空京

校長室

帰ってきた絆

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帰ってきた絆

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さよならは言わない

 忘年会もいつしか終わりを迎えようとしていた。
 それは別れの時である。
 実はいまこの瞬間にも、別れを惜しむ声がある。
 この忘年会を最後の瞬間にしようと、皆で集まる最後の時かもしれないと、そんな風に感じている者たちも少なくはないのだ。
 忘年会の会場には、たくさんの人々が集まっていた。
 寝たり、疲れたり、あるいは酔っ払って倒れてしまったまま起きなかったり……ともあれ、様々である。だがその多くは、たいていの場合は幸せそうな顔である一点を見つめている。
 そこには、一組の新郎新婦がいた。
(ナゼにドウシテコウナッタ?)
 新郎の名はハリー・ヴァンス(はりー・う゛ぁんす)である。
 彼は新婦ソフィア・ギルマン(そふぃあ・ぎるまん)の恋人であって、契約者たる彼女のパートナーだ。もちろん、それは彼自身も承知の上である。
 しかしながら彼としては、もう少しゆっくりと愛を育みたかったところなのだが……。
 ソフィアとしてはそうはいかない。
 彼女は行動派の女性だ。
 今さらそれを止めることなど出来まい。
「結婚を前提にお付き合いするなら、今から結婚したって変わらないじゃない?」
 あっけらかんとそう言ったのは、彼女がハリーに新郎服を持ってきた時だった。
 どうやら、最初からそのつもりで用意していたらしい。
 しかも花嫁衣装もすでに着込んでいる。
 逃げられないと分かったハリーは、そのままずるずるとソフィアに引っ張られていき……気づけば、なぜか神父服に身を包むカイゼル髭姿のポムクルさんの前に連れられていた。
 そして、誓いの言葉である。

 ――汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、この人を愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?

 そういうわけで、ただいまハリーはそれに答える真っ最中だった。
「――誓います」
 頷いた彼に続いて、ソフィアもポムクル神父の前で誓う。
「誓いまーす!」
 ……まあなんともノリが軽いように見えるが、それが彼女らしさということなのだろう。
 二人は互いを見やり、そして熱いキスを交わした。
 それは――愛の接吻である。
 ハリーもこの時ばかりは男としてリードして、彼女の唇を奪った。
「ヒューヒュー!」
「いいぞー、ご両人ーっ!」
 周りの男たちや野次馬がはやし立てる。
 同じ頃に、佐倉 美那子(さくら・みなこ)リラ・ウインドリィ(りら・ういんどりぃ)が、二人の愛を祝福する歌を演奏し始めた。
「リラ、さあ勇気出そう? 一緒に歌うんだよ」
「う、うん……」
 そう言って美那子はリラを勇気づけ、キーボードを演奏する。
 リラは彼女に続くように、エレキバイオリンを奏でた。
 二人の演奏する曲は、結婚行進曲をロック調にアレンジした「蒼空結婚行進曲」である。それは蒼空の絆と二人の愛を歌った曲で、周りの皆も歌に乗ってメロディーを口ずさみ始めた。

 つきあってんなら 抱いていいのよ 男なら
 仕方ないから キスしてあげるわ 女もね
 幸せの結末 もしかしてスタート
 贈ります2人に 「リア充爆発しろー」

 愛の奇跡は ここから始まる
 2人でいたら どこへでもいけるよ
 君は百まで 僕も百まで
 誓います2人は 「アイ・ラブ・ユー」


 契約者たちだけではない。
 その場にいた大勢のポムクルさんたちも、一緒に「なのだ〜♪ なのだ〜♪」と歌う。
 それはまるで何だか――一種のお祭り騒ぎみたいなものだった。人々の活気と熱気に満ちている。
 しかしそれだからこそ、時は続く。
 いつかはこうして、また別の命が育まれ、このパラミタに来ることだろうか?
 またいつか、このイーダフェルトにみんなが集まることになるだろうか?
 それは遠い未来ではない。ここにこうして皆がいる限り、それはきっと当たり前の事であるし、日常という名の延長線上で、全てがまた元通りになったり、繰り返したり、新しい明日を作り出したりする。それはきっと、素敵な事だ。
「……なんてね」
 キーボードを演奏しながら、美那子は小さく呟いた。
 明日へと繋がるもの。今日という日を忘れ得ぬ為に――
 私たちは生きていく。そしてまた出会う。
 その日まで「また明日」。
「さよなら」は、言わない――