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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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第1章 それぞれの選択

 「ちょ、ちょっと、何でこんなことになってるの!?」
 ヒラニプラに機晶姫用の装備を見に来たついでに、シャンバラ教導団本校まで足を伸ばした百合園女学院のアピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)は、防壁に群がる蛮族の部隊を見て、目を丸くして悲鳴を上げた。
 「きょうどうだんグッズをかいにきたとか? ……じゃないみたいだし……」
 防壁を乗り越えようとする蛮族と教導団の生徒たちが、防壁の上や前で先頭になっているのを見て、パートナーの機晶姫シリル・クレイド(しりる・くれいど)が首を傾げる。
 「あれは、鏖殺寺院の率いる蛮族部隊だ。本校の中にある、『あるもの』を奪いにやって来たのだ」
 呆然とするアビスとシリルに声をかけたのは、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)だった。林偉(りん い)教官が率いる、《工場》から移動してきた部隊から離れて岩山地帯で敵を待ち伏せて攻撃した後、合流せずにそのまま本校へ向かったのだ。
 「学校外でも結構な噂になっていると思っていたが……もし何も知らずに来たのであれば、すぐにここから離れろ。ここも、これから戦場になるのでな」
 闘志をみなぎらせ、拳にした右手を左の掌に打ち付けながら戦況を見る風次郎に言われて、アピスとシリル、そしてもう一人のパートナーである機晶姫ネヴィル・パワーズ(ねう゛ぃる・ぱわーず)は顔を見合わせた。
 「敵は鏖殺寺院なのよね? 見ちゃったからには、逃げ出すのもね……」
 ネヴィルは心配そうな顔をしたが、アピスは持っていたランスを抱いて言った。
 「おいおい、どうなっても知らんぞ。自分たちの身は自分で守れよ」
 風次郎はため息をついたが、それ以上止めたりはせずに、蛮族部隊に突っ込んで行った。振り向いた蛮族はアビスたちにも気付いたようで、数匹が向かって来る。
 「言われなくても、アピスさんはボクがちゃあんと守ってみせます!」
 ネヴィルが風次郎の背中に向かって叫んだ。
 「えっと、なんだかよくわかんないけど、あいつらとたたかえばいいんだよね?」
 シリルは、背中に取り付けたミサイルポッドの発射口を開き、敵に向けた。
 「あたいのぜんりょくぜんかいのこうげきで、みんなこわれちゃえー!」
 煙の尾を曳いて、ミサイルが蛮族たちに向かう。それを追うように、アピスはランスを構えて敵に突進した。
 「わっ、待ってください!」
 ネヴィルは慌ててアピスを追った。だが、アピスは待たなかった。シリルの攻撃で倒し切れなかった蛮族を、愛用のランスで貫く。しかし、貫かれた蛮族の体の向こう側で、別の蛮族がアピスに銃を向けていた。
 「危ない!」
 ネヴィルはアピスの腕を引いて倒すと、咄嗟に体の下にかばった。二人の上を、銃弾が薙ぐ。
 「しかたないなー、あたいがたすけてあげるよ!」
 シリルが再度ミサイルを撃ち込む。蛮族は吹き飛んだ。
 「大丈夫でしたか、アピス?」
 ネヴィルはアピスの顔を覗き込んだ。
 「お、重いぃ……」
 アピスはうめく。ネヴィルは慌ててアピスの上からどいた。
 「ご、ごめんなさい……」
 「ううん。……飛び道具持った敵もいるのにいきなりランスで突っ込むのは、ちょっと無謀だったわね」
 アピスはかぶりを振って起き上がる。
 「何やら連携が取れていないようだが、大丈夫なのだろうか……?」
 背後の騒ぎを耳にして、風次郎は軽く眉を寄せた。だが、すぐに警告はしたのだからと思い直し、目の前の敵に意識を集中する。銃撃を見切って避けつつ一匹の蛮族の背後に回り込み、渾身のソニックブレードを叩き込んだ。
 「悪いな。ここを通すわけにはいかないんだ」
 吹き上がる血飛沫を浴びながら、風次郎は既に次の敵に相対している。既に防壁上の通路で乱戦が繰り広げられている状況で、防壁の外側への銃撃は減っているが、味方の射線上に出ないように気を配りつつ、雅刀で蛮族を切り伏せながら防壁に近付いて行く。
 「すごーい……てきのたまにも、みかたのたまにも、ぜんぜんあたらないよ!?」
 シリルが目を瞬かせる。
 「乱戦の中に入るなら、直接戦ってる敵以外の周囲の状況にも気を配れってことですね……」
 ネヴィルも感嘆の声を上げる。
 「私たちも負けていられないわ。乙女の心意気、見せてやりましょう!」
 立ち上がったアピスは、再びランスを構えた。
 「えいえいおー!」
 シリルが拳を突き上げる。ネヴィルを従え、二人は風次郎の後を追った。


