リアクション
乙女とうな重と龍騎士と 「で、せっかく見えてきた岸に対して逆方向に進んでることについて一言」 内海をただ、流され漂っていた。 何故かはわからない。 もぐもぐもぐ。 「うん。なんか、すごく嫌な予感がするのよ。 あそこも軍が多そうよ。なんか賑やかな雰囲気だもの。 巻き込まれたらたまったものじゃないわ」 「軍って、そりゃ…… クィクモに来てるのは、教導団の本隊でしょ! 味方でしょ!? なんで逃げるの!?」 小さなボートに乗った三人の乙女。一人は、軍服を着ている。それは、教導団員の一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)である。 もぐもぐもぐ。 「私は戦いたくないの。 だいたい軍から抜け出してバカンスしようとしてるのよ。見つかったら懲罰ものよ。 帰るわけないでしょう!」 「あああああ、また始末書が、始末書が!」 月実に拾われ育てられたが、最近は月実の面倒を見るようになっている剣の花嫁リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)。先ほどから突っ込みまくっているように、ボケにひどさを増した月実と絶妙なバランスを取っている。 もぐもぐもぐ。 「というわけでこっちもダメとなると、進めそうなのは北の方だけかしら。 そういえばなんだか龍が飛んでるとか何とかの噂があった気がするわ。 はっ、これは手懐けることが出来れば夢のドラゴンナイトになれるチャンス! さぁ、行くわよ、行くわよ!」 「また当分漂流生活かしら。もううな重飽きたよ。 つーかいつまで喰ってるんだそこの精霊はッ!?」 もぐもぐもぐ。 キリエ・クリスタリア(きりえ・くりすたりあ)である。 「んー? リズおなかすいたの? うな重あげるよー」 「いらんわ! 飽きたっていってるだろ!」 この精霊が加わったおかげでまた均衡に微妙な狂いが生じ、リズリットの破壊力が否が応にも増している。 「あ、そうだ。ねーねー月実、龍って何?」 「ん、どうしたのキリエ? あぁ、龍ね。 説明難しいわね。空飛ぶでっかいうなぎといったとこかしら?」 「ほへー。そんなうなぎがいたんだねぇ。 空を飛ぶってすごいねー。お腹いっぱい食べたいなー。 まいにちうなじゅー!」 「そうね、一年分は余裕じゃないかしら。 毎日がうな重よ」 「全然ちげぇうなぎ! そっちも信じるな! つーか、今毎日うな重だろ!他のもの食べたい」 リズリットはうな重で二人の頭をぶん殴った。うな重の上にうな重が散乱する。うな重だらけなのだ、このボートは。 「そういえば、龍騎士が見られたなんていう噂も聞いたんだけど」 リズリットは何とか息を整え、言った。 「龍騎士? そんなものいるわけないじゃない。なんか、龍に乗ってるよーな人がいるように見えるけどそんなわけないじゃない。 まったく、リズってば夢見過ぎよ。 しかしそう。 現実に不可能そうなことでもそれを目指すのは悪いことではないの。 理想だ不可能だといわれたことを成し遂げた瞬間、それはただの可能なことに成り下がるわ。 つ・ま・り! ドラゴンを駆る私こそ最高にかっこいいとそういうわけね! ああ、カロリーメイトがおいしいわ(ぽりぽり」 「月実がいい食べっぷりだー。 あたしもたべるー(がつがつ」 「興奮して食べかすこぼすな! そっちもこぼしてんじゃねええええ!!!」 リズリットの叫びをコンロンの闇にこだまさせながら、ボートは内海を行く。 「でも龍騎士っていいねー。 今までの話まとめると、いつでもうな重食べ放題って意味だよね?」 「どこをどうまとめたらそうなるんだ!?」 「まぁ、龍がでっかいうなぎだったらそれは確かにうな重食べ放題ねぇ」 「じゃあ、私も龍騎士になるー!」 「ふふ、その意気よキリエ。今日から私とあなたは同志でありライバルよ! たとえどんな手を使ってでも龍騎士になるべくがんばっていきましょう!」 「なるな!使役の龍喰う気かあんた!」 「とりあえず陸地に出るまでは暇つぶしに龍でも釣ってみるようにがんばってみるわ。 釣り竿の先にカロリーメイトを括り付けて、と。 完璧ね! あ、うなぎが釣れたわ。捌いてうな重にしましょうか」 「そんなんで龍が釣れるかボケェ! って結局うなぎかよ!」 「おー、月実すごーい。 新しいうなじゅーたのしみー! 龍騎士さんはいつもうなじゅー食べてていいなー。 一緒にうなじゅー食べながら語り合いたいなー」 こういった調子で数週間が経つ中で、三人の乗ったボートはいつしか河口らしきところに入り込み、広大な川を流れていった。 リズリットの叫びが、幾度となくコンロンの闇にこだました。 乙女たちは気づいていなかった。 彼女らの上空を数多の飛龍が飛んでいることに。 教導団の出兵を知り、ついにエリュシオンは龍騎士兵団を動かした。いよいよ、本格的な戦争になるのか。 |
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