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リアクション
寝所突入 2
同じ頃、寝所の中にある大広間では鏖殺寺院のメンバーが救世主復活の儀式の準備を行なっていた。そこは、いかにも古代神殿といった趣だ。神聖な雰囲気だが、同時に何か空気が重い。
広間の床には、信徒達が粉で魔方陣を描く。クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)もその一人だ。鏖殺寺院の制服の上に、万一の時のために正体を隠す、怪盗のようなマントと仮面をつけている。
「この線は、こんなものでいいのかな?」
クリストファーは、作業を監督する鏖殺寺院幹部白輝精(はっきせい)に聞いた。白輝精は色っぽい美女だが、下半身は白い鱗に虹色を帯びた大蛇だ。
「ええ、それでいいわよ」
クリストファーはいぶかしげな表情だ。
「でも俺、魔法の腕はさっぱりだよ? それなのに魔法陣を描いて大丈夫?」
白輝精はおかしそうに笑う。
「かまわないわよ。飾りつけだから、綺麗に描けてれば問題ないわ。もともと儀式に必要な事はほぼ終わってるから、後は儀式に参加する者の気分盛り上げ用よね」
(アバウトな物言いはヘル君と似てるような……)
「そりゃ、そうでしょ。元は私から分裂して出来た子なんだから」
白輝精が当然のように思考を読んで答える。
(そういえば、気になってたんだけど、キュリオって白輝精の分身?)
白輝精は眉を寄せる。
「……誰だっけ、それ?」
(砕音先生の元パートナーだよ)
「ああ、思い出した! あの守護天使のお兄さんね。
それは違うわよ。私が砕音と出会った時には、もう死んじゃってたもの。そもそも砕音との初対面が、長と私が吹っ飛ばされて爆殺された時なんだから。その後、二人で復活して砕音をとっ捕まえた時に、彼の記憶を読んでキュリオの存在を知ったのよね。
ところで……横着しないで、ちゃんと口で話しなさい」
「あたたた」
白輝精はクリストファーの頬っぺたを、むにーと引っぱった。
「思考を読まれるなら、頭を真っ白にするしかないじゃない。じゃあ、こんなのは?」
クリストファーは頭の中に、疑問を浮かべてみる。白輝精は噴き出す。
「そういう使い方ならよろしい。そうよー。私、可愛い女の子も好きだし、綺麗な物も好きだし。立場を使えば、シャンバラや地球の権力者やお金持ちにも会いやすいもの」
クリストファーは謎が解決した事で、改めて辺りを見回す。
「それにしても救世主復活前なのに、のんびり話ができるなんて意外だな」
「最初の予定なら、次元の狭間に封じられていた寝所は、空京の街の真ん中に現れて、その衝撃で周囲の町並みも吹っ飛んでたはずよ。私達も空京市街戦を予想し、軍団まで用意してたんだから。
それをラングレイが『救世主の保護を第一にすべきで、戦闘の必要はない』って、奪ってきた空京地下の魔法波動のデータをもとに、この寝所を地下に『軟着陸』させたのよ」
「だったら人里離れた場所の方がよくない?」
クリストファーが聞くと、白輝精は肩をすくめる。
「無理よ。救世主はシャンバラ古王国の呪縛で、空京島を離れられないんだから。古王国は、救世主の目覚めが近づいたら寝所に空京島をぶつけて両方破壊する仕掛けにしていたのよ。空京建設は爆弾の上に街を作るようなものだ、って各国に警告してあげたのに『悪い鏖殺寺院の言う事なんて嘘に決まってます』って態度で、信じやしない。あげく、その証拠や知識を持つ者を始末してまわったんだから、タチが悪いわ」
話の内容に、クリストファーは唖然としていた。
白輝精は床に引かれた線を示して言う。
「そうだ。儀式が近くなったら、クリストファーは広間のこの線から奥に入っちゃダメよ。ヒドイ目に会うから。これは後でメニエスにも注意しておかないとね。
長アズールは救世主降臨について、勇者気取りで乗り込んだ生徒自身に引き金を引かせるか、彼らの眼前で力及ばず降臨させてしまう展開をお望みよ」
やがて掘削機械が、寝所までの穴を掘りぬいた。
アナンセ・クワク(あなんせ・くわく)からの連絡では、おそらく寝所の壁も破れて、突入可能な状態になっているという。
掘削機械が撤去され、今度はクレーン車がゴンドラを下ろす準備を始める。
そして、ようやく生徒達の寝所への突入が始まった。
先陣を切ってセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)が空飛ぶ箒で、縦穴を降りていく。
土の穴を三百m程、旋回しながら降りると、突然に建造物の中に出る。そのとたん、銃弾が飛んできてセシリアはあわてて上昇して避けた。
掘削機械で穴を開けたのだから、完全に鏖殺寺院側にバレている。
セシリアは箒の上で歌い始めた。スキル子守歌で、待ち構えていた鏖殺寺院メンバーが倒れ伏して寝てしまう。
続いて飛行アイテムや、工事用のゴンドラで降りてきた生徒達が寝所の中に降りていく。
ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)が呼びかける。
「皆さん、眠っているのは無視して起きている敵だけを!」
子守歌で寝た者は、普通の睡眠と同様にショックや騒音があれば起きてくる。ファルチェとセシリアは、眠りこんだ者を彼らが身に着ける衣服やマントで縛り上げた。
アナンセの管制を受ける砕音が、一同を道案内する。
寝所内部は重力の方向が異なり、下が前方になっているようだ。そこは遺跡というより、工場内部のような印象を受ける。
少し進むと広い廊下に出た。だが、廊下いっぱいにワームや巨大グモが群れている。数百匹はいるだろうか。
砕音は廊下の先を見通して言う。
「ここを進むのは無理だな。……これと同じ規模のメイン通路が、他にある。アナンセからの報告では、モンスターの反応も少なそうだ。そっちに向かおう」
だがモンスターは人の匂いや振動を察知して、彼らに襲いかかってきた。
「ここは俺達に任せろ」
葛葉翔(くずのは・しょう)がグレートソードで、モンスターに斬りかかる。
「相手は多いわ。無理しないで!」
リコも前に出てモンスターを粉砕しようとするが、翔が腕を広げて止める。
「この前、理子が魔剣を貸してくれなかったら危なかった。借りは、ちゃんと返すぜ」
そこにセシリア達も追いつく。
「ここは私が抑えるから先に行ってじゃ!」
「……分かったわ。翔もセシリアも、気をつけて!」
リコなど儀式の妨害に向かう生徒達が、別の通路へと急ぐ。
「さあ、ここは俺が相手してやる。かかってきな!」
翔は魔蟲の群れと先を急ぐ者の間に立ちふさがり、剣を振るう。彼のパートナーアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)は大きなホワイトアーマーにラウンドシールドで防御を固め、翔への攻撃をできる限り防ぐことに専念する。
(この状況であの台詞はヤバいよ、翔クン)
一方、セシリアは使い魔で強化した魔法を、魔物を牽制するために次々と打つ。ファルチェがその前衛を努め、盾となった。
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