空京

校長室

建国の絆(第3回)

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建国の絆(第3回)
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砕音とヒダカ


 砕音は、儀式妨害に向かう生徒と分かれる。ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)は砕音が持ってきた道具類を座席乗せて運ぶ。
「ドルルルル(性帝陛下は無理せず俺に乗っておけ)」
 ハーリーがエンジン音を立てると、清泉北都(いずみ・ほくと)が「しー」と静かにするよう求める。
 北都は禁猟区で、前方の危険を推し量った。
「なんだか、この先は一気に敵が増えるみたいだよぉ。僕らの人数が減ったから、相対的なものじゃないよねぇ?」
「いや、鏖殺寺院が守りを固める必要がある、と判断した場所なんだろう。……清泉、こっちの道はどうだ? 遠回りだが安全なら、こっちに進もう」
 砕音が声を潜めて言う。
「危険はないみたい。……あれぇ? 先生、僕の名前、なんで知ってるの?」
「そりゃ研修授業した生徒だし。うん、清泉といえば、対ヤドカリ罠を作るので木にワイヤーを張って『わー』となってたのを思い出すな」
「……よりによって、なんでそんな所を覚えてるかなぁ」
 北都はつぶやく。

 しばらく進むと、また前方に敵の気配がある。さすがに問題となる部屋の前は、無人ではない。
 生徒達は、物陰から一気に飛び出した。
 北都がスプレーショットを浴びせ、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は素早い動きでチェインスマイトをしかける。藍澤黎(あいざわ・れい)は盾を掲げ、ディフェンスシフトで味方を防御した。
 鏖殺寺院の警備者はあっさり退却して行った。
 クリスティーが砕音に聞く。
「ボク達、少しは強くなれましたか?」
「ああ、皆、ずいぶんと強くなったな。安心して、後を託せそうだ」
 黎が砕音に向き直る。
「何を言われる。我の実家が学校で色々な先生を見ましたが、先生の様な人は大切です。不吉な事を言わないでいただきたい」
 クリスティーも言う。
「そうですよ。これが終わったら、授業の続きをお願いしたいです」
 砕音は困ったように笑う。
「はは、光栄だよ。よーし、先生も頑張っちゃおうかな、……データ泥棒を」

 砕音は部屋に入り、機械には目もくれずに床板をはがす。そこにはおびただしい量のケーブルが、生物の内臓のようにうねっていた。砕音はハーリーから下ろした小型の機器を、その継ぎ目や部品に設置していく。
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)が作業を見守り、小人の鞄から出てきた小人達が小さい部品を持って、ちょこちょこと運んでいく。
「かなり古い装置のようですが、急に動かしたりするのは危険ではございませんか?」
 クナイに聞かれ、砕音は言う。
「平気だ。シャンバラ滅亡期に消えて、最近出てきた機械は時間の流れから外れてるよ。それを言ったら、機晶姫や剣の花嫁も古い事になるから……相手によっては機嫌を損ねて、おっかない事になるぞ」
 砕音は笑いながら作業を進める。



「独断で警備を外れたと思ったら……部外者を連れてくるなんて、何を考えている」
 鏖殺寺院のヒダカ・ラクシャーサはイラだった調子で、パートナーの英霊真田 幸村(さなだ・ゆきむら)に言った。
 そこは寝所の一室だ。部屋は無機質で殺風景な印象ではあるが、会議室を思わせる作り付けのイスや机がある。
「来客の対応は先に済ませておいた方がいいと思ってな」
 幸村の答えに、ヒダカが納得した様子は無い。
「部外者じゃないよ。ワタシ、拉致されてきた地球人だもん」
 魔女アニア・バーンスタイン(あにあ・ばーんすたいん)が、まだなりきったまま答えた。
 ヘレトゥレイン・ラクシャーサ(へれとぅれいん・らくしゃーさ)は、ヒダカに言い募る。
「これ以上、鏖殺寺院に依存して何になるというの? 彼等はヒダカを利用しているだけですのよ!」
「鏖殺寺院の理想は、俺の理想だ。俺は、自分の意思で鏖殺寺院に加わっている」
 ヒダカは言い切る。神城乾(かみしろ・けん)は彼に頼む。
「オレがシャンバラの兵器の真偽を確かめる代わりに、儀式を遅れさせてもらえないか?」
「……? 兵器は主にシャンバラ教導団が押さえていると思うが、お前の所属校でそれを調べられるのか?」
 いぶかしんだ口調だが、わずかに心配げにも聞こえる。ヒダカは続けた。
「儀式は遅らせられるなら遅らせたいさ。アズール様はあまりに危険な事をされる。でも俺に、そんな事はできない」
 今度は乾がいぶかしみつつ、さらに押した。
「ヒダカは儀式に反対なのか? だったら、生贄を助け出すまででいい。遅らせる事はできないか?」
「生贄? 信徒はアズール様と共に、自分の意思で贄となるのだから、助けなど拒否すると思うが」
 乾は、情報のズレを感じた。
「オレが言ってるのは、鏖殺寺院の信徒じゃなく、さらわれた少女達なんだがな?」
「彼女達は救世主の契約相手候補だ、と聞いた。ならば犠牲にはされないんじゃないか? 契約相手が決まった後、選ばれなかった者がどうなるかは知らないが」

