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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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 ヒポグリフ隊のうち、敵の拠点探索と林部隊への物資運搬を行う別働隊に志願したのは、レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)、百合園女学院のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とパートナーの剣の花嫁セシリア・ライト(せしりあ・らいと)と英霊フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)とパートナーの剣の花嫁カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)、蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)とパートナーの魔女ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)だった。このうち、イレブン、カッティ、葉月、ミーナが主に輸送の任に当たる。
 「私たちはちょっと、途中で拾わなくちゃいけないものがあるので、離脱後は皆と別行動を取ります。少し遅れるかも知れませんが、気にせず探索を進めて下さい」
 イレブンは他の生徒たちに言った。
 「あまり遅れると、作戦の進行状況に差し支えますから、出来るだけ急いで下さい。どうも、嫌な予感がするので」
 燭竜が唸る。
 「早く物資を届けなければいけないのはわかりますけど、嫌な予感というのは?」
 葉月が首を傾げた。燭竜は軽く息をついた。
 「いや、林の性格を考えると、補給が到着するのをじっと待っては居ないような気がするんです。あなたがたが出発したという連絡は入れておきますが、もしかしたら、探さないといけないのは敵の拠点だけではなくなっているかも知れません」
 「が、頑張ります……」
 ちょっと大変なことになりそうかも、と思いつつ、葉月はうなずく。
 「……よし、行こう」
 「よろしく頼みます」
 燭竜に見送られ、レーゼマンを先頭に、ヒポグリフたちは空へ舞い上がる。

 「……来たでありますよ!」
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)のパートナー、ゆる族トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)が、チームを組んでいる、同じくイリーナのパートナーの剣の花嫁エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)と守護天使フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)に声をかけた。別働隊のヒポグリフたちが、集合場所だった倉庫を出て、次々と空へと舞い上がって来る。
 「行ってらっしゃいであります! そうそう、『工場から林教官の部隊に入る風紀委員側の人たちがいるだろうから、しっかり協力してな』とイリーナが言ってたでありますよ」
 先頭のレーゼマンに併走し、蹴る真似をしながら、トゥルペは声をかけた。
 「こらこら、あまり近付くと危ないのだよ!」
 レーゼマンは慌てて、少し距離を取る。
 「えーっとあと、『無事に帰って来いよ、レーゼ。レーゼがいないと踏むものがなくなるからな』だそうであります」
 イリーナに言われたことをそのまま言っているらしいトゥルペは、棒読みに言って手を振る。
 「何じゃ、そりゃ……」
 レーゼマンは思わず呟く。
 「……敵も来てますから!!」
 最後尾のイレブンが怒鳴った。飛龍が数頭、こちらへ向かって来る。前回の先頭ですっかり飛龍が嫌いになったウォーレンの乗騎・サーブルが、羽毛を逆立てて喉を低く鳴らした。
 「よしよし、落ち着け」
 ウォーレンはなだめるように、サーブルの首を叩く。
 「ここはトゥルペたちに任せるであります。エレーナ、フェリックス、行くであります!」
 トゥルペはヒポグリフを旋回させた。
 「そうそう、ここはボクたちに任せておいてよ!」
 そこへ、正式に『白騎士』に加入した黒乃 音子(くろの・ねこ)とパートナーのゆる族ニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)とパートナーのグレイシア・ロッテンマイヤー(ぐれいしあ・ろってんまいやー)バルバロッサ・タルタロス(ばるばろっさ・たるたろす)、そしてイリーナやケイたちもも駆け付ける。
 「ボクら黒豹小隊は『白騎士派』である前に、教導団の生徒だから! 全体の利益の為に、ここが勇気の見せ所だよ!!」
 音子は飛龍のうちに一頭に駆け寄ると、くるくると曲芸飛行をしながらまとわりついた。邪魔くさい、とばかりに敵の乗り手がアサルトカービンを構えたが、
 「お前たちの好き勝手にはさせないニャ!」
 別の方向から、ニャイールがとりもちを詰めたカプセルを投げつける。翼に弾かれたものもあったが、何個か投げているうちに、体についたとりもちが不快なのか、飛龍の勢いが鈍って来た。
 「要は、乗り手を始末しちゃえばいいってことだよね!」
 音子はアーミーショットガンを構え、乗り手に向けて引金を引いた。乗り手がのけぞり、続いて飛龍の背に突っ伏して動かなくなる。コントロールを失った飛龍は、周囲にいるヒポグリフたちを今度は本能で敵とみなし、襲い掛かって来た。
 「音子さん、下に佐野さんがいます。そちらへ誘導いたしましょう!」
 エレーナが叫んだ。
 「了か……ひゃあっ!」
 長い首を伸ばされて、音子は慌てて首を竦め、急降下でそれを避けた。
 「はいはい、あっちへ行こうねー」
 上空へ回り込んだフェリックスが、火術を放って飛龍を追い立てる。トゥルペも、飛龍の後ろへ回ってハンドガンを撃つ。