 風次郎やアピスが見たように、鏖殺寺院の蛮族部隊は、シャンバラ教導団本校の防壁を越えつつあった。
 イルミンスール魔法学校のエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)は、パートナーの剣の花嫁クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)、英霊アロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)と共に、相変わらず防壁の上の通路で戦っていた。
 「さすがにこれだけ乱戦になって来ると、いくら光条兵器でも飛び道具を使うのは難しいわね」
 クローディアが眉を寄せる。防壁が壊されたわけではないので、一度に雪崩れ込まれなかったのは幸いと言えるだろうが、防壁に殺到した蛮族たちは、鉤付きのロープを使って次々に防壁の上に上がって来る。防壁上の狭い通路は既に乱戦状態にあり、防壁の上から外に居る蛮族を攻撃して、上がって来るのを防ぐことは困難になってしまっていた。むろん攻撃すること自体は可能だが、外に注意を向ければ、防壁上の敵に背を向けることになる。
 「遮蔽物がないのが地味につらいな!」
 トミーガンを持ったエリオットも戦いあぐねている。既に防壁上にいる敵に銃口を向ければ、外れた時に味方に当たる。かと言って、防壁を登って来ようとする敵を狙えば、背中ががら空きだ。
 「では、我輩と背中合わせになれば良いのではないか?」
 三人の中で唯一、槍を使った刺突を攻撃の中心として戦果を挙げているアロンソが、エリオットの背後に立った。
 「私も、『バニシュ』で目潰しくらいできるかな」
 クローディアもアロンソの少し後ろに立つ。
 「感謝する!」
 二人が背後からの攻撃を防いでくれている間に、エリオットは縄梯子を上って来る敵に向かってトミーガンを乱射した。蛮族たちがぼろぼろと縄梯子から落ちて行く。
 「これが最後の戦いだ、弾丸の出し惜しみはせずに行くぞ。……ああ、弾丸が尽きたら撤退に入るから、二人ともそのつもりでいてくれ」
 自分はあくまでもイルミンスールの生徒であり、戦うのは恩を売るためで教導団のためではない、と思っているエリオットは、さばさばとした口調でパートナーたちに言う。

 蒼空学園のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とパートナーの機晶姫ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は、防壁のすぐ内側で、防壁を乗り越えて来た蛮族部隊と戦っていた。防壁を越えた後、校内に降りることが出来る場所は限られているため、どうしても突出する敵が出る。それを叩いたのだ。まず、ロートラウトが突出した敵の背後から六連ミサイルポッドでミサイルを叩き込み、打ち漏らした敵を、エヴァルトが「恐れの歌」で牽制しながら迎撃して行く。
 最初の攻撃は上手く行った。だが、攻撃すれば自分たちの存在を敵に教えることになる。二人はあっという間に敵に囲まれた。
 「二人でこれだけ引きつけられれば、むしろ上等!だよね?」
 身構えつつ、ロートラウトは微笑む。
 「まあな!」
 高周波ブレードを構えて、エヴァルトはうなずいた。蛮族の射撃をドラゴンアーツで吹き飛ばしつつ、距離を詰める。一方、ロートラウトはエヴァルトの懐具合を寂しいものにして揃えた盾と装甲、そしてナイトとしての技能を駆使して弾丸を跳ね返し、避けて各個撃破に移る。
 その時、甲高い、指笛の音が周囲に響いた。二人を囲んでいた蛮族たちが一斉に移動を始める。
 「逃がすか!」
 「こらこらっ、待ってってば!」
 エヴァルトとロートラウトの声を無視して、敵は威嚇射撃をしながら、だんだんと学校の奥の方へ向かって移動を始めた。二人はそれを追いかけようとしたが、敵が断続的に防壁から降りて来るため、追えば今度は自分たちが背後を取られる形になってしまう。
 「ここで踏ん張るしかないみたいだな……。技術科とか、他の場所の守備も気になるんだが」
 エヴァルトは悔しそうに唇を噛む。
 「二兎を追うものは一兎も得ずって言うよ。きっと、ここは守らなきゃ、って場所には教導団の生徒が配置されてるでしょ」
 新たに防壁から降りてきた蛮族と組みあい、身体を張って止めながらロートラウトが言った。それもそうか、とエヴァルトも防壁からの敵を迎撃する。


 「浸透されて来ましたな……軍人養成所の本校が壊滅というのは、ちょっと笑えない話なのですが」
 ヒポグリフに乗って防壁付近の上空に居た道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、わらわらと敷地の奥に向かう蛮族たちを見下ろして呟いた。
 「教導団に手を出したことを、今攻めてきている鏖殺寺院の連中に後悔させてやらねばなりませんな」
 「それもそうどすが、それ以上に、これ以上敵に校内に食い込まれないことの方が大切なんやないどすか?」
 パートナーの魔女イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)が、近寄ってきた飛龍の鼻先にアシッドミストを食らわせながら言う。
 「校舎内に入り込まれたら、面倒なことになりますえ」
 「……成程」
 玲はうなずいて、再び地上に目を向けた。数人の生徒が、校舎の入り口に机やロッカーを積んでいる所へ、敵が向かっている。
 「あちらへ!」
 玲はイルマを促して、そちらへ向かった。


 『とにかく、あるものはみんな使え! 校舎の入り口や廊下に障害物を作るんだ! 消火器や消火用のホースだって武器になるぞ!』
 ロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)の放送が、校舎内に流れているのを遠くに聞きながら、ロイのパートナーの剣の花嫁アデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)は、救護背嚢を背負い、各校舎の入り口の状況を見て回っていた。
 「お願いっ、手伝ってください!!」
 女生徒の声が、アデライードを呼んだ。見ると、夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)はじめ数人の衛生科の女生徒たちが、大きなロッカーを校舎の入り口に置こうと頑張っている。
 「中で、怪我人の治療をしてるんです! 絶対にここを通すわけには行かないの!」
 「了解ですわ!」
 自分と同じ衛生科の生徒たちが困っているのを見て、アデライードは顔色を変え、校舎の入り口へ向かった。
 「そんな状況なら、手伝うわ!」
 シュネー・ベルシュタイン(しゅねー・べるしゅたいん)とパートナーのゆる族クラウツ・ベルシュタイン(くらうつ・べるしゅたいん)も、彩蓮の声を聞いて駆けつけた。皆で力をあわせて、ロッカーを扉の前に置き、さらに机も積んで遮蔽物を作る。
 「ここを守れる方は居ないのですか?」
 一通り作業を終えたところで、アデライードは彩蓮に尋ねた。ここに居るのは衛生科の生徒だけで、バリケードの周囲で警戒してくれそうな生徒は居ない。
 「混乱している中を、防壁の上から怪我人を連れてここまで後退して来たので……」
 彩蓮は目を伏せる。
 「とにかく簡単に突入されることだけは防ごうと思って、廊下や階段にも障害物は置いたんですが、私たちは手当てで手一杯なんです」
 「じゃあ、私たちがやりましょうか? 丁度弾薬をもらってきたところで、しばらく弾切れの心配はないし。ね、クラウツ」
 「異論はないニャー!」
 クラウツは頷いた。その時、
 「敵が迫っていますぞ!」
 上空から、道明寺 玲が声をかけてきた。
 「ちょうど良かった。この中で怪我人の手当てをしているのですが、入り口を守ってくれる者が少なくて。手伝ってもらえませぬか!」
 アデライードは叫ぶ。
 「ここへ敵を近寄らせなければ良いのですな?」
 「了解どす」
 玲とイルマはうなずくと、ちょうど道の向こうに姿を現し始めた蛮族たちの方へ旋回した。
 「あまり手前で迎撃すると、逆に迂回されて左右から回り込まれて面倒なことになりかねませんからな。引き付けてから叩きましょう」
 玲の指示に従って、イルマはバリケードの手前で蛮族たちにサンダーブラストやアシッドミストを浴びせる。それでも倒れない敵を、シュネーとクラウツがアサルトカービンで弾幕を張って足止めする。
 「教導団に楯突くヤツがどうなるか、思い知らせてやるニャー!」
 「この先へは進ませないわよ!」
 「助かりましたわ……」
 敵が食い止められているのを見て、アデライードはほっと胸を撫で下ろし、彩蓮を見た。
 「でも、状況によっては、もっと奥の校舎に怪我人を搬送することを早めに考えた方が良いかも知れませんわね」
 「そうですね。幸い、ここには自分で動けないような重傷者は居ませんが、衛生材料や薬も、とりあえず自分の持てる限りを持ってきただけで、このままでは底をつくのは目に見えていますし。応急手当が一段落したら、奥の出入り口から移動することにしましょう」
 手伝ってもらえますか、と彩蓮に尋ねられて、アデライードは頷いた。