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リアクション
●法起寺で、ウマヤドピンチ!
「……俺を捕縛して、どうするつもりだ」
一方、法起寺の三重塔の中では、トヨミの言う通りの人物――見た目二十歳前後、顔はイケメン、しかし不機嫌――、ウマヤドが、縄を打たれて座らされていた。
「あなたを是非とも我が教導団にと思ったのですぅ。聖徳太子といえば、日本のお札の神様なのですぅ。教導団に来てもらえれば、恒常的な歳入欠陥を直すことができるはずですぅ!」
白羽扇をぱさ、とかざして、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が確信の篭った台詞を吐く。
「確かに俺は、日本の歴史の中で一万円券、五千円券、千円券に出てきているらしいが、だからといって金を自由に生み出せるわけではないぞ。そもそも紙幣の歴史は俺が死んでから約七百年も後だ、俺は何も関与していない」
「…………へ? つまりあなたをどうこうしても、お金は一銭も出てこないというのですかぁ?」
「出てこんな。……分かったらさっさと縄を解け。ちょっと休憩のつもりが酷い目に合った、後でトヨミに何と言えばいいのだ……」
呆然とする伽羅のところに、うんちょう タン(うんちょう・たん)と皇甫 嵩(こうほ・すう)が駆け寄る。
「義姉者、外にパラミタからの観光客が集まってきてるでござる。どうやら嗅ぎつけられたようでござる」
「昴と平が抑えているが、幾分も持たぬ状況にござります。なにとぞご判断を」
うんちょうと嵩の具申に、伽羅が扇をはためかせて思案する。
「ここは只今取り込み中、立ち入り禁止であります! ……勘弁してくれよ、どうして僕がこんな役目を……」
「何やこの人だかり、暑苦しくてかなわんわぁ! ……ムチムチ姉ちゃんおったら知らせてな、コウジ」
「んなもん自分で探せぇ!!」
徐々に人の集まりつつある法起寺三重塔の前を、昴 コウジ(すばる・こうじ)と平 教経(たいらの・のりつね)が塞いでいた。
「……何の騒ぎでしょうか? しかし、せっかくの日本最古でありかつ日本最大である三重塔を見に来たのに、これではじっくりと見ることができませんね」
「もう! 静かな境内でお団子でも、と思って来たのに! なんなのよ一体!」
その様子を、御凪 真人(みなぎ・まこと)が不思議そうに見遣り、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が抗議の声をあげる。
「もしかしたら、探していると言っていた聖徳太子がここにいるのかもしれませんね。だからこれほど人が集まっているのかもしれませんね」
「正直寺にも、ウマヤドとかいう男にも興味ないわよ。私は真人と観光できればそれで――」
つい口走ってしまったのに気付き、セルファが慌てて弁解する。
「ち、違うんだからね! 他にすることないから仕方なくなんだからね!」
「ええ、知っていますよ」
「何が知ってるのよ!! もー、行くわよ、真人!」
セルファがぷいと背を向け、すたすたと歩き去っていくのを、真人がのんびりとした様子で付いていく。
「大和さん、この状況、どう思いますか?」
「そうですね……完全に俺自身の推測ですが、ウマヤド君はあの中にいますね。それも、誰かに囚われる形で」
ここまで一緒に行動をしてきた二人、遠野 歌菜(とおの・かな)が問いかけるのに対して譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が自らの推論を口にする。
「ええっ!? じゃ、じゃあ、助けないといけないんじゃない!?」
「俺たちで何ができるかどうか分かりませんが……一つ芝居を打ってみましょう。歌菜さん、協力していただけますか?」
「うん、分かったよ、大和さん!」
大和が手順を説明し、歌菜がそれに頷く。そして機を見計らって、大和が入口に立つ二人へ問いかける。
「君たち! トヨミさんがここに向かっているようだ!」
「トヨミちゃん、完全に魔法少女炸裂な雰囲気だったから、早く逃げないと大変だよー!」
「な、何ですと!? ……しかし勝手にここを離れたら、確実に伽羅に蹴られる、それだけは……!」
「ま、言われたことはきっちりやらんとな。……にしても嬢ちゃん、案外ええ身体しとるのう……」
「ちょ、ちょっと何なのよ! 近寄らないでよ!!」
段々と険悪な雰囲気になっていくのを、神和 綺人(かんなぎ・あやと)とクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が怪訝な表情を浮かべて見守る。
「あまり良くない雰囲気だね。ウマヤドさんが中にいるのかどうかはともかく、トヨミさんが来てくれたら解決するだろうにね」
「アヤ、私、アヤが不快だって言うのでしたら、止めてきましょうか? 私、アヤより力あると思いますし、あの肥満体の相手くらいはできると思います」
「肥満体って……。そんな、クリスを危険な目には合わせられないよ。……僕はね、多分ここにトヨミさんが来ると思うんだよ。歴史的建造物があるこの場所で騒いでいるのを、トヨミさんが見逃すはずはないと思うんだ」
「……アヤがそういうのでしたら。ですが、本当に来るでしょうか――」
首をかしげたクリスは、直後門から発せられる風のような衝撃が周りにいた生徒たちを退けさせ、入口を護っていたコウジと教経が何もないはずの空間に磔にされているのを目撃する。
「だいたい話は聞かせてもらいました。……つまり、そこにいる二人と、中にいる三人にお仕置きをすればいいんですよね?」
「ほらね、来たでしょ?」
「来ましたは来ましたが……なんでしょう、私、とても嫌な予感がするのですが――」
クリスの予感を裏付けるかのように、トヨミが腰の辺りに構えた杖に橙の光が集まっていき、それはやがて一つの巨大な鏃となって顕現する。
「私、怒りましたからね……! ウマヤドにひどいことをした人には、相応のお仕置きを受けてもらいます!」
怒りました、と言わなくても誰もが分かる魔力の流れが、その場に居た誰をも拘束しているかのようであった。
「ヒノ、行くよ! ……陽乃光一貫! 天に召されなさい!」
「だからこんな役目は嫌だったんだー!」
「まあ、長く生きてりゃ、こんなこともあるやろ。相手が帝っちゃあしゃーない」
「こ、この光は一体何なのですぅ!?」
「まさか、これが日出処を治めた者の力!?」
「義姉者ーーー!!」
三重塔の外にいたコウジと教経、そして中にいた伽羅とうんちょう、嵩は、魔力の奔流に消し飛ばされ、文字通り天に召され……はしなかったものの、まとめて法隆寺の五重塔のてっぺんに引っかかっていたとかいないとか。
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