空京

校長室

選択の絆 第一回

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選択の絆 第一回
選択の絆 第一回 選択の絆 第一回

リアクション

 亡者との戦い



 亡者の群れは途切れること無く沸き続ける。
 それがどこから沸いているのかも不明であるし、彼らの具体的な目的すら不明瞭なままだった。
 ただ一つ、分かる事は、彼らは本気で殺しにかかって来ているということだけだった。
「おーおー。活きのいい奴らじゃのぅ。ひしひしと殺気が伝わってきおる」
 大量の亡者を前に、神凪 深月(かんなぎ・みづき)は【シリンダーボム】と、呪符【滅焼術『朱雀』】を手にする。 
「それじゃ、手筈どおりにね! 深月ちゃん!」
 オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)は、神凪の背後にまわる。
 オデットらが背後にまわったのを確認して、神凪はパートナーである儚希 鏡(はかなき・きょう)と共に亡者の群れと対峙する。
「わらわがおる限り、指一本たりともオデットには触れさせぬわ!」
 神凪は、手に持つ【シリンダーボム】と呪符をを投げつけた。
「敵を分散させんように、牽制するような攻撃をするのじゃ。そうして敵を誘導し、一カ所に集めることも出来る。オデットたちの攻撃が効果を発揮できる体勢を作るのじゃ!」
 人の形をとった儚希も神凪に続き、【剛腕の強弓】を撃つ。
 やがて神凪の言う通り、敵が一カ所に集まった。
「よし、今じゃ。オデット! かましてやれ!」
 神凪の言葉を合図に、オデットとフランソワが姿を現す。
「準備はいい? オデット」
 フランソワは【英雄と軍隊の幻想】を構えながら言う。
「大丈夫よ。難しいけど、タイミングを合わせよう」
 オデットも【魔杖シアンアンジェロ】を持つ手に力を込める。
 2人の視線は、一カ所に集まった亡者たちを捉えている。
 2人は呼吸を整え、一瞬、視線を交わし、そして叫ぶ。
「「【裁きの光】!!」」
 瞬間、目も開けていられない程の黄金に光り輝く目映い閃光が、無数の矢のように亡者たちの頭上から降り注いだ。
 一カ所に集められていた亡者たちは、一人残らず消滅した。
 オデットは亡者たちの殲滅を確認する。
「よし。作戦成功だね! この調子でいくよ!」

■■■

 アレン・オルブライト(あれん・おるぶらいと)は苦戦していた。
 周りには数十人の亡者達。それらを一人で相手をするのには限界があった。さらに彼は自分のパートナーである時見 のるん(ときみ・のるん)を守りながら戦っていたのだ。状況は良いとはいえない。
「のるんちゃんの分までモンスター退治頑張ってー♪」
 と、アレンの背後の岩陰に隠れているのるんが両手を振りながら応援している。アレンはそれを見て、少し体が軽くなったような気がする。
「【火術】!」
 アレンは自分に斬りかかってくる侍の亡者の足下に、タイミングよく炎の柱を燃え上がらせる。
 侍は斬りかかる勢いを殺すことができずに、炎柱をもろに食らう。しかし、あまり効果があるようには見えない。侍はすぐに炎から逃れたからだ。
「魔法を使いすぎたか……。威力が弱くなってきてる。先輩達に助けてもらうような醜態だけは晒したくないもの――ッ!?」
 アレンは気づく。
 のるんのすぐ後ろに、忍者がいた。影を利用して移動したのか、死角からのるんを狙っている。さらに悪いことに、のるんはアレンの応援に夢中になっていて、忍者に気づいている様子もない。
「くそっ!」
 間に合わない。この距離では。忍者は既にくないを振りかぶっている。焦燥。これはマズい。やばい。
 その時だった。

「光条ストーンフラッシュ!」
 
 男の声がしたかと思うと、眩しい光がのるんを狙う忍者を捉え、影ごと消滅させる。
 何事かと、アレンとのるんが見据える先には、
「蒼い空からやって来て、仲間の未来を護る者! 仮面ツァンダーソークー1見参!」
 と叫びながら妙なポーズをとっている、ヒーローのコスプレをした風森 巽(かぜもり・たつみ)が立っていた。
「ヒーロー大原則ひとーつ!目の前で困ってる人を見捨てちゃいけないってね♪」
 その横でティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)も一緒になって言う。
 本人達としてはこの上なくカッコイイ登場のつもりだったようだ。しかし、のるんはいまいち状況を把握できていないようで頭にハテナマークを浮かべている。アレンも、なんかへんなコスプレヒーロー来たー!? と、口をあんぐり開けて呆けていた。
 2人のヒーローは気づく。
 すべったということを!
「……よ、よーし! 苦戦しているようだな! 今助けてやるぞ! ツァンダー閃光キィーック!!」
「ボ、ボクたちが来たからにはもう大丈夫! 【剣の結界】!」
 突然現れて戦闘に参加し、次々と侍や忍者を薙ぎ倒して行く妙な2人組を眺めながら、アレンは思う。
 こんな変な先輩にだけは醜態を晒したくなかった、と。

■■■

 忍者とは、現代でいう特殊部隊のようなものだ。
 姿を隠しての諜報活動、破壊工作、戦闘のプロである。彼らはその為の様々な道具を装備している。勿論、装備だけが彼らの強みではない。道具をフルに活用でき、なおかつ道具が無くても十分に行動できる身体、そしてどんな場面に直しても、すぐに最善の策を計ることができる頭脳を持つことも、彼らの強みであると言える。頭脳と身体をフルに活用するのが、忍者である。
 だから今のように。
 標的に指定した樹月 刀真(きづき・とうま)を奇襲し、くないでの攻撃をわざと回避させ、回避した先にトラップを仕掛けておくことなど、容易なことだった。
「ぐぅッ!?」
 樹月は忍者のトラップに見事に引っかかり、トラップから噴出した毒の霧を浴びてしまう。同時に、遺跡の探索の為【覚醒光条兵器】を発動し、疲弊した漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を抱えていたので、彼女もまた霧を浴びかける。
「くそっ!」
 樹月は完全に霧が身体を覆ってしまう前に、月夜を安全な場所に放り投げた。
「刀真っ!」
 月夜は素早く起き上がり、樹月を心配して駆け寄ろうとするが、
「ダメです! あれはおそらく毒。触れると感染する恐れもあります。華月! 治療をお願いします!」
 と、水無月 徹(みなづき・とおる)が月夜を抑える。華月 魅夜(かづき・みや)はすぐに【ナーシング】を使い、樹月を介抱する。
(状況は良くないですね……。私は戦う目的では来ていませんし、忍者達を倒す事はできないでしょう。せいぜい足止め程度、といったところですか。ならば)
 今の状況を冷静に判断し、その中での最善の手を使う。徹が取り出したのは【さざれ石の短刀】。その短刀の持つ能力は、石化の効果。
 徹は呼吸を整え、縦横無尽に飛び回りながら近づいてくる忍者を見据える。
「そこですッ!!」
 ざくりと。忍者の足に短刀が刺さり、徐々に石と化してゆく。
「ふむ。上手くいきましたが……」
 ちらりと、徹は前を見る。いつの間にか、忍者の数が数十に増えていた。
「これは、まずいですね」
 たらりと汗が落ちる。こうなったら当たって砕けろだ、なんて思考が徹の頭をよぎった時だった。
「助かりました。あとは俺がやりましょう」
 ずい、と毒を受けて治療中のはずの樹月が前にでた。
「【ヴァンダリズム】」
 樹月は剣を構え、呪文を唱えようとしたが、
「がっ……、ごほっ」と、血を吐いた。それを見て華月が叫ぶ。
「だからまだ無理だって……!! 毒は抜いたけどまだ動ける体じゃないんだよ!」
 しかし、そんなことはお構いなしに、忍者達は大きな隙が出来た樹月に特攻する。
「私がいる限り、刀真の隙は突かせない……。【剣の結界】!」
 月夜が樹月を守るようにして剣を操る。それは時間稼ぎにしかならなかったが、それで十分だった。
「もう十分です。ありがとう、月夜。あとは、任せて下さい」
 樹月は言いながら、改めて剣を握りしめる。
「【神代三剣】」
 一閃。いや、三閃。
 瞬間、赤い何かが辺りに飛び散る。少し遅れて、無数の忍者の頭部が、地面に転がった。
「さて、少し出端をくじかれましたが――、反撃開始と、逝きましょうか」
 剣を担ぐ死神は珍しく殺気立つ。忍者たちの運命が決まった。

■■■

「我は、龍雷の忍び・甲賀 三郎(こうが・さぶろう)なり。龍雷の伝統、真っ向勝負。作戦など無用!! 目に見えるすべての敵を我が眼下の躯と化さん!!!」
 三郎は叫び、一人、侍の群れへと特攻する。武器は篭手に仕込んだ【アサシンブレード】と、己の身体のみ。
 侍たちは槍を構え、迎撃しようとする。槍という武器は、リーチが長く、薙ぎ、払い、突きの3つの攻撃方法があるのが特徴である。使い方次第によっては最強にもなりえる武器だ。そして彼ら侍は、槍を使いこなすエキスパートであった。普通ならば、仕込み武器や暗器などではリーチの違いで到底かなうものではない。勝負を挑むことさえ、間違っている。
 侍は槍を構え、突いた。槍は軽量な分、突く速度は異常な程速い。避ける事は難しい。
 しかし、
「遅いっ!」
 三郎はそれを簡単に躱し、柄の部分を掴み、力任せに折った。
「梅慶の槍の方が数倍速いわ! 愚か者どもよ! 我が前に立つ愚かさを知れ! 【バニッシュ】!!」
 轟っ! と、鈍い音が響いたかと思うと、侍たちは数メートル後ろに吹っ飛んでいた。
「来い、亡者ども。残らず塵にしてくれよう!」
 

 三郎が一人で蹴散らして行く様を眺めている者達がいた。
 一人は三郎のパートナーである本山 梅慶(もとやま・ばいけい)。残るはそこに偶然居合わせていたウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)ファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)である。
「めちゃくちゃですね……。全てパワーで解決してる感じです」
 ウィルは思わず呟く。
「まぁ……、毎回あんな感じだから危なっかしくてなぁ……」
 梅慶は困ったように言う。三郎の扱いに苦労しているようだ。
「貴公ら。おしゃべりの時間はおしまいのようじゃぞ?」
 ファラの声に、2人は気づく。
 刀をもった数十人の侍が迫って来ている。
「ふん。刀か。刀が槍に勝てるとでも思ったか」
 ぶんぶんと【幻槍モノケロス】を回し、構える。
「本山豊前守、いざ参る!!」
 梅慶は【龍鱗化】を発動し、侍の群れへ突っ込む。リーチを利用し、刀を裁き、払い、隙ができたところへ、一撃必殺の突き。全てが洗練された動きだった。
「おぉ、やりおるな。あの女。さてウィルよ。負けてはおれんぞ?」
「……ですよね。そうですよね」
 ウィルはどこか諦めたようにランスを構え、
「【ライトニングランス】!」
 素早くランスを突く。電撃を伴う攻撃が侍に直撃する。しかし、何人か逃げ延びたようだ。
「ウィルはいつも甘いのう。【サンダーブラスト】!」
 逃げ延びた侍の元に、広範囲に広がる電撃が降り注ぐ。
「ククク……。面白くなってきたのう。さてと、もう一暴れするとするかのう」
 吸血鬼はにやりと笑い、侍の群れに突撃していった。
 

 やがて侍と忍者の出現はおさまった。
 しかし、まだこれは序章だった。始まりに、すぎなかった。

 次に敵にまみえる時、一行は地獄をみる。