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リアクション
●先生! どうか教えてください、魔法少女の極意を!
そして、講堂に到着したトヨミを待ち構えていたのは、『魔法少女の極意』を学ばんとする者たちであった。
皆一様に、期待に満ちた表情を浮かべているようである。
「え〜、それでは……ってこれ本当に読むんですか!? もー、誰ですかこんなの用意したの……え〜、コホン……」
トヨミが息を吸い、一気に言い放つ。
「みんなー! トヨミちゃんの魔法少女講座、はーじまーるよー!」
「ウオオオオォォォォォ!!」
どこからか野太い歓声が聞こえ、そしてトヨミが顔を真っ赤にして塞ぎ込む。
「はうぅ、は、恥ずかしいですー。……あ、最後にこう書いてありますね。『今からトヨミちゃんのことは『先生』と呼ぶこと』だそうです。……いいですね! ちょうど私もこんな格好なので、採用しましょう! 皆さん、私のことは先生って呼んでくださいね♪」
恥ずかしさから一転気分を良くして、トヨミがぺたんこの胸を張り、そして授業? が開始される。
「先生! 日本で最初の魔法少女は卑弥呼であると教わったのだが、本当だろうか!」
まず最初に手を挙げたのは、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)であった。
「私はそう聞いていますねー。もちろんお会いしたことはないのですが、伝説に残る魔法少女だったと聞いています。叶うならば一度お会いしてみたいですねー」
「先生! あたしたちには変身アイテムがないので困ってるんだけど、先生の変身アイテムは何なの?」
リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)の問いに、牙竜が付け加える。
「おお、その件だが、聖徳太子が一枚噛んでいるのではないか? 彼が変身アイテムやロボットなど、その後の魔法少女やヒーローにまで影響を与えるアイテムを作ったと聞いているのだが」
「う、ウマヤドはそんなことしてませんよっ!? 変身するためのアイテムはないんですよー。私が持ってるのはこの杖だけです」
言ってトヨミが、前に取り出した杖『日本治之矛』を顕現させる。
「うわーカッコいいー!! あたしもいつかそんな杖を手に入れられますか!?」
「えっと、頑張れば手に入ると思います!」
トヨミの問いに満足したようにリリィが席に着く。次いで手を挙げたのはクラーク 波音(くらーく・はのん)だ。
「先生! あたし先生のぱんつが見たいな!」
「い、いきなり何を言うんですかっ! 見たいって言ったって見せられませんっ!」
まさにいきなりの質問に、トヨミが慌ててスカートを押さえる。
「えー、見せてくれないのー? ララ、魔法少女のぱんつってどんなのか見てみたいから、お姉ちゃん、お手伝いするよ!」
「よーしララ、きっと先生は恥ずかしがりやさんなんだ! スカートめくってぱんつを見ちゃおうね!」
「うんうん、見ちゃう見ちゃうー!」
ララ・シュピリ(らら・しゅぴり)と波音が、んっふっふ〜と微笑みながらトヨミに近付いていき――
「や、止めてくださーい!!」
杖から発射された魔力の波動に巻き込まれ、波音とララが講堂から弾き飛ばされていった。
「もー! ぱんつは見えないからぱんつって言うんですよ! あ、ちなみに、『パンツ』は見えるんですよ。……でも、この前も誰かさんに「先生……ぱんつが見たいです……パンツは見たくないです……」って言われたんですけど、ぱんつってそんなにいいものなんですか?」
「い、いいかどうかは分からないけど、いやらしい目をしてスカートがめくれる瞬間を待ち構えている人は知ってるなあ! ……そうか、つまり私がスカートの中を見られないようにするためには、『ぱんつ』を履けばいいのね!」
トヨミの気合の篭った、そして首を傾げつつの発言に、久世 沙幸(くぜ・さゆき)が感銘を受けたように呟く。
「先生! パートナーに超ミニスカの魔法少女コスチュームを着せられてるんだけど、先生の言う『ぱんつ』はどこに行けば買えるのかな!」
「えっと、ぱんつならここを出て右に曲がって、二百間くらい行った先にあるお土産物屋さんに売ってたと思います!」
「ありがとうございます先生、今すぐ買って来ます!」
言うが早いか、沙幸がダッシュで講堂を飛び出していく。……妙に現実的な距離にあるその店に本当に売っているとしたら、おそらくは一躍有名になっていることだろう。
「先生! 先生は呼び名とか持ってるのか? ほら、よく『魔法〜〜』とかあるだろ? よかったら聞かせてくれないか? ……それで、もしよかったら俺にも何か呼び名をつけて欲しいんだが、どうだ?」
騒ぎが収まったところで、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が手を挙げる。
