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【初心者さん優先】ダンジョン☆鍋物語

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【初心者さん優先】ダンジョン☆鍋物語

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●SCENE01 (part3) : Hangin Tough

 加好紘らルーキーの頼もしい戦いぶりを見ながら、氷室 カイ(ひむろ・かい)は眼を細めている。
「やはり皆、筋が良いようだ。つい十数分前まで彼らをベールのように覆っていた緊張があらかた消えている」
 カイも今日は目立つ気はない。かといって楽な立場に収まる気もないのだ。カイはルーキーたちの影のように周辺で遊撃し、とりわけ後方や側面に目を配りつつ、不意打ちを狙う敵を討ち、戦場が無駄に拡散するのを防いでいた。
「あの中に明日の英雄が何人含まれているでしょうね」
 サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)はカイに問いかけつつ、彼同様フォローに回っていた。さすがかつての円卓の騎士、その動きにはまったく無駄がない。もし今、十人の男が剣をもってベディヴィアを取り囲もうとも、うち九人はたちどころに死に、残る一人はベディヴィアの前にひざまずいて命乞いをすることになるだろう。
「わからないが……少なくはないな」
 ひょっとしたら全員そうなるかもしれない――これは自分もうかうかしていられない、とカイは喜ばしく思うのである。

(「いい状況になってきたようですね」)
 従軍医療担当の神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、徐々に戦いが連合側有利となっているのを感じた。一見、無秩序に見える戦線だが、その無秩序の要因はモンスター側にしかなく、連合側は強い団結力を示していたのだ。味方が優勢になるにつれ、それがはっきりとわかるようになった。
 現在、翡翠は龍漸を治療している。
「すぐ前線に戻れますからね。さ、傷を見せて下さい」 
 龍漸の傷は決して深くないものの広範囲に広がっている。ここまでよく我慢できたものだ。
「お手数かけるでござる……」
「いえ、皆さんの手当をするのが自分の役割ですので」
 翡翠の長い指が、傷口を丁寧に押さえていった。元々丁寧な作業は得意な翡翠だ。みるみるうちに彼の傷を塞いでしまった。手当を済ませ包帯を巻く。
 かたじけない、と言って立ち上がる龍漸に、翡翠は優しく声をかけた。
「皆さんにもお伝え下さい。無理しないように、と。ただし、多少の怪我なら恐れる必要はありません。援護と回復は、お任せ下さい」
 悠然と微笑み勇気づけるその姿勢こそ最大の治療だ。かくて翡翠は龍漸を送り出すのだった。
 龍漸が一時的に欠けた穴は、レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)が埋めていた。
「ったく、でかい鍋の具たちだよな〜」
 蜂蜜色の前髪をかきあげ、レイスは特に面白くもないような声で告げた。レイスが握るは翼の剣、これをフェンシング選手のように片手で構え、上段から中段、また上段、と切っ先をリズミカルに上下させ、蟹のハサミを受け流していた。蟹が必死の様相で連続攻撃してくるにもかかわらず、レイスはいたって平気の風だ。優雅ですらある。
「しかも、見た目に反して俊敏かよ? うざいな」
 口調はこの通りながら、決してレイスは手抜きしているのではなかった。敵を上回る素早い剣さばきがその証拠といえよう。
 同様に榊 花梨(さかき・かりん)も、千瀬乃や依子と並んで、前線で野菜怪物の相手をしている。
「白菜、しいたけ、お鍋の具だ〜。これ、ものすごく食べ応え有りそうだよ」
 楽しげな口ぶりだが、やはり花梨の戦いぶりも見事の一言に尽きる。レイスの武器が剣ならば彼女の武器は、脚。白菜が外側の葉を足がわりにしているのを見抜くと、峻烈な蹴りでその葉に足払いをかけている。
「これってチャンスよねよね!」
 ごろりと転がった白菜の胴を、
「シュート!」
 彼女は、今度はサッカーボールよろしく頭上に蹴り上げた。白菜といっても人間ほどの大きさがある、つまり超重量級の相手はずなのだが、花梨は易々とこれを、天井にぶつかるほど高く上げている。余りの勢いに、ずしんと一度天井が揺らいだ。
「あ、ごめんごめん」
 落ちてきた白菜怪物を見て、花梨は申し訳なさげに黒い頭をかいた。
 蹴りが強力すぎたのか、白菜は天井に激突してぐしゃぐしゃになっていたのだ。これではほとんど食べられない。
「加減が難しいんだよね〜」
 これを聞いたレイスが、
「……お前ほど『加減』という言葉が似合わん人間を他に知らねえよ」
 ぽそっと一言呟いたのだが、幸か不幸かそれは花梨の耳には届いていなかった。
 手勢の大半を討ち取られ、怪物が後退しつつあるのを察すると、龍漸は威勢良く声を上げた。
「さあ、もう一押しだ!」