校長室
選択の絆 第一回
リアクション公開中!
幻の少女 神殿群の探索はあまり進展が見られないようである。 いくつもの区画と通路が広がり、複雑な構造となっている神殿群はまるで迷路のようである。さらに壁画などの造形物、一つ一つの区画の構造などがそれぞれ似通っているため、何回も同じ所を通っているように感じられる。 そんな状況を打破するため、神殿群をひたすらに探索する一行だったが――。 「そういえば古代の超兵器の女の子ってのがおったなぁ。剣の花嫁みたいなんやろか。なぁ、菊……」 エミリオ・ザナッティ(えみりお・ざなってぃ)が、遺跡内の探索を進めながら、ふと思い出したように言った。 【古代の超兵器の女の子】というのは、多くの契約者達が遭遇した、少女の幻のことである。彼女は突然現れては、助けを求めるという。 「あー、そうだな。目標の女王器もだけど、俺もその【古代の超兵器】っつー奴のが俄然興味あるね。こーいうのには面白ぇ事があんのは鉄板なんだよ!」 と、飛鳥 菊(あすか・きく)は興奮したように言った。 「あかん……目が獲物見つけた狩人になってはる……!!」と、エミリオは菊を見て呟く。 それに……、と、菊は少し真剣な表情を浮かべ、 「もし本当にいるのなら、こっちの仲間にしておけば色々と情報は掴める。この状況も少しは打破できるだろうよ。……やっぱりここはひとまず少女を探す事に全力を尽くした方がいいんじゃないか? なