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リアクション
第三章 幕臣2
マホロバは四方を雲海に囲まれている。
それが今日までの鎖国を守り続け、他国からの侵攻を退けてきた天然の要塞でもあった。
しかし、エリュシオン龍騎士の存在は、その天然要塞も意味を成さないことだろう。
幕府空海軍――
マホロバの命運を握っているといってもよい。
「えー、今日から『空海軍奉行並』を拝命した篠宮 悠(しのみや・ゆう)だ。マホロバ空海軍の強化をまかされている。やる事は多いが共に協力し合い、この危機を乗り越えよう。以上だ」
壇上から降りてきた悠を、七篠 類(ななしの・たぐい)が称える。
「随分と立派な挨拶じゃないか。サマになってたぞ」
「皮肉はよせ。これでもかなりいっぱいいっぱいだ」
悠はこれからマホロバ中に出す御触れを考えているのだといった。
「これだよ」
『エリュシオン帝国に対抗する軍勢を組織するに当たり、多数の志願者を募る』
一、兵役に志願する者、在籍している者は本格的訓練が始まるまでに、これに耐えうる基礎体力を養う事
二、多数の装備を要する為、鋳物・鍛冶・造船を始めとした空海軍の装備製造に携わる匠はマホロバ城下に集結する事
真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)が立て札を読み上げる。
「先の内戦で、錬度不足が浮き彫りにはなりましたが、銃の扱い、船舶の操舵技術、航空手段の操作技術……この訓練を早急に行い、秀でている者を抜擢しなければと思います」
真理奈の説明に類は感心していた。
「へえ、これは大掛かりだな」
「というか、あんたも他人事じゃないぜ」
「何が?」
「俺が『軍艦奉行並』に推挙しといたから。軍艦作り、頼んだぞ」
「な、なにー!?」
「マホロバの危機に真っ先に駆けつけてくれたんだから、それくらいはしないとな」
悠の突然の言葉に驚かせられたが、類も覚悟を承知でここまでやってきていた。
類は、彼なりに調べた上で、マホロバの軍艦作りに付いて語った。
「マホロバは良質な金、銀、銅、スズ、鉄……なんでも取れるんだ。木も水もある。ただ、問題は……」
「問題?」
「絶対量が少ない」
「だから今、マホロバにあるもの、ありったけ集めて軍艦をつくる。使えるものは何でも使う。あれだ、制約があったほうが匠も燃えるだろ?」
「そんなもんかねえ」
「造船所はまかせてほしい。あとは……金だな」
類は、人差し指と親指でわっかを作ってみせた。
「うまく、各藩からひねり出させて欲しい。幕府の勘定だけでは厳しいだろうからな」
「しかし、地方の藩がうんと言うだろうか。ただでさえ、幕府は外国に弱腰だの、力がないだの陰口を言われてるんだ。幕府転覆を狙う奴らの思う壺では……」
「実際に扶桑が枯れていってるんだ。それも、将軍のせいだと思っている。人々が不安になるもの無理はあるまい。当然、その矛先はお上に向かう。それを何とかしてマホロバを起たせようってのが、俺たちの役目じゃないか。なあ?」
・
・
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「そんな軍艦なんて、みようみまねでつくれってか。旦那も無茶言うねえ」
匠たちはそういいながらも、類の提案した造船計画書に興味深そうに目を輝かせている。
提示した条件は遥かに難しく、厳しいものだ。
しかし、最初からないものを作れというより、いかに工夫していかに規格内におさめるかという仕事をさせたら、パラミタでもマホロバ人をおいて他にいないだろう。
彼らは勤勉であり、仕事熱心だ。
「まず、攻撃用の小型高速船と輸送のための大型船は絶対に必要だ。大型のものは大砲もつんで、鬼鎧を運ばせたい。武器も」
やがて造船所に匠が集められた。
グェンドリス・リーメンバー(ぐぇんどりす・りーめんばー)が雑用などを手伝いう。
「マホロバ人を助けるんでしょ。うん、ご飯作ったり、洗濯したり……私も手伝うよ。皆なる暇もないくらい急いで仕事するんだもん。私もこれくらいやんなきゃ」と、グェンドリス。
尾長 黒羽(おなが・くろは)も周囲に気を配っていた。
彼女は匠の一覧表を預かり管理している。
「これだけの事業を進めるからには、人材の管理はどうしても必要ですわ」
「急に人口が増えたら、問題ごとも増えるであります。我輩が警備・調整をするであります。匠には仕事にのみ、集中してほしいであります」
頤 歪(おとがい・ひずみ)が見回りを行う。
手探りながらもそれぞれの役割を担いながら、マホロバ幕府の軍艦作りが始まった。
一方の金に関しては難航していた。
「マホロバの国力で生産、維持可能な兵器の量を割り出す必要があるわ。軍艦や装備の改造、増産は必要だし。でも、幕府の財政事情も考えないとね」
国家の財政は家計のそれとは用途も規模も違う。
益川 亜佐美(ますかわ・あさみ)は胃が痛くなりそうだった。
「決めるのは幕府だけど、提案しておくだけしてみましょう」
亜佐美は悠に、取り合えず軍艦十隻、輸送船三十隻を目指して欲しいと頼んだ。
「あとね、これとは関係ないんだけど、両替商にまつわる苦情がきてるみたいよ」
「両替商?」
どうやら両替商が、外国人相手にマホロバ通貨への両替手数料を吊り上げているらしい。
「幕府も新しい武器弾薬買うなら物入りでっしゃろ。わてら外国から粗悪品売りつけられても損せんようにしてんねん。感謝してほしいくらいやわ」
両替商はしれっとシラを切った。
「どうせ外国人はんは、たんまりもってんねん。わてら商売人や。もうけさせてもらうわ」
商魂逞しい商人はどこの世界にでもいる。
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