校長室
選択の絆 第一回
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少女の目覚めと最初の女王器 天窓から差し込む不思議な光は柔らかく、その光の中で眠る少女の表情もまた安らかな―――いや、 「なんたる顔をしているのだ」 眠れる姫を目覚めさせるのは王子の役目。しかし肝心の姫の寝顔が苦悶に満ちているとは……いささか衝撃的だった。 「よほど悪い夢を見ているのだろう。可哀想に」 王子こと変熊 仮面(へんくま・かめん)が姫に手を差しのべる。もちろん身だしなみは整えてある、変態仮面の正装である全裸に薔薇学マント姿という出で立ちで――― 「はい、ストップ、そこまで」 「えっ、ちょっ、」 呂布 奉先(りょふ・ほうせん)が変態王子の首を鷲掴みにすると、退室させるべく強引に引き連れていった。 「なんだ何だ、一体何事だ?」 永い眠りから目覚めたとき、そこに居たのは全裸マントな変態紳士だった、ではあまりに酷だ、間違いなくトラウマになる。 「これ以上、彼女に悪夢を見せるのは酷ってもんだろう?」 「そっ、それは賛成だが、ならば、なぜ、いやむしろこの私がぁあ―――」 こうして間一髪、少女の目覚めは守られたのである。 少女は巨大な装置の中に居た。 樹と肉と金属が合わさったような奇妙な材質。 使われている技術は、素人の目にも、異質なもののように感じられた。 その中央にある巨大な水晶体の中に、少女の身体はあった。 では改めて。 シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が、水晶の表面に手を触れると、その手は水晶の中へと滑りこんだ。 「お目覚めの時にございます、お嬢様」 シャーロットの指先が少女の身体に触れる。 トクン、と少女の身体が鼓動した。 瞬間、突如地面が大きく揺れて、壁がゆっくりと動き始めた。 「ちょっ、何なの一体」 立っているのがやっとな程の揺れに中、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は辺りを見回した。四方を囲む壁がそれぞれ別の方向に向けて動き始めている。天井は……今のところは崩れてはいないが、しかし――― 「エルピスさん! これは一体何が起こっているのです?!」 呼び掛けに現れた、幻の少女が、どこかボゥっとしたように。 『私の時間が動き出したから……』 「時間が?」 『神殿群――イーダフェルトが起動したんです……』 「どういうことなん? いや、それよりも、実物の方はその装置から出てこれんのか?」 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)の問いにエルピスは首を振った。 『私、まだ病気が治ってないから。それに約束も――』 「ところで〜」 アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)が少女に訊ねる。 「やっぱり「コチョウちゃん」と「女王器」は別物って事なんだね?」 『えぇと……』 少女は大いに困惑したままに、 『女王器は別の場所に……「イーダフェルト」の中央部にあるので……』 「イーダフェルト?」 「この神殿の名前です」 「あぁそうね、そうだったわね、神殿の名前ねぇ〜」 確か西側を探索する者たちの報告の中にそんなような事もあったような、なかったような。 ここでパートナーである藤林 エリス(ふじばやし・えりす)の我慢の限界が来たようで、 「あのねぇ、女王器の場所とか神殿の名前とか、そういうことはもっと早くに言いなさいよ! 知ってたらもっと楽にここまで来れたわよ! だいたい人に頼み事すんなら迎えぐらい寄越すのが礼儀ってもんでしょう? 幻の状態でも道案内くらいは出来たはずよね?」 『ご……ごめんなさい! でも、変な人たちに色々弄られちゃって私のネットワークやポムクルさんとの紐も切られて、それにそれにこの神殿群は割とフリーダムに形を変えちゃうから……』 「ちょっとエリス、「コチョウちゃん」には「コチョウちゃん」の事情があるんだし、そんなに責めちゃ可哀想だよ」 「だったらなおさら、もっと私たちを頼りなさい! 傍に居る方が守りやすいんだから」 「まぁそういうわけで、これからは私たちが「コチョウちゃん」の事を守るから★ 勝手に居なくなったりしたらダメだよ♪」 『あの……その「コチョウちゃん」っていうのは……?』 「ん? 「古代の超兵器ちゃん」だと長いでしょ? だから「こ」代の「ちょう」兵器で「コチョウちゃん」」 『……なるほど』 納得したようだ。それでも「あ、でも一応」と前置いてから、 『私の名前はエルピス・カリュプソー……というんですけど……』 そう言ってから彼女はどうにも恥ずかしそうに『その……「コチョウちゃん」でもイイですよ』と加えて頬を赤らめた。案外に気に入ってくれたようだった。 一方、最初の女王器が眠るとされる正室の前で騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は片膝をついて「それ」を待っていた。 「来たっ!!」 待っていたのは『忍法・呪い影』、『密偵』によって室内に送り込んだのだが、無事、偵察を終えて戻ってきたようだ。 「問題なし、ですか」 パートナーであるセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は疑いの眼差しのままにルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)に報告をした。 従者の調査結果を信じていないわけではないが、女王器ともなれば厳重に封印されているはず、そうした考えのもとにこれまで探索を行ってきた。最後の最後で気を緩めてしまっては意味がない。 女王器の状態はもちろん室内のあらゆる情報を模写するための『描写のフラワシ』に加え、烈風、嵐、焔のフラワシたちも待機させた上で、正室の扉を開けた。 「お……大きい……」 それは電車の車両一両分はあるだろうか。部屋の最奥部に置かれた聖櫃は何とも巨大な形をしていた。