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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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第3章 強襲

 ヒポグリフ隊別働隊が、どうにか本校からの脱出に成功した頃。
 その向かう先である林偉率いる遊撃隊は、既に山の裏側に向けて移動を開始していた。道を外れて森の中を行くことになるので、バイクや馬などは道を外れた地点に置き、全員が徒歩である。
 「馬で先行して、地上から拠点を探すつもりだったのですが……」
 パートナーのローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)と現場で落ち合う予定の上杉 菊(うえすぎ・きく)は、獣道の左右から突き出している小枝を避けながら言った。
 「ああ、そりゃ無理だ。燭竜が連絡して来た場所は、バイクや馬で自由に動き回れるような場所じゃない。だからこうして、後戻りが必要ない程度に移動して、距離を稼いでるんだからな」
 「そりゃそうだけど、もうちょっと休ませてくれてもいいんじゃね?」
 その後ろに続く国頭 武尊(くにがみ・たける)が、パートナーのシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)を見る。
 「そうね、さすがにそろそろ疲れて来たわ……て言うか、お風呂に入りたい……」
 服の汚れを気にしながら、シーリルは顔をしかめる。
 「だったら尚更、さっさと作戦を終わらせるべきだな。まあ、ある程度まで行ったら連絡待ちになるから、そこでもう一度休憩だ」
 無精髭がかなり濃くなり、良く言えば一層野性味が増した、悪く言えばむさ苦しくなった林はあっさりと言い放つ。
 (ったく、タフな教官だよなぁ。野生の熊かってんだ。教導団にゃ勿体ねえや……)
 武尊は心の中で呟く。と、林が武尊の方へ振り向いた。
 「お前、その目立つモヒカンは目的地に着く前になんとかしておけ」
 心の中を見透かされたようでぎょっとする武尊に向かって言う。
 「これで敵を驚かして隙を作ろうって作戦なんすけど、だめですかね」
 武尊は光るモヒカンを片手で撫でる。
 「姿を隠して近付いて急襲するのに、最初から目立つのはまずいぞ」
 「……そうっすか」
 林に言われて、武尊は残念そうに光るモヒカンを外す。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 「このあたりだと思うのですがぁ……」
 ヒポグリフの背中で、百合園女学院のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)はマップケースに入れて首から下げた地図と睨めっこをしていた。
 そろそろ、燭竜が絞り込んでくれた地点のうちの一つに近付いているはずなのだが、足元に見えるのは木立ちだけだ。
 「見落としたりしてないよね?」
 パートナーの剣の花嫁セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が少し不安そうに言う。焦って見落とすことのないように心がけて来たつもりだが、時間との戦いだという気持ちも確かにあって、どうしても心配になってしまう。
 「これだけの人数が居るのに、見落とすことはないと思いますわ」
 もう一人のパートナー、英霊フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が励ます。
 「いっそのこと、敵が飛んでいるところに出会うことが出来れば、見当がつけ易いのかも知れないが、戦闘は避けたいところだしな……。もう少し、高度を上げてみようか」
 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)はそう言って、ヒポグリフを上昇させた。
 高速飛空艇を発着させること、また、上空から見ても目立ちにくいという理由で、探索区域は低木や岩場の多い山の上の方ではなく、山麓の樹林地帯に絞られた。ちょうど《工場》の周囲と同じような、何の手入れもされていない自然のままの木々が鬱蒼と生い茂っている場所だ。しかし、沼や川床の跡だったり、何らかの理由で木が枯れて倒れたりなど、木立ちが切れている場所もある。そういった場所に狙いを絞って、ヒポグリフ隊は探索に当たっていた。
 「サーブル、どうだ、何か感じないか?」
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)は、乗騎に声をかけた。だが今のところは、特に変わった様子はない。
 「どうだった?」
 皆の所へ戻って来たレーゼマンに、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が尋ねる。
 「ここには、何もないようだ」
 レーゼマンはかぶりを振る。
 「じゃあ、次の場所へ行ってみましょうかぁ。えーっと……あっちですぅ」
 再び地図と睨めっこして、メイベルは次の目的地の方角を指差した。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 その頃、菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、無線で燭竜と連絡を取りながら、ようやく林部隊の所在を突き止め、合流した。
 「補給要請したのに動き回らないでください、探しちゃったじゃありませんかぁ……」
 「本当ですよぅ! せめて、どのあたりに居るとか連絡くれないと」
 葉月は半泣き、ミーナは頬を膨らませて怒っている。
 「すまんな。で、物資はこれだけか?」
 鞍の後ろにくくりつけられた背嚢を見て、あまり悪びれてもいない口調で林は言う。
 「いえ、拠点の探索に出た生徒たちも少しずつ持ってますし、あと、イレブンさんとカッティさんも輸送担当なんですが、途中でローザマリアさんたちを拾うと言って、いったん別れました」
 鞍から背嚢を外すのを手伝いながら、葉月は答える。イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)とパートナーの剣の花嫁カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)は、本校の外に出て蛮族部隊を迎撃していたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)とパートナーの英霊グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)をピックアップしに行ったのだ。
 「物資積んだ上にタンデム? 大丈夫なのかねぇ……」
 林は眉を寄せ、無精髭の浮いた顎に手をやった。
 「まあ、行ってしまったものは仕方がないか。荷をほどいて分配、あとは探索に行ってる連中から連絡があるまで小休止だ!」
 指示に従って、生徒たちは担いでいた荷物や装備を降ろし始める。
 「ヒポグリフって、飛龍と比べると遅いしパワーもないし、あんまり戦力にならないかなあと思ってたけど、こういう時に役に立つんですね」
 ポケットからねぎらいの角砂糖を出して与えながら、葉月は言った。もしヒポグリフたちが居なかったら、そもそも本校からここまで来ることすら難しかっただろう。
 「無事に届けられて良かったね!」
 ミーナも嬉しそうに、頑張ってくれたヒポグリフの首のあたりの羽毛を撫でる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 「……ん……?」
 「……あれ……?」
 まだ拠点を発見できず、樹林地帯の上を旋回していたヒポグリフ隊の中で、百合園女学院のミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)とウォーレンの『超感覚』が何かをとらえた。同時に、サーブルが落ち着きをなくす。
 「くそ、奇襲か!?」
 「おい、高度下げろ。森の中へ!」
 ミューレリアとウォーレンは慌てて、他の生徒たちに警告した。生徒たちが森の中に降りてしばらくすると、頭上を高速飛空艇が飛んで行った。一機だけで、幸いこちらに気付いた様子はない。
 「本校から戻って来た機体みたいですねぇ」
 地図とコンパスを照らし合わせて、メイベルが言う。
 「しばらくここで待ってから、奴らが向かった方向へ行ってみようぜ」
 ミューレリアの言葉に、生徒たちはうなずく。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 『こちら探索部隊。敵の拠点を発見しました』
 葉月が担いで来た小型無線機から、フィリッパの声が流れる。
 「イレブンさんたち、まだ来ませんけど……どうしますか?」
 葉月が林を見る。林は考える様子も見せずに即答した。
 「敵拠点に向けて移動する! オーヴィルたちは現地で合流できればよし、出来なければ居ないまま、手持ちの弾薬だけで攻略する」
 林の答えを聞いて、生徒たちが出発の準備を始める。林は無線機のマイクを取った。
 「こちら林だ。お前たちは森の中でこちらの到着まで待機してろ。くれぐれも敵に悟られるなよ」
 「林教官、私たちは空飛ぶ箒に乗って回り込み、教官たちとは別の方向から攻撃を仕掛けたいと思います」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)とパートナーのシャンバラ人セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)、英霊湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)、ゆる族山城 樹(やましろ・いつき)は、空飛ぶ箒を持って林の前にずらりと並んだ。
 「よし。ただしお前たちも、敵に発見されるんじゃないぞ」
 「箒なら木を縫って飛んで行けますから大丈夫だと思いますが、充分気をつけて行きます!」
 敬礼をして、祥子たちは箒にまたがり、空へ舞い上がる。
 「準備はできたか? 出発するぞ!」
 林は残りの生徒たちをまとめ、歩き出す。