「えっと、まず最初の質問の答えは、『魔法少女トヨミちゃん』です。『終身名誉魔法少女豊御食炊屋姫尊』もあるにはあるんですけど、長すぎて使ったことがありません。呼び名は……ごめんなさい、少し考えさせてください」
「ふむ、ではわらわも一つ聞いてみよう。魔法少女には決め台詞や前口上といったものがあるのは当然じゃが、さて、先生はどんな言葉を用意しておるのであろうか?」
「と、当然なんですか? まず私はそこに疑問を抱いていいですか?」
次に手を挙げた悠久ノ カナタ(とわの・かなた)の問いに、トヨミが抗議の声をあげる。
「何を言っておる、これは魔法少女にとって至極重要なものじゃぞ。わらわですら用意しておるのじゃからな」
そう言って、一つ間を置いた後にカナタが言い放つ。
「刮目せよ! 天に輝く紅蓮の光! 悪を打ち砕く正義の焔! 魔法少女スカーレット★カナタ、ここに見参!」
どこからともなく付加されたエフェクトの中、決めポーズを取ったカナタに拍手が浴びせられる。
「え、えーと……ごめんなさい、では私も何か考えておきますね。……あ、ケイさん、呼び名ですが、『魔法少女エターナル★ケイ』なんてどうでしょう。カナタさんがスカーレットを使われてしまったので、ケイさんはカナタさんの苗字から借りました」
「おお! いい呼び名だぜ、サンキュな!」
「ぬぬ、ケイも魔法少女の仲間入りってかよ! せ、先生! ご主人にも呼び名と衣装を与えるなり貸すなりして、魔法少女と認めさせてくれ! ちなみに呼び名は『魔法少女ストレイ☆ソア』だぜ!」
雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が勢いよく手を挙げながら言う。
「ベ、ベア、私は魔法少女だなんて、そんな――」
「いいですよー。じゃあ呼び名はそれで、衣装は……えい♪」
言ってトヨミが掌をかざせば、あっという間にソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)の服が、最初トヨミが着ていた服と同じものに変わる。……変身シーン見せられなくてごめんなさい、いつかアニメ化した時にでもどうぞ。
「お、さすがご主人、似合ってるぜ! んじゃこの調子で決めゼリフもいってみようぜ!」
「あ、アレは恥ずかしすぎて、こんな場じゃとてもできませんっ」
「いいですねー。私も練習ついでにお付き合いさせてもらえますか?」
トヨミが一時的に魔法少女モードに変わり、ソアと二人並ぶ。ここまでされてはとソアも覚悟を決め、そして言い放つ。
「あなたのハートにサンダーブラストッ! 正義の魔法少女ストレイ☆ソア、ただいま参上ですっ!」
やはりどこからか付加されたエフェクトの中、決めポーズを取ったソアとトヨミに拍手が浴びせられる。
「うあああ〜、やっぱり恥ずかし過ぎます〜っ!」
「ご主人……ご主人のその姿が見られただけで、俺様満足……ってご主人!?」
顔を覆って外に飛び出していくソアを、ベアが追う。その騒動冷めやらぬまま、手を挙げる者たちがあった。
「先生! ボクは萌え属性を得たいんだ! だから今からボク、変身します!」
「あたしもよ! 三千年巫女をしてきたあたしが、トヨミちゃんに負けるはずがないわ! 勝負よ!」
「え、えーと、何でですか? それと、何でですか?」
萌えがどうのと言うカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)、そして何やらライバル心を抱いているらしい八坂 トメ(やさか・とめ)に、トヨミがどう答えていいのか戸惑う。
「ジュレ! 衣装の方、よろしく!」
「……はぁ」
カレンの声に、魔法少女には欠かせないとの不思議理論から用意された着ぐるみを着たジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、呆れつつもカレンを人目に晒さないようにしながら、着替えを手伝う。ただ、これまたどこからかエフェクトがかかり、シルエットだけが明らかになっていたため、これはこれでえろい。
「イルミン ラブミン ミラクル マジカル〜」
一方トメは、魔法少女の口上を唱えながら、身に付けていた衣装をふわりと舞わせる。そして、ほぼ同時にカレンとトメが、一方はとってもミニなスカートのセーラー服、一方はフリルを多めにあしらったワンピース姿で、言い放つ。
「世界はボクを待っている! 大胆かつ華麗な魔法少女ジュエリー☆カレン、いっくよー!」
「トメさんなんて呼ばないで! 三千年巫女風味魔法少女サイクロン☆トメ、行きます!」
「はい、二人ともとても可愛らしいですね♪」
(あっさり肯定されたーっ!? 嬉しいかもしれないけどこれはこれで何だかとっても複雑ー!!)
トヨミの屈託のない笑顔に、三者三様にダメージを受けつつ、すごすごと講堂を後にする。
「せんせー! せんせーのひっさつまほうってなんですかー?」
次に手を挙げたのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だ。
「えっと、私は大した魔法が使えるわけではないので、そんな技はないですよー。もしあるとするなら魔法少女スマイル、でしょうか? 笑顔には自信ありますよー」
「えがお? ボクもえがおとくいだよ〜。せんせー、今日はガイドしてくれてありがとね〜」
とてとて、と近付いてきたヴァーナーが、トヨミに抱きついてその頬にキスを見舞う。周囲からどよめきが漏れる中、知り合いのところへ駆けていくヴァーナーを見送ったトヨミが、ため息をつきながらそっと呟く。
「言えません……あんな無垢な笑顔を浮かべた子に、「必殺技は『陽乃光一貫(ひのひかりひとぬき)』、魔力を杖の先に集中させて相手をブチ抜き、零距離魔力放射で粉砕します♪」なんて言えません……」
「えっと、先生? あの、元気出してくださいね?」
涙すら浮かべるトヨミを、ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)が励ます。
「今です、ティティ! あなたの魔法で、先生を癒してあげてください!」
その様子を、スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)がデジカメのシャッターを切り続けながら見守っていた。スヴェンの趣味で着せられたと思しき魔法少女チックな服装に身を包んだティエリーティアを、講義を受けていた者たちはいけないと思いつつ見惚れてしまう。
「そ、そんな、癒してあげてって言われても……魔法少女? まじかる☆てぃえる、キミの傷を癒しちゃうぞ♪ ……うう、なんでボクこんなことしてるのぉ……」
「あーもう、本当に私のティティは可愛いですね! こうなったらメモリーいっぱいまで撮っちゃいますからね!」
もはや発狂気味にシャッターを切るスヴェン、そしてトヨミが涙を拭いて、顔を上げる。
「……そうです、気を落としていては講義になりませんよね。心配してくださってありがとうございます、私はもう大丈夫ですよ」
「えっと、元気になってくれたのでしたら何よりです」
ティエリーティアが席に戻るのと同時に、十六夜 泡(いざよい・うたかた)が手を挙げる。
「先生、私最近ヒーローを始めたんですけど、終身名誉魔法少女の先生に、ヒーローや魔法少女を続けていく上で何かアドバイスを頂けないでしょうか?」
そう質問する泡から、「もう少し外見が若ければ、魔法少女って名乗ってたんだけどね〜」という声が聞こえたような気がしたとかしなかったとか。
「それは、本人がヒーローである、魔法少女であるという意識が大切です。できるだけ長い間意識をし続けることで、私はどうあるべきなのか、が自然と考えられると思いますし、それは自信にも繋がります。強力な技とかは必要ないんです。大事なのは心、ですよ」
今までとは打って変わってまともなトヨミちゃんの回答に、泡が納得したような表情で頷き、もし『魔法少女協会』のようなものができた時にはお世話になります、と言って席に着く。
「先生……やっぱり可愛い子の方が、魔法少女に相応しいんでしょうか?」
リチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)の質問に、トヨミが首を振って答える。
「可愛いかどうかは、魔法少女の適性には関係ありませんよー。一口に可愛いって言っても色々ありますし、それに皆さん、とっても可愛らしいと思いますよ♪」
笑顔で告げるトヨミ、その神々しさは流石というべきか。
「なるほどねー。……じゃあ、お掃除をさぼってどこかに行っちゃったウマヤドくんを、魔法少女にするのってどうかな?」
手を挙げた七瀬 瑠菜(ななせ・るな)が、さらりと凄いことを口にする。
「う、ウマヤドをですか!? ダメですよそんな、それはいくら私でも躊躇しちゃいます……ウマヤドが魔法少女の格好……ぷっ……ああいえ、なな何でもないですよ?」
「結構似合うと思うんだけどなー。服装はフリルで、髪もセットして、でもって最後はみんなで決めポーズで記念撮影――」
「あは、あはははは! や、止めてください、想像しただけでもう……あはははははは!」
我慢しきれなくなったのか、トヨミがお腹を抱えて笑い出す。きっと頭の中では、口上を述べて決めポーズを取るウマヤドの姿がループされていることだろう。……想像したことによる悪影響の責任は取りません、ご了承ください。
「はいっ! 先生、ヴィオレッテちゃんが先生に色々聞きたいって言ってます!」
「はぁ、はぁ、はぁ……はい、ご、ごめんなさい、どうぞ」
呼吸を落ち着けるために何回か深呼吸をして、トヨミがキリっとした表情を見せる。
「……あの、私、ヴィオレッテって言います。今日はトヨミ様に会えると聞いて、私、とってもドキドキしてますっ」
手を挙げたラーフィン・エリッド(らーふぃん・えりっど)の横で、ヴィオレッテ・クァドラム(う゛ぃおれって・くぁどらむ)が魔法少女風味の衣装に身を包んでかしこまる。
「あ、はい、トヨミです、よろしくお願いします……えっと、下のペンギンさんも」
トヨミがぺこりと頭を下げ、そしてしゃがみ込み――もちろんどこからもぱんつは見えない――、ヴィオレッテを肩車しているドン・カイザー(どん・かいざー)に声をかける。
「……ドン・カイザーだ。お見知りおきを」
「あ、ドンちゃんがしゃべった! 珍しいなあ、普段は無口なのに」
「ドンさん、私、おりる、おりるの」
今の状況を珍しがるラーフィンの横で、ヴィオレッテがドンの肩から地面に降りようとして……着地に失敗してお尻を強打する。
「だ、大丈夫!?」
「……うん、大丈夫。私運動ダメで、何もないところで転んじゃったりするんですうっ!?」
言うが早いか、ヴィオレッテが足をもつれさせる。倒れたところにちょうどトヨミがいて、そして二人ともにもつれるように地面に身体を晒す。
「いたた……ヴィオレッテさん、大丈夫ですか?」
「あわわ、ご、ごめんなさいごめんなさい、今退きます……うわぁ!」
慌てて立ち上がろうとするヴィオレッテだが、慌てているためかその度に足をもつれさせて、トヨミとくんずほぐれつのやり取りを続ける。
「ドンちゃん、これって何て言うんだっけ? 何か花の名前だったような……?」
「……そんな事はもう忘れたよ」
見守るラーフィンとドンの前では、とても綺麗な百合の花が咲いていたとかいないとか――。
「はふぅ……私もう疲れましたよ〜……」
一通りの講義を終えたトヨミが、用意されてあった座布団にしがみつくように倒れこむ。
「先生、お疲れさまです」
やってきた四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が、トヨミを労う。
「もう先生の時間はお終いですよー。……唯乃さんも、お疲れさまです。なかなか綺麗な演出でしたよー」
「そうですか? ありがとうございます。まだ試作段階なんですけど、おかげさまでいいデータが取れたと思います」
言って唯乃が、エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)とフィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)を呼ぶ。講義中、魔法少女が口上を述べたり決めポーズを取ったりした時にどこからともなくエフェクトが入ったのは、唯乃が発案、製作を担当し、エラノールが設計、そしてフィアを動力源とするエフェクト発生装置の賜物なのであった。
「もっと効率のいい魔力変換機構と、あとはバッテリーが欲しいところですね」
「重さも軽くして、皆さんが携行できるようになればよろしいかと」
三人で、ああだのこうだの意見を交わす様を見遣りながら、トヨミの目が段々としぼんでいく。
「皆さん、楽しんでくれたのでしたら、何よりですー……ふわぁ……眠いです……でも寝ちゃダメです……」
言ってすぐに寝息を立てるトヨミへ、その場に居た者たちは静かに礼をして、そして暖かな目で見守っていた。
その後有志により、トヨミを起こさないように気を使いつつ、講堂の掃除が行われた。
トヨミがいた机に置かれていた資料は、有志の手によって回収されたのだが、その中には今回の講義で使われなかった資料が存在していた。
それが何だったのかは、今になっては知る由もなかった。
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