リアクション
卍卍卍 「にいさま? 正識(まさおり)お兄様がお戻りになってるの!?」 「ああ、若殿様は、草の根分けても日数谷 現示(ひかずや・げんじ)たちを探しだそうとしている。もっとも、マホロバ侵攻のための、体(てい)の良い言い訳のようにも思えるが」 葦原明倫館紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の報告に、瑞穂睦姫(みずほの・ちかひめ)は一瞬顔を輝かせたが、すぐに消沈した。 「きっと怒らせてしまったんだわ……」 睦姫は僅かに身震いし、雪千架を掻き抱く。 「私が死んだことになっていて、本当のことが言えないのがどんなにもどかしいことか。真実を知ったら、きっとお許しにはならないわ。厳しい方だもの」 睦姫は唯斗たちとともに、一箇所にとどまらずにマホロバ中を転々と移動した。 国外に逃げることもできたが、まだこの国にとどまっていた。 「睦姫、正識について何か知ってないか? 若殿様の目を覚まさせてやりたい。天子がマホロバを見捨てたわけないだろう? 日数谷にも伝えてやりたいんだ。最悪の場合、葦原に呼ぶことも考えてる」 「お兄様は、一度決めたらそう簡単には翻さないと思うわ」 唯斗は睦姫の怯えようが気になった。 「そんなに怖い兄貴なのか? 妹にも?」 「いいえ、先代の瑞穂の大殿様はあまりお子に恵まれなかったの。正識兄様は養子。私は分家の姫だったから、血は繋がってないわ。でも子供の頃は、本当の妹のように可愛がってくれた」 睦姫は遠い懐かしい記憶を思い出しているようだ。 そのときアリスの紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が、血相を変えて飛び込んでくる。 「唯斗兄さん! 大変です、上空に龍騎士の姿が! もしかして、私たちのことが知られたんでしょうか!?」 「何だと! エクスとプラチナムはどうしてる?」 「エクス姉さんが敵をひきつけるって……今のうちに逃げてください!」 唯斗は急いで支度をさせ、この場から立ち退く。 万が一に備え、普段から邪魔な荷物類はほとんど持たないようにしている。 唯斗たちが後方から逃げるのを確認して、剣の花嫁エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)がわざと見つかるように龍騎士の前に躍り出た。 「睦姫の所には行かせんよ! わらわが相手になってやろう!」 エクスが光条兵器の長い双剣を構える。 「了解しましたマスター。私が追跡をかわしますね」 魔鎧プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が、白金の闘衣となる。 唯斗たちに護られながら逃げる途中で、睦姫は空を見上げた。 太陽の光を受けて輝く龍の姿と、正識の姿が重なる。 「そういえば、兄様にもらった十字架(ロザリオ)。どこか……大奥に置いてきてしまったのかしらね」 それから程なく、瑞穂藩を拠点とした第四龍騎士団は動きを開始した。 手始めは、逃げている瑞穂急進派の捜索と称しての、マホロバ侵攻である。 龍騎士をいうエリュシオン帝国最強の軍が空を駆ける。 その数、数千――。 マホロバの人々は恐怖におののいていた。 |
||