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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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第一章 東雲遊郭3

「じゃあ、上に熱燗をもっていっておくれ」
 妓楼『竜胆屋(りんどうや)』楼主、海蜘(うみぐも)はは、よいこの絵本 『ももたろう』(よいこのえほん・ももたろう)に二階にあがるように命じた。
 見習い遊女となった『ももたろう』はびくびくと階段を上る。
「イランダさん酷いです……ボクを遊女屋へ売り飛ばすなんて。『中で働いて報告ヨロシクね!』って……!」
 言われた部屋を探すが、薄暗く、似たような襖が並んでいてよく分からない。
 そうして廊下を歩いていると、中から男女の絡み合う声が聞こえてくる。
 『ももたろう』は顔を真っ赤にして、両手で耳をふさぎたくなった。
「どうしよう……どうしよう」
 熱燗が冷める前に目的の部屋を見つけなければいけない。
 彼女は覚悟を決めて「えい」と襖を開けた。
「わあ……!」
 そこはまるで別世界だった。
 綺麗に飾られた部屋。灯り。
 香の香り。
 中央に胡坐をかいた客と見習い遊女の胡蝶(てふ)ティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)がいる。
 姐遊女の代わりに、話し相手になっているのだ。
 しかし、ティファニはどうしていいかわからずカチコチになっている。
 大奥の女官透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)が、三味を弾きながら助けていた。
 彼女は身分を偽り、東雲遊郭へ『銀鼓(ぎんこ)』という名で入り込んでいた
「最近入った舞妓か? あまり慣れてないようだ」
 客は透玻に尋ね、彼女は後ろで一つ編んだ頭を下げる。
「申し訳ござません。三味はあまり得意ではないので……では、舞と唄を少々」
「それならばいい」
 銀鼓は自ら唄い、舞を披露する。
 このようなことは、大奥の将軍の御前でもやったことがなかった。
「……様! お待たせしました、暁仄です」
 暁仄が息を弾ませて座敷の襖を開けた。
 いそいそと客の隣に座る。
「他のお客がやっと眠ってくれたんで……え? もう、お帰りですか!?」
「これからやることがある」と、客は立ち上がった。
「そんな……今度はいつ来てくれるんですか」
 男は答えずに胡蝶ばかり見ている。
「きて……くださいね」
 暁仄が不安げに言う。
 透玻も、客人がティファニーを気にかけていることに気付いた。
「遊郭とは『愛を売る場所』じゃない、『教える場所』だ。それを実践してくれればいい」
 男はしきりに時間を気にしているらしく、暁仄に「見送りはしなくて良い」といって立ち去った。
「あの方はなんという方なんです。随分立派な身なりだったが……?」
 客が帰った後、透玻は思い切って暁仄に聞いてみた。
 しかし、彼女は落ち込んでいるようだ。
「あの方は……大大名様さ。普通ならこんな見世じゃなく、大見世にいかれるような方だよ。東雲にもめったに来なくて、最近ようやくお顔を出すようになったかと思ったのに……」
 暁仄はいつまでも客の座っていた座布団を見つめていた。

卍卍卍


 透玻の契約者璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)は葦原明倫館分校で雑用に励んでいたところで、飛脚から彼宛の手紙を受け取った。
 手紙にはこう書かれている。
『少しの間、遊郭に芸者として潜んでいる。簡単にはやられんからしばらく探すな』
「透玻様……! ご無事でよかった!」
 璃央は透玻の無事を知って喜んだ。
 遊郭へは行ってみたかったが、金の管理は透玻がやっており、登楼するお金がない……。
「同じマホロバにあって、女性が働く場所なのに、遊郭と大奥はこうも違うのでしょうか」
 璃央が心配するのは、大奥の比どころではなかった。
 彼は何とかして遊郭の情報を得られないかと考えていた。