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リアクション
第二章 第四龍騎士団1
正識は幼い頃からよくできた子供だった。
文武両道にすぐれ、容姿にも恵まれ、何でもできた。
下級武士の家に生まれながらも、その評判は広まり、やがて瑞穂藩主に見出さる。
瑞穂藩主の養子嫡男となってからは学問と槍術に明け暮れ、藩内の大人の猛者どもを打ち負かすようになった。
しかしこの頃から、不思議と瑞穂藩主は正識を身辺から遠ざけるようになる。
少年はエリュシオン帝国へ留学することとなり、一年の殆どを異国で過ごした。
やがて成人し、エリュシオンで龍騎士の地位を手に入れたときでも、瑞穂藩主は家督を正識には譲らなかった。
彼が瑞穂藩主として継いだのは、ほんの数年前、老いた大殿が老衰で逝去してからである。
正識はその一報を聞いたときも、悲しみのそぶりも動揺も見せず、その場で厳かに帝国式の仮葬儀を行った。
「マホロバに生き、瑞穂の地に眠る御霊に哀悼の意を表する」
このときはすでに審問官として執政を執っており、彼は「蒼の審問官」と呼ばれていた。
正識の端正なたたずまいと華麗な裁きに人々は酔いしれ、いつしか『神』と呼ばれるようになっていた。
七龍騎士として、第四龍騎士団団長に就任したのは、その僅か後の出来事である。
「瑞穂藩藩主、第四龍騎士団団長、正識(まさおり)様ご帰還ー!!」
瑞穂藩の城下は、この知らせで沸き立っていた。
若き藩主の姿を一目見ようと、領民が集まっいる。
「驚いた、すごい人気なんですね。えっと……正識(せしる)、いや正識(まさおり)様?」
蒼の審問官・正識(あおのもんしんかん・せしる)を前に、鬼崎 朔(きざき・さく)は言った。
城の天辺からもその様子が良く見える。
正識は正座が苦手らしく、藤椅子に腰掛けている。
「正識(せしる)でいい……で、第七龍騎士団のものが、第四を兼任するのか?」
「いけませんか?」
朔は開き直っていた。
「私は『理不尽』を強いるものが嫌いだ。この国の天子にしても、この状況を作った幕府にしても、正義面をして他人を不幸にしてるだけだ。この地を『噴花』という理不尽から護るためにも、エリュシオンの力の必要だ」
「そうか、私が聞いたところによると、キミは復讐の為に第七龍騎士団に入ったとのことだったが?」
「そうです」
「無神論者とも?」
「それは……『理不尽』な神を認めないというだけだ」
「なるほど、覚えておこう」
エリュシオンで『神』と呼ばれる七龍騎士を相手に、自分は無神論者だと答える朔。
周りにいた臣下は冷や汗のでるような思いで聞いていた。
「ところで、瑞穂藩の急進派はどうするのです。粛清するより恩情で、日数谷 現示(ひかずや・げんじ)たちをもう一度使ってやってはどうですか?」
朔は、たとえ罪人でも、有能な者は手駒として残しておくべきだといった。
「罪人がのさばる世はキミの言う『理不尽』とは違うのか? 私は七龍騎士であると同時に、瑞穂藩主であり、エリュシオン審問官でもある。日数谷は扶桑の都での戦で、一時的とはいえ、あの『鬼』と……幕府と手を携えようとしたのだ。信仰の足らぬものを瑞穂においておくわけにはいくまい」
正識の判断はすでに決まっているようだ。
朔は、この件は、表向きは譲歩して自分が独自で動かねばなるまいと考えた。
そのとき、龍騎士の一人が報告のためにやってきた。
「マホロバの大奥の女官が、正識様にお目通り願いたいと申してますが、いかがいたしましょう」
「大奥? 女官が何のために?」
興味を持ったのか正識は許可を出し、まもなく大奥取締役代理である七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、龍騎士によって連れてこられた。
「はじめまして。瑞穂藩主様にお話を伺いたくて参りました。扶桑をどうするおつもりですか? 『天鬼神の血』を継ぐ者は? この地を守るというなら、民が犠牲になる戦より、話し合いによる解決ができませんでしょうか?」
「それは……キミの考えか? 話合って何が解決するのかな。世界は動き、扶桑は枯れていくだけだと思うが」
歩に同行していた英霊伊東 武明(いとう・たけあき)は、思っていた疑問を口にした。
「それで扶桑が枯れたり、倒すことで、何らかの弊害は考えられないのですか? 世界樹が枯れれば、カナンのように土地が衰えるなどということは?」
「現にそうなっているだろう。今、マホロバ中に飢えと病が広がっている。扶桑の力が弱まり、天変地異による災害や疫病が広まる。一刻も早く、ユグドラシルの加護を受け入れなければ、マホロバは死ぬ」
正識は立ち上がり、『黄金の天秤』を二人の前にぶら下げた。
秤は輝きを放ちながら揺れている、
歩たちは左右に揺れるその動きから目を離せなくなった。
「……なのに『鬼』が邪魔しようとしている。自分達がマホロバの守護者だと思っているのだ。マホロバをむさぼっているのは、己自身だというのに」
正識は『黄金の天秤』の動きを止めた。
「『傾き』がないな……いいだろう。今日はこのまま帰るといい。龍騎士に、藩領の境まで送らせてやる。朔、キミが送るんだ。いいね?」
卍卍卍
「ククク……朔が女の送迎をやらされるとはな」
魔道書
アンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)は、歩と武明を交互に見ながらいった。
「……で、結局、瑞穂藩の急進派どもを探して説得するのは、わたくしたちでやるのだな」
「はい。しかし、正識様があの様子だと、たとえ説得しても瑞穂藩の中に迎え入れるのは難しいのであります」
スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が、事前に調べていた現示の情報を、テクノコンピューターを使って答えている。
「おそらく今はまだ、彼らは扶桑の都に潜伏してると考えられるであります」
茨木 香澄(いばらき・かすみ)が、都の方角に向かってつぶやいていた。
「どのみち、このままほっといたら、命狙われるだけだろうしねえ。だったら、こっちに来るように説得するのは同族の務めさね」
香澄はマホロバ人でかつて義賊をやっていたことがある。
「あたいも昔、護りたかったものをまもりたいと思ってるんだ。彼らもそうだといいけどねえ……」
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