リアクション
卍卍卍 鬼鎧は強力な兵器であるのは事実だが、その使い方には疑問も多くあった。 大きな問題は三つある。 一から開発することが難しく、原型にオリジナルの鬼鎧が必要であること。要改良。 二つに、起動させるには『鬼の血』が必要であること。また稼働時間も限られること。 三つに、地上戦用が殆どで空中の戦いには向いていないこと。 「鬼鎧の発掘は進んでますが、エリュシオン龍騎士に対抗するには数が不足してますねぇ。改造する必要のありますし。それにエリュシオンも、鬼鎧が伝説の鬼神の再来で、脅威である事には着目してるはずです。第四龍騎士団や七龍騎士である瑞穂藩主が、何の手も打たないとは思えないですねぇ」 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がのんびりとした口調ながらも、的確についてくる。 「数か……前から思ってたんだけど、将軍家専用の鬼鎧っていうのは居なかったのかな?」と、悠也。 「そうですねぇ。今、発掘してるのは葦原藩にあった文献や御三家に縁の地からですから、これが鬼城家のものだったといえるでしょうけどねぇ」 しかし、鬼鎧をそろえたとしても、それを動かすために『鬼の血』をどう確保するか、誰が操縦するのか、実戦で使えるかのほうが重要である。 メイベルは危惧していた。 「実際に防衛を行うなら、機動力にも優れた敵に対し、どう対抗するか考えませんとね」 不意打ちを恐れるセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、警戒を発する。 「報告では……第四龍騎士団は扶桑の都付近で目撃されています。襲撃に備えて警備をしたいと思います」 ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)は、すでに幕府に伝えてあると言った。 「将軍家の世継ぎを得ることで、血を流さずに政権を奪取しようとしたんでしょうけど、難しいと思ったのか、扶桑の墳花の失敗を好機と思ったのか、力ずくできましたね」 と、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は 「何か、こちらでも手を打ちませんと」 「それなんだけど、こんなのどうだろう?」 「火車……?」 鬼鎧調査隊の卍 悠也(まんじ・ゆうや)は、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)の持ってきた資料に戸惑いを覚えた。 「火車って火のくるまのことか? 化け猫妖怪の?」 悠也は目の前で両手をぶらり下げてみせると、佑也は笑った。 「いやいや言葉通り、車輪の形に燃える火のことだよ。コレに鬼鎧が乗るんだ」 いまいち状況が飲み込めなかったが、要は鬼鎧の補助車である。 しかも、飛行のための補助輪である。 「これは……乗ったら、鬼鎧のほうが燃えないか?」 悠也は仕様書を見ながら、誰もが思う疑問を口にした。 技術者たちの間に重い空気が流れる。 「昔人がやれて、我々ができないことはない!……たぶん」 佑也は胸を張って答える。 「昔の幕府の内乱の資料にあったんだ。燃え盛る炎の車輪が。これで、龍騎士と戦えないだろうか?」 卍卍卍 「兄様、鬼鎧の研究データは出来る限りのコピーはしておきました」 卍 神楽(まんじ・かぐら)は鬼鎧倉でひとりでたたずんでいる卍 悠也(まんじ・ゆうや)を見つけた。 「万一、瑞穂藩やエリュシオンに鬼鎧奪われてもいいように……兄様?」 悠也は鬼鎧を見上げて物思いにふけっている。 「どうしたんですか、兄様」 「ん……鬼鎧を人同士の紛争のための兵器にしていいのか考えてる」 悠也は、鬼鎧はかつて『鬼』と『人』のために戦って眠りについたのに、今度は『人』の都合で勝手に改造され、戦うマシーンにされていると言った。 「鬼鎧は旗本と主従という絆で結ばれていた。でも今は違う。彼らに戦う意思のあるないに関わらず、戦うんだ」 「鬼鎧が……謀反を起こすかもしれないと、心配してるんですか?」 悠也は答えなかったが、その可能性は十分にあった。 前将軍の鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)は、鬼鎧の重要性は認識していたものの、その発掘や改造に関しては葦原藩に任せきりであった。 「鬼と人との絆が薄いように思うんだ……魔夜、一寸頼めるかい?」 悠也はマホロバ人の黒妖 魔夜(こくよう・まや)を呼び、頼みごとをした。 「将軍様や天子様の事、扶桑の事……あとはエリュシオンの事を鬼鎧伝えればいいの?」 「うん、その上で戦う意思のある鬼鎧だけに戦って欲しいんだ」 「わかったよ、魔夜。やってみるね」 魔夜は小さな身体を鬼鎧の胴へと滑り込ませた。 「ねえ、ねえ鬼鎧さん。どう思う? 一緒に戦いたい?」 しばらくしてクリアでない、ノイズののった音のようなものが返ってきた。 きっと、改造で色々といじったからだろ。 「……鬼鎧も迷ってるみたいだよ。主(あるじ)がいれば……っていってる」 「そっか、やっぱり武士なんだね。彼らも侍になりたいんだろうか……?」 悠也は、果たしてこのことを理解する人間がどれほどいるのかと考えた。 「米軍が介入してきたら、単に兵器として組み込まれるだけじゃないか……?」 そんな不安が常に付きまとっていた。 |
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