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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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クイーン救出作戦

 インテグラル・ポーンとイレイザーの陽動兼一掃作戦が開始されたころ、ルーク近辺で様子を見ていたクイーン救出部隊が動き出した。ルークの周辺が手薄になったと判断されたのだ。クイーンはまだその力を精一杯使い、ルークを押さえ込んでくれているようだ。
「助けて、と言われたんだ。それが助けられてばかりでは格好悪すぎるだろ?」
源 鉄心(みなもと・てっしん)が言った。ティー・ティー(てぃー・てぃー)がうなずいた。熾天使の力の発動時間は覚醒以上に短い。クイーンが脱出するとき、大天使がルークを無駄な動作なしに押さえ込めるよう、鉄心とティーは危険を冒してルークからそう離れていない位置まで物陰伝いに移動していた。
 周辺のイレイザーやポーンと闘っている部隊の動きもモニターしながら、蒼月に機乗する神崎 優(かんざき・ゆう)がメンバーに声をかけた。
「そろそろアクションを起こそう」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の助力で修理の完了したオクスペタルム号のコクピットではノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が伝令官から受け取った陽太のメッセージを思い返していた。
『修理完了したオクスペタルム号をノーンに託します。環菜と2人でノーンが無事に戻ってくると信じています。 頑張ってください』
ノーンの顔に決意の表情が浮かぶ。
「うんっ! クイーンさんを助けるんだから!」
音無 終(おとなし・しゅう)リッターからも通信が入る。
「了解」
ノーンがアトラスの灯を胸に抱き、オクスペタルム号の甲板に立つ。
「絶対に諦めないで、わたしにできることで頑張るよ! だから、クィーンさんも負けないで!」
ルークに向かって呼びかけると、ルークは触手を振り回し、威嚇するように全ての口を開いて咆哮した。それに対抗して、ノーンがディーヴァの力を結集した澄んだ歌声を響かせる。クイーンに独立意思と自由を勝ち取れるよう促すための歌だ。ノーンが全ての力をそれに注ぎこめるように、傭兵達やアヴァターラ装備達が、ルークの触手攻撃などから機体を守っている。
(これはクィーンを励ます歌……クィーンを救うために集ったみんなを支える歌。
 トモダチの為に……ミンナの為に)
終はリッターを操り、ルークへ近付いていった。
「クイーン! 助けに来た! 何処に居るんだ? 応えてくれ!」
リッターから音無の声が響くと、ルークの頂部に微かな震えが走る。優が蒼月から呼びかけた。
「滅びを望むものに負けるな! そんな者に絶対に負けてはいけない! 貴女の想いを願うんだ! 強く!
 俺達と共に破壊以外の道を歩もう! 絆の力で未来を変えるんだ!
 俺は貴女と絆を繋げたい! 共に歩みたい! 呼びかけに手を差し出した貴女を絶対に諦めない!
 共に未来を切り開こう。強い想いは未来を変える事が出来る。貴女の想いを俺達にぶつけてくれ!
 俺達が必ず受け止める!!」
「絆……ナカマ……」
振り絞るような微かな声が、ルークの複数ある口から漏れる。ルークの目はどれも半眼になっており、触手も動かない。クイーンの支配が強まっていることがはっきりとわかる。
「頑張れっ!!!」
優が叫ぶ。機体をルークの攻撃に備えて操作しながら、神崎 零(かんざき・れい)も呼びかける。
「貴女達が作られた者で、破壊以外の道しか知らないと言うのなら、私達が教えてあげる。
 破壊以外の道を、絆で生まれる新しい未来を!
 だから一緒に行こう? 未来を変える為に。……お願い。私達の手を取って!」
クイーンの細い腕が、ルークの頂部から現れた。
「今だっ!」
鉄心とティーが手を取り合うと、ルークのすぐ横に光の大天使が出現した。全てのパワーを注ぎ込んでルークの行動を最大限に押さえ込む。終のリッターと零の蒼月がルークの上部に突っ込むようにして接近した。両機のコクピットが開き、クイーンの手を終と優が掴んで、励ましの掛け声と共に引く。
「頑張れッ!」
「もう少し!」
終のパートナーの銀 静(しろがね・しずか)が、強化装甲、フォースフィールド、ミラージュ、殺気看破で防御を固めている。
『異変があれば、すぐに迎撃できる状態だよ』
終の脳裏に静の思念が届く。
クイーンがルークの中からするりと抜け出た。クイーンの支配を逃れたルークが身じろぎし、クイーンを再び取り込もうとヘビのような触手が伸びる。
「イヤだ……イヤだ……」
クイーンが身を縮めるようにして泣き声を上げる。大天使の中から、ティーがルークにインファントプレイヤーで呼びかける。
(女の子が嫌がってるのに、無理やりなんて良くないです……! クイーンと一つになって……貴方は、何も感じなかったのですか?)
ティーは楽しかった事や、守りたいもの……それらのイメージと思念をルークに向かって投げかけたが、ルークから帰ってきたのは凄まじい破壊への衝動、それだけだった。
 終が機晶ブレード搭載型ライフルでルークをけん制しながら、しがみつくクイーンをコクピットに引き込みルークの元から飛び立つ。その後方をカバーするように蒼月とオキシペタルム号が追う。光の大天使が消えると同時に抑制が完全に消え、ルークがものすごい咆哮をあげた。周囲のもの――残っていたインテグラルも、ポーンも――すべてを触手で叩き、咬み裂く。
 終のストークは契約者たちの前線基地にクイーンをそっと下ろした。静はいつもの無表情のまま黙ってその傍に佇んでいる。
「これからの君を見るのを楽しみにしているよ。君はもう自由だ。何にでもなれるし、何処へでも行ける。
 そうそう、君に名前が必要だって静に言われて考えたんだけど、『零姫(れいき)』っていうの……どうかな?」
「名前……? ソレはナンだ?」
クイーンが尋ねる。頷きながら終の話を聞いていた静が、ちょっとずっこける。
「……うーん、個人への、呼びかけ、かな?」
「イマダ、ガンバレ、モウスコシ、も、名前なのカ?」
クイーンにはまず、名前の概念から理解する必要があるようだ。
「……いや。そのうちわかるさ。……さてと、放校者の俺が傍に居ると今後の君の邪魔になる、じゃあ……」
「どこかへ……行ってしまうのカ?」
背を向けて歩き出した終に、心細げなクイーンの声が投げかけられたが、彼女はすぐに駆け寄ってくるノーンや優、零ら、彼女の救出を願っていた契約者たちに取り囲まれた。
「君はもう……独りじゃないさ」
終はそのままクイーンに背を向け、リッターを発進させた。