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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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第一章 東雲遊郭9

 遊郭の朝は大門が開く早朝に客を見送ることからはじまり、終わる。
 大門の前では、別れを惜しむ姿が多くある。
 その中でも、一際目を引く美しい遊女と客人がいた。
「……様、アタシはもう……遊女としてお終いでしょうか」
 女は名残惜しそうに客人を見つめている。
「最近の客はアタシに触れず、添い寝だけ希望するんですよ。あなた様も……そうでしたね。いつも何もしない。ただ遊郭は『愛を教える場所』とおっしゃる」
 客は遊女に何やら耳うちした。
「――え? ええ、幕府はまだ、龍騎士に対抗する術はないようですよ……逃げた瑞穂藩士?もちろん来たら残らずお教えしますよ。幕府のことも。うちは上客も来ますから」
 遊女は客人の袖を握りしめて切ない声を上げる。
「だから絶対、またいらしてくださいね……必ずお待ちしてますから……」

「……正識様……」

卍卍卍


 一仕事を終えた遊女たちは、ようやく自分の寝床で睡眠をとることができる。
 やがて昼前に起きだし、風呂や身なりを整え、午後からの見世に並ぶ。
 暁仄も起きだして、胡蝶と海蜘が話し込んでいるのを見た。
「じゃあ、あの客に決めたんだね。身請けまでも?」
「あんな大金つまれちゃあねえ、断る理由もなし。いいんだね、胡蝶」と、海蜘。
 ティファニーは小さく頷いている。
 暁仄は残念そうな顔をして見せた。
「……アタシはお前が『竜胆屋』の看板をしょってくれるかと思ったのにねえ」
「暁仄姐サン……ミーは……」
 ティファニーは言いかけて、黙り込んだ。
 海蜘は巻紙を見てくれと暁仄の前に広げる。
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)のパートナーテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が持ってきたものだ。
「100万G置いてったお嬢様の御使いっていう娘が来たんで、さっき話をつけたよ。遊女として使えないものや病気持ち、遊郭の禁を破った厄介者を押し付けてやったさ」
「じゃあ、ほかの者は残るんだね?」
「当たり前だろう。うちは太夫をだすような大見世じゃないが、初代将軍様が幕府を開いた頃からこの商売やってんだよ。突然やって来た外国連中に、つぶさせるもんかい。廓(くるわ)は遊女が全て。この大金も新しい娘を買ってくる金になるだけさ」
 海蜘は胸を張ってそう答えた。