校長室
建国の絆 最終回
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ふたつのシャンバラ 「ここは男子禁制です!」 白百合団が、百合園女学院内に押し入ろうとする一団を門の前で食い止めている。帝国からやってきた使節団だが、男が多い。 「我々は皇女殿下にお会いしに来たのだ!」 「そんな人、ここにはいません」 押し問答をしていると、そこにアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)がやってくる。 「なんだい、君達は?」 「皇女殿下!」 アイリスと一緒にいた高原 瀬蓮(たかはら・せれん)がきょとんとする。 「こーじょでんか? って、何、アイリス?」 「……」 百合園生達の態度に、使節団はいらいらとした様子で言う。 「そちらにおられるお方は、エリュシオン帝国皇帝アスコルド大帝のご息女アイリス様であるぞ! 貴公ら、無礼であろう!」 百合園生が息を飲む。 アイリスは大きく息をついた。 「無礼なのは君たちだよ。この学校は男子禁制。 どうしても入りたければ、かわいい女の子に見える格好をしておいで。じゃないと、ちょん切るよ」 「は……ハハァッ!」 かしこまる使節団の面々。 百合園生も瀬蓮も、唖然としてアイリスを見ている。 「僕は静かに学園生活を楽しみたいんだけどねぇ……」 アイリスはつぶやいた。 白輝精に連れ去られたアムリアナ女王は、エリュシオン帝国の帝都ユグドラシルに連れていかれたようだ。 帝国はこれを、シャンバラ女王をシャンバラ国内を跋扈する反乱勢力から彼女を保護する為だ、としている。 もともと女王への忠誠心が篤い街であるヴァイシャリーとタシガンは、まっさきに帝国に恭順の姿勢を示した。 ヴァイシャリー家が経営する百合園女学院と、タシガンの民との摩擦を危惧する薔薇の学舎もこれにならった。 ザンスカールも世界樹イルミンスールの為に、帝国に恭順を示している。 エリュシオンは魔法が発達した国であり、イルミンスール魔法学校と欧州魔法連合は魔法の技術を得る為に、やはり帝国への恭順を選んだ。 恭順を求める帝国の使節団は、波羅蜜多実業高等学校にもやってきた。 それに石原 肥満(いしはら・こえみつ)校長が飛び上がり、使節団の前で土下座し、額を泥にすりつけた。 「焼きそばパンも買ってきます! フルーツ牛乳も買ってきます! だから殺さないでくださいいぃぃ!」 あろう事か、あれだけ豪胆そうだった石原校長が、女王がさらわれたショックなのか、元のビビリな爺さんに戻ってしまったようだ。 校長があっさり白旗を振り、パラ実とキマク家はあっさりと帝国に恭順を示した。 逆に、蒼空学園を始めとするトワイライトベルトの西側にある学校や街は、あくまで帝国に反発する姿勢を示した。 ツァンダとヒラニプラは、もともと地球と手を組んでの建国を考えており、今回も帝国よりも地球側との協調を選んだ。 それは蒼空学園や天御柱学院、空京大学も同じことである。 また葦原明倫館の本国マホロバでは、帝国との繋がりを持った西国大名との対立が高まっていた。そのため帝国に恭順するなど、もっての他だ。 明倫館はマホロバを支援する為、地球の、特に総奉行の故郷であるアメリカ合衆国との結びつきを強めようとしている。 シャンバラ教導団に関しては、もともと地球の各国が勢力を競うような校風であり、また昨今の不祥事でヒラニプラに意見できる状態ではない。 こうしてトワイライトベルトを境に、シャンバラは東西に分かれた。 国の核である代王となるのは、女王のパートナーである。 神子によれば、女王のパートナーはある意味、女王の一部であり、女王の代わりとなる者だ。 この代王を守るために、東西それぞれ、各学校から生徒を出してロイヤルガードが結成される見込みだ。 トワイライトベルトの東側は帝国に恭順を示し、セレスティアーナを代王として東シャンバラ王国を建国した。首都はヴァイシャリーだ。 ラズィーヤは地球各国に政治的研修に向かわせていた十嬢侍(じゅうじょうじ)を東シャンバラの統治を行う為に呼び寄せてもいる。 十嬢侍とはアルバ・フレスカを筆頭とする、エリート官僚(宦官?)集団だ。 またエリュシオン帝国から皇女アイリスの配下も送られ、ヴァイシャリーに駐屯する事となった。 またヴァイシャリーの首都機能を充実させる為、闇龍による被害からの復興にはエシュリオンからの支援が行なわれる。 一方、トワイライトベルトの西側の西シャンバラ王国は、高根沢理子(たかねざわ・りこ)を代王とした。首都はこれまでの計画通り、空京である。 トワイライトベルトの西は、闇龍封印や女王復活の影響を受けて、地球の核の傘に入った。核の傘は、エリュシオン帝国を牽制するのに十分だろう。 「と、ゆーわけでぇ、私たち東シャンバラ王国はぁ、西なんかに負けませぇん」 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)がテレビ会議で断言する。 そんな子孫をむにっと横に押し出し、画面の中央に来たアーデルハイトが言う。 「まあ、帝国の連中は、こちらでどーとでも言いくるめておくから安心す「ずるいですうう! 大ババさまばっかりテレビに映って「うるさいのじゃー!」 たちまち始まる子供のケンカ。 他校の校長達にとっては、すでに慣れっこだ。 桜井静香(さくらい・しずか)校長が弱ったように笑う。 「え、えっと……こんな状況になってしまいましたけど、これからも東西仲良くよろしくお願いします、ね?」