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リアクション
★ ★ ★
「霧っていったら、湖の上なんかによく発生するよね。だから、多分、湖が発生源なんだよ」
ちょっとした思い込みで決めつけて、夏野 夢見(なつの・ゆめみ)が道を急いでいた。
「七不思議によると、この先に季節限定で現れる湖があるそうですぅ。霧が突然現れたから、きっと湖も突然現れているに決まっているですぅ」
「やけに、嬉しそうだな。もしかすると、この霧が襲いかかってくるかもしれないっていうのに」
ちょっとはしゃいでいるように見える桜花・ミスティー(おうか・みすてぃー)に、ルーク・ヤン(るーく・やん)が言った。
「だって、この霧って、そばに居る人の過去を形にして見せてくれるってイルミンの生徒たちが噂してたじゃないですかぁ。美術館でも、この霧のせいで絵が抜け出てきたっていう噂もありますし、ちょっと、自分の過去って見てみたい気がしません?」
何かを期待しているかのように、桜花・ミスティーが答えた。なにしろ、彼女には過去の記憶がない。夏野夢見を吸血してパートナー契約を結んだときに、あろうことか逆に襲われて大量の血を吸われたために記憶喪失になってしまっていたのだ。そのため、自分が忘れているであろうことを具現化してもらえるのであれば、これは願ってもないことだ。
「そうそう、思い通りの物が出てくればいいが、変な物が出てきたら俺は嫌だぜ」
なるべく変なことは考えまいとして、ルーク・ヤンが言った。特に、強化人間になる前の病弱だったときにそばに居た鈴という少女とのことはまだトラウマだ。手術前に失敗の可能性を話したら、その場で一生の思いで作りを強要されそうになったのだから。違う意味で、それは一生の思い出となっている。もし、そんなシーンが再現されでもしたら、逃げるしか方法がなかった。
「おや、さっそく、出た……というわけではないみたいね」
霧の中を進む奇妙なコンビを見つけて、夏野夢見が足を止めた。ちょっむせかえるような甘い花の香りがする。
前を進むのは、頭に黒蓮の花飾りをつけた小さな子供のようだ。それがふわふわと宙を浮かびながら進んでいる。その後ろを、白いエプロンドレスを着た少女がふらふらとついて歩いていた。
「ワタシじゃないよ」
桜花・ミスティーもちょっと残念そうに言う。
彼女たちがもう少し人に対する知識があれば、それが小型機晶姫に導かれているアルディミアク・ミトゥナだと分かったのであろうが、いかんせん、そのときの夏野夢見たちの目的はまったく別のところにいってしまっていたので気がつかなかった。
「違うにしても、ちょっとおかしい気がするぞ。ちょっと、桜花、聞いてこいよ」
「何を聞くって言うんですぅ。そういうことは、男の子が率先してやってほしいですぅ」
ふいにルーク・ヤンに命令されて、桜花・ミスティーがちょっと頬をふくらませた。
トラウマのせいで女性が苦手なルーク・ヤンとしては、女の子に話しかけるなんてとんでもないことだ。なので、ここは桜花・ミスティーか夏野夢見に確かめてきてほしいというのが本音である。だいたいにして、彼女たちとこうして相対しているのだって、結構頑張っているのだから。
「しかたないなあ」
とりあえず怪しいので後を追いかけようとした夏野夢見の前に、突然自分自身が霧の中からよろよろとよろけながら現れた。その後ろから、桜花・ミスティーが現れる。
「これは……」
ついに出たかと、夏野夢見たちが身構えた。
「いただきまーす♪」
「ああんっ♪」
よろよろしている霧の夏野夢見の首筋に、霧の桜花・ミスティーが噛みついた。乾きを潤すかのように吸血を始める。それにして、服はぼろぼろで、頬も痩せこけている。まるで行き倒れ寸前という感じだ。よほど、お腹が空いていたに違いない。
「ううっ、血が吸いたい……。かぷちょ♪」
「えっ!?」
突然新たに霧の中から現れた二人目の夏野夢見が、一人目の夏野夢見を吸血していた桜花・ミスティーの首筋に噛みついた。
「ああ、あのときは、突然目覚めちゃったので、とにかく血が吸いたかったんだよね」
昔を懐かしむかのように夏野夢見が言った。
「限度があるですぅ。あのとき、ワタシは失血で死にかけて記憶までなくしたんですぅ」
桜花・ミスティーが今さらながらに抗議した。
だが、事はそれでは終わらなかったのだ。
「ううっ、死ぬ、死んじゃうですぅ。かぷっ♪」
またもや霧の中から現れた二人目の桜花・ミスティーが、よろけながら二人目の夏野夢見の腕に噛みついた。そのまま、チューチューと吸血を始める。そして、その桜花・ミスティーの腕には別の夏野夢見が噛みついていた。そして、その身体には別の桜花・ミスティーが……。だんだん、噛みつく所が定番の首筋ではなく、お尻とかいろいろ変な所になって数珠つなぎになっている。
「シュールだ……」
思わず、ルーク・ヤンが絶句する。ますます、女性不信になりそうな光景だ。
「ちょっと、これは明らかにおかしい!」
夏野夢見と桜花・ミスティーが声を揃えて叫んだ。
「血……、血……。このままじゃ死んじゃう、死んじゃうから……」
一番先頭の霧の夏野夢見が、どんどん吸われていく血の補充を求めて、本物の桜花・ミスティーたちの方に手をのばしつつ、唇から牙をのぞかせた。
「冗談じゃないんだもん。こんなのに血を吸われたら、今度こそ死んじゃうもん!」
「なかったことにしようね」
「うん」
何やら一瞬で合意に達すると、夏野夢見がサイコキネシスで霧の夏野夢見と桜花・ミスティーたちを一列に並ばせて動きを止めた。
「ほら、ルークも手伝う!」
命令されて、ルーク・ヤンもとにかく手伝う。
「行くですぅ!」
満を持して、桜花・ミスティーが一気にファイアストームで自分たちのコピーを焼き払った。ペットのサラマンダーが、焼き残した霧をブレスできちんと掃除していく。
「怖い……、いろいろと怖い……」
新たなトラウマをかかえて、ルーク・ヤンはその場にしゃがみ込んでいた。
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