づかない抄子たちであった。

 一方、そんな抄子たちを遠目に見ながら――
「ふー……うまい」
 高神 拓未(たかがみ・たくみ)たちはのんびりとジュースを飲んでいた。
 もちろん、アルコール成分は入っていないものである。
 しかしこれはイーダフェルトの特別製だ。アルコールは入っていないが酔っ払ったような状態になることは出来るという代物である。
 それをちびちび飲みながら、周りの連中を眺める。
 腐れ縁の幼馴染みである水嶋たちは何やら警備隊に追われて忙しそうだし、こちらはこちらで勝手に楽しむとしよう。
 そう思っていたのだが、さすがにパートナーの剣 夏希(つるぎ・なつき)には飲ませるわけにはいかなかった。なんせ彼女は酔いが回りやすいのだから。もし一口でも飲んでしまったら、かなりの酩酊状態になる。
 そのはずだったのだが――
「…………飲んじゃったか」
 ぐでんぐでんになった夏希を見て、そう呟く拓未。
「ふにゃー……」
 一方の夏希は顔を真っ赤にしていて、ふらついている。
 そのまま、こてんっと拓未の肩に倒れる夏希。
 いつもならやめろと言うところだが、今日のところはそうはならない。
「ま、今日ぐらいはいいか……」
 そう言って、寝息を立てる夏希を甘やかす拓未であった。

「よっしゃみんなー! 俺の歌を聴けー!」
 そう言ってジャーンッとギターをかき鳴らすのはリョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)である。
 リョージュは皆の歓声を受けながら、ロックなナンバーを歌い上げる。
 それを見ながら白石 忍(しろいし・しのぶ)は微笑んでいた。
 このまま、こうしてリョージュの歌を聴きながら時が過ぎればいい。そんなことを思いながら、ゆったりと曲に身を任せていた。
 しかし。
 リョージュがそのまま彼女を見学でいさせるわけもないのだった。
「よっしゃー! 次は忍の番だぜ! レッツシンガーソング!」
「ええぇぇぇぇぇ!?」
 顔を真っ赤にする忍を、舞台にあげさせるリョージュ。
 彼女は嫌々と首を振るが、それに強引なアプローチをかけた。
「なに言ってんだよ! 忘年会だし、パーッと行こうぜ!」
 そう言って忍にキスをするリョージュ。
 んんーっともがくが、逃れられない。そのまま口移しでお酒を飲まされる。
 お酒を飲んだ忍はしばらくして酔っ払い、ついには――服を脱ぎ始めた。
「パーッといこう、パーッとにゃー!」
 すっかり出来上がった忍をサポートし、リョージュたちは歌に食事にと目一杯楽しんだ。

「わーい、タダですよ! 無料ですよ! ロハですよー! ヒャッハー!」
 そう言って食事を目一杯楽しむのは次百 姫星(つぐもも・きらら)である。
 その後ろから、呪われた共同墓場の 死者を統べる墓守姫(のろわれたきょうどうぼちの・ししゃをすべるはかもりひめ)がのんびりと見ていた。
「はぁ……ミス次百はよくはしゃげるわね。私には無理だわ」
 墓守姫は賑やかなのが苦手なのである。
 彼女は遠目から次百たちを見守るが、そこにどんどん食事をタッパーに詰め込んでいった次百が近づいてくる。
「あっれー? 墓守姫さん! そんなところでうじうじしてたら何も楽しくありませんよ! さあ、芸の一つでも見せてくださいよー! うりうりうりうり〜!」
「って、ミス次百!? あなた、酔っ払ってるわね!」
「全然酔っ払ってないですよー」
「いや、酔ってるわよ! じゃなきゃこんなこと――うきゃああぁぁぁ!?」
 次百にひん剥かれ、悲鳴をあげる墓守姫。
 彼女に芸の一つや二つはあるわけもなかった。

 吉崎 樹(よしざき・いつき)は飲んで食って騒いでと、忘年会をおおいに楽しんでいる。
 その傍で彼にもたれかかるのは、パートナーのミシェル・アーヴァントロード(みしぇる・あーう゜ぁんとろーど)だ。寄りかかってくる彼に、樹は露骨に嫌そうな顔をしていた。
「ふふっ……楽しみだねぇ、樹。これからもずっと一緒に居られるんだからね」
「でえい、寄るな! 近づくなぁ!」
 とは言うものの、ミシェルは一向に離れる気配はない。
「はぁ……」
 樹はため息を吐きながら、こりゃー諦めるないだろうかと考え始めていた。
 大体が、嫌がったとて懲りるようなミシェルではない。
 それはこれまでの付き合いで重々分かっていて、樹も上手い付き合い方を覚えていた。
 まあ要するに――無視である。
「うわぁん、ひどぃ、樹ぃ、無視しないでぇ」
「あー…………うっさい」
 などと呟きながら、ちびちび酒を飲む樹だった。
 その近くでは――ちょうど羽切 緋菜(はぎり・ひな)羽切 碧葉(はぎり・あおば)が似たような状態にある。酔っ払ってもたれかかってくる碧葉に、肩を貸す緋菜だった。
 とはいえ……こちらは碧葉をないがしろにはしてないが。
 はいはいと頷きながら、好きなようにさせている。
 何かと普段から世話になってるから、今日ばかりは好きにさせてやろうというつもりだった。
「ふにゃ〜……幸せ〜……」
 そう口にしながら、ぐでーっと寝る碧葉。
 なぜか――素っ裸である。
 まあ、緋菜がちゃんと毛布をかけてあげているが。
「……酔っ払いって大変ね」
 緋菜は普段とまったく違う碧葉の様子に微笑みながら、そんなことを言って周りを眺める。
 忘年会はまだまだ続きそうだった。