 突然、部屋のドアが叩かれた。
「ヒダカ様、応援をお願いします! あのCIA野朗が……ッ」
 ヒダカは、駆けつけた鏖殺寺院の兵士と、声を潜めて二言三言かわすと言った。
「儀式警備の責任者に、俺は侵入者撃退に向かうと伝えてくれ」
 ヒダカはとっとと部屋を出ていってしまう。
 幸村がぼやく。
「戦闘がらみなら、きびきびしてるのにな……」
 ヘレトゥレインは幸村に聞いた。
「幸村様も、本当はヒダカに人間らしい普通の生活を送って欲しいと願われているのでしょう?」
 彼女のまっすぐな視線を受けて、幸村は視線を落とした。うなずいたのかもしれない。
「ああ……正直、俺は……ヒダカに恩が返せれば、鏖殺寺院はどうでもいい」
 幸村は言い切った後、ハッと思い出したように付け加える。
「あと徳川への恨みは、この騒動が終わった後にまとめて決着を付ける。……忘れてた訳ではないからな。いや、決して。ではヒダカの助力をしないといけないのでな」
 幸村はそそくさと、ヒダカの行った方へと出ていく。
「……徳川家の事は、すっかり忘れていたようですわね」
「そのようじゃのう」
 ヘレトゥレインのつぶやきに、早瀬重治(はやせ・しげはる)がうなずいた。



 砕音は、寝所のデータを吸出しながら、めぼしい内容をチェックをしていた。はたから見れば、ただケーブルを握りしめているだけなのだが。
「この寝所は元来、パラミタ大陸と地球が離れていても、その間を航行できるように開発されたもののようだな。技術が追いつかずに、結局、失敗作として機密性抜群のドン臭い巨大飛空艇にしかならなかったようだ。で、廃品利用とばかりに、救世主を押し込めて次元の裂け目に封じる入れ物にしたようだな。女王器と呼べるかねぇ? うん?」
 砕音や生徒達が顔をあげる。嫌な気配だ。
「ラルク、嫌な予感がする。先生をきちっと守っておけ」
 アイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)に言う。
 ラルクが答えようとした時、室内に黒い煙のように無数の邪霊が現れた。
「敵は接触型の魔法攻撃で来るぞ」
 が一同を下がらせ、邪霊の雲と分断する。
「こっちも来たか!」
 ラルクが部屋の入口に銃弾を浴びせかける。邪霊でできた隙に乗じようと乗り込んできた鏖殺寺院の兵士が、もんどり打って倒れた。
「アズール様に仇なす者は斬る」
 刀で斬り込んできたヒダカを、黎とクリスティーが止めにかかり、北都が銃撃で牽制する。砕音がヒダカに怒鳴る。
「アズールに恩があるからと、その言葉すべてがおまえの正義なのか?! そんな妄信だから、逆に長に認められないんじゃ……うッ……」
 ヒダカの持つ、サビだらけの妖刀がムチのように伸びた。刀の先が砕音の腹を刺し貫いた。
「先生!」
 黎が崩れ落ちそうになる砕音の体を支え、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)クナイが彼にヒールをかける。
 ラルクはつぶやく。
「おい……今、何をやった?」
 目の前が暗くなっていくような感覚が襲う。
 ラルクはヒダカに至近からアーミーショットガンをお見舞いする。ヒダカは刀を格納し、避ける。ラルクの太い腕が、少年を捕まえた。ヒダカは伸ばした刀を、彼に浴びせようとする。
 手当てを受ける砕音が、口の中で何かつぶやいている。
「……?! ……!!」
 ヒダカの刀は何の変化も起こさなかった。ラルクはヒダカを壁に叩きこんだ。
「がッ!」
 ヒダカが血を吐くが、ラルクはかまわず、そのまま彼を何度も何度も壁に叩きつける。
 鎖がラルクの首にくいこんだ。援護に来た幸村が、鎖鎌を巻きつけたのだ。ラルクは鎖をつかんで、彼を投げ捨てる。幸村は壁にぶつかるも体術でダメージを減らす。ヒダカはその間にテレポートして消えた。幸村もすぐに廊下へと撤退する。鏖殺寺院の兵士もそれに倣った。
 ラルクは追わず、砕音の元へかけつけた。
「砕音!」
「うぃーす」
 思いの他、元気な声が返ってきた。
「イテーと思ったら、ヒールとナーシングで元気一杯。精神的に疲れたけどな」
 フィルラントがタバコを差し出す。
「そんな事もあろうかと、きちんと持ってきたで。薬もタバコもぎょうさん用意しとるから安心してな」
 まさに「至れり尽くせり」である。
 ラルクは泣き笑いを浮かべて、砕音を抱きしめた。
「よかったぜ、お前が無事で」
 二人の熱々ぶりに黎が苦笑いする。
 黒崎天音(くろさき・あまね)はヒダカ達が消えた方角を見て、苦笑めいた微笑を浮かべた。
「それにしても、あの刀……急に故障でもしたのかな?」
 砕音は何か言おうとしたが、ラルクが指で彼の口を塞いだ。
「俺は砕音が何をしようが受け入れる。どんな存在だろうと受け入れる……それが俺の中で決めたルールだ」
「……ラルク」
 砕音はラルクを見つめた。フィルラントが驚きの声をあげる。
「あれっ?! 先生、まだ痛いトコあったんかいな。そんな泣いたら目が腫れるで。こんな事もあろうとハンカチを……もがが。がにふんおや、うぇえ」
 フィルラントは黎に口を押さえられた。最後は「何すんのや、黎」と言ったらしい。口をふさいでもしゃべり続けるのは、鳴り止まぬ機関銃(マシンガントーク)である。
 天音は一行に言う。
「そろそろルームチェンジすべきじゃないか? 鏖殺寺院もここに僕達がいて、怪しげな事をしていると知ったんだ。また襲ってきても不思議じゃない」
 砕音が涙を拭きながら言う。
「だったら、行きたい場所があるんだけどいいかな?」