 「この作戦、絶対に成功させてやる!」
 地上で高射砲を担当していた佐野 亮司(さの・りょうじ)は、自分の方へ追い込まれてくる飛龍に、慎重に照準をあわせていた。
 亮司は輸送科であり、本当は直接物資を運ぶ方に携わりたい。だが、今の状況では、林部隊に物資を運ぶ方法は空路以外にない。それならせめて、輸送部隊の支援をしたいと、彼は考えていた。
 「……行けッ!」
 音子を追いかけて来る飛龍の鼻先目掛けて、高射砲を撃つ。すっかり野生に帰った飛龍は、周囲を飛び回るヒポグリフたちに気が向いていて、地上の高射砲は目に入っていなかったらしい。鼻先で起きた爆発に驚いて、大きく旋回し、離脱して行く。
 「一匹逃げて行きますな。どうでしょう、燭竜主計官はああ仰ったが、保険として、逃げる飛龍を追う案を実行しても、悪くはないと思うのですが……」
 それを見て、セバスチャンがグレイシアに言う。
 「まぁねえ、何事もやってみなくちゃわからないからねえ」
 グレイシアは首を傾げつつも、否定はしない。
 「バルバロッサ、手伝ってもらえますかな」
 「無論」
 バルバロッサはうなずいた。
 「では、ひとつ試してみましょうか」
 セバスチャンは乗騎を逃げる飛龍に向かわせた。バルバロッサとグレイシアはその後ろで、高速飛空艇や他の飛龍が近付いて来たら牽制出来るように警戒する。
 しかし、速度の差はすぐに彼我の距離の開きとなって現れた。三人は必死に乗騎を急かしたが、差は開くばかりだ。
 「逃がしませんぞ!」
 セバスチャンはドラゴンアーツを使って飛龍の足を止めようとした。だが、飛龍が弱って速度を落とす前に、ヒポグリフたちの方が音を上げた。
 「む……兄者、これ以上は乗騎が持たん!」
 ヒポグリフが潰れたり、ストライキを起こされたりする前に、とバルバロッサがスピードをゆるめた。
 「はぁ……これ以上は婆には無理だね」
 グレイシアも息を切らせて、追跡を止める。セバスチャンは最後まで粘ったが、ヒポグリフが嫌そうに首を振り立てるのを見て、ようやくあきらめた。飛龍はそのまま、上へ上へと逃げて行く。
 「これは……二度はやりたくないねぇ」
 普段、一度失敗しても改めて試してみるべしと言うことの多いグレイシアに首を横に振られて、セバスチャンは飛龍の追跡をあきらめ、通常の戦闘に戻って行った。


 「やーっとまとまって来たか」
 『光龍』壱号機のた朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、前線に出てきた妲己をはじめとする査問委員たちを見て、小さくため息をついた。
 「戦闘が終わったら、団長に派閥争いをやめさせるようにガツーンと言ってやろうかな……」
 垂はそんなことを考えていたが、金鋭峰がこのことを聞いたなら、おそらく、『風紀委員会及び査問委員会は教導団の規律を守るために必要であり、解散させることは出来ない。しかし、彼らのやり方に反感を抱く者は必ず出て来るだろう。では、そういった者たちが徒党を組むことを止めさせれば良いのか?』と垂に問い返しただろう。金鋭峰にすれば、反体制派である『白騎士』が教導団と団長に対して忠誠を誓うべきなのであって、むしろ『白騎士』に少し控えるように言って来い、となる。結局は団長も含めてだが、学校全体の意識改革が必要になることだし、風紀・査問委員側の団長から派閥解消を強く言えば、『白騎士』に対する強権発動と取られてしまいかねないので、団長に怒鳴り込むだけではどうしようもないのだが、垂はそうは思っていないようだ。
 「……来るぞ」
 考えに沈んでいた垂に、運転席の獣人色即 是空(しきそく・ぜくう)が低い声で言った。はっとして空を見上げると、高速飛空艇ともつれあうように飛んでいるイリーナ、ケイ、カナタの姿が見えた。
 「ライゼ!」
 「うん!」
 膝の上に抱いたパートナーの剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が、手を挙げて《冠》に触れる。
 「頼むね、トゲりん!」
 「『トゲりん』って……」
 砲手の夜霧 朔(よぎり・さく)が首を傾げる。
 「《冠》にね、名前をつけてあげたんだよ! だって、ずっと一緒に居るんだもん。名前くらいなくっちゃね〜」
 自慢げなライゼの言葉に、垂は思わず噴き出した。
 「笑わなくたっていいじゃない!」
 ライゼはぷーっと頬を膨らませる。
 「ごめんごめん、そうじゃなくて、可愛いなあって」
 垂は慌てて謝り、ライゼの頭を撫でた。
 「トゲリン、いいじゃないか」
 「可愛い名前ですね」
 朔もうなずく。
 「よーし、じゃあ、頼むぞトゲりん。……イリーナ!」
 垂は無線でイリーナに呼びかけた。
 「照準よし……撃ッ」
 「避けろ!」
 朔の号令と同時に、垂はマイクに向かって叫びながら発射ボタンを押した。ヒポグリフたちが三方に分かれて退避する。イリーナを追おうとした高速飛空艇の進路を、『光龍』からの広角射撃が遮る。
 「もう一発!」
 朔の声に、垂はもう一度ボタンを押した。広角射撃から退避するために旋回中だった高速飛空艇の翼を、今度は精密射撃が撃ち抜く。高速飛空艇はコントロールを失い、墜落して行った。
 「さあ、あともうひと踏ん張りだ」
 垂はもう一度ライゼの頭を撫でて、仲間たちに声をかける。

 「おお、行ったな……」
 青空の中に小さくなって行く別働隊のヒポグリフたちを演習場のヒポグリフ厩舎から見上げ、セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)のパートナー、英霊黄 飛虎(こう・ひこ)は呟いた。ヒポグリフ隊と防空部隊が、飛龍と高速飛空艇を押さえ切ったのだ。
 飛虎は留守番として厩舎に残っていたが、本校が防壁を閉鎖したためこちらもちょっとした補給途絶状態になってしまい、現在はもぬけのから状態だ。
 「妲己は腹の中で何を考えてるかわからない女だ、協力すると見せかけてヒポグリフ隊を引っ掻き回しに来るかも知れん。念のためここも守っておかないとな」
 そう考えて厩舎に残った飛虎だったが、今のところ、特に動きはない。ただ、空を見上げてパートナーや学友たちの無事を祈るだけだ。