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リアクション
其の五
「ふ……、相変わらずハイナ様のセンスにはお見それ致しますわ! あら、これはなんですの?」
「ちょっ、沙耶ちゃん下手に触ったらアブナイってば!」
瀬田 沙耶(せた・さや)は麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)の静止を無視し、天井から意味ありげにぶら下がる紐を引いた。
バクン、とどんでん返し発動。無数の射出口から飛び出すマキビシが由紀也を襲う。
「あだっだだだっだたあああっ」
「やっぱり罠ですわ」
「ひ、ひどいよ、沙耶ちゃん」
由紀也の悲痛な抗議もなんのその。沙耶は残酷な独り言を呟く。
「いちいち罠にかかっていては観光に支障が出るというもの。ここはひとつ由紀也を盾にかわしていきましょう」
「い、いやいやいや、バッチリ聞こえてるからねっ」
「由紀也、何をしているんですの? 置いていってしまいますわよ。あら、あれはなんでしょう」
「だあっ、だから闇雲はダメだってば!! 危ないからっ、ね?」
すがり付いて必死に食い止める。
「んもう、なんですの? 由紀也ジャマですわ。さっさとわたくしの一歩前を歩きなさい。ホラ!」
「ちょ、なんでさっきから蹴ってくるの」
もちろん、罠がないか確認させるためだ。
「ああっ、色とりどりの忍び装束、和の屋敷にまるで不似合いな機晶ロボ、そして容赦ない罠の数々。――カオス最高ですわ!」
「…………」
――沙耶ちゃんが楽しそうなら、……いいっちゃいいか。
しかし、彼女を危険な目には合わせたくない。ふたつの気持ちで板ばさみになる。
はあ、とため息。
「こーなったらさっさと脱出! 殺人ロボだのカラクリだの、何でも来い!」
沙耶が怪我をする前に、そして、自分の体がボロ雑巾になる前に。
なんだってこんな目に……。抑え切れないモヤモヤした感情を叫びに込める。
「つーか、アトラクションに殺人ロボ配置するとかおかしいだろ! ハイナ校長ー!」
× × ×
――そもそも、何故NINJAロボは暴走したのか?
この場にいる全員、共通の疑問だ。
実をいえば、機晶回路が故障したわけではなかった。
人を襲うよう、明確な意思を持ってプログラムした人物がいる。
話は屋敷のオープン前にさかのぼる――。
「突っ込んでもいいのだろうか、……この明らかに場違いな品々は……」
セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)の前で、トンデモ和風なインテリアが続々屋敷内へと運ばれていく。
パートナーであるマネキ・ング(まねき・んぐ)がハイナから請け負ったNINJA屋敷の建築。
セリスも物品の運搬を手伝っているのだ。
「純和風のアトラクションと聞いていたが。……まあ、いいか」
深く追求するのはやめておこう。
「次は、NINJAロボか。……派手だな」
ウサンクサイ忍び装束を着せられたロボたちに呆っ気にとられる。
「じゃあ、まあ、適当に置いて来るか」
なにせ、設計図がない。
――設計図だと? そんなものは我の脳内に……。
というのは、NINJA屋敷建築、そのすべての指示を行うマネキの言だ。
マネキこそ、NINJAロボ暴走の真の黒幕。
だが、マネキに悪意はなかった。
ハイナから受けた忍者ロボ納品の依頼をただ忠実に遂行しただけ。
――そして現在。
「どうしてロボが暴走してるでありんす!? 不良品を納品したでありんすか!」
マネキは明倫館の校庭でハイナの猛追求を受けていた。
でもまるで悪びれない。
「ハイナ、お前は我に忍者ロボを調達するように依頼したな。忍者というのは、人に姿を見られてはならないのだ」
「ま、まさか……」
ハイナは身構えた。なんだかとっても嫌な予感がする。
「不良品などではない。姿を見た人間を抹殺するようにプログラミングしておいた」
ハイナがポンと掌を打つ。
「なるほど本格的でありんす。――って、なんてことするでありんすかー!」
「お客様の願いに誠心誠意を込めて何が悪いというのだ?」
今この瞬間も、屋敷のなかではアルバイターたちがロボ相手に激闘を繰り広げている。
すべては、マネキの誠心誠意が招いた悲劇だった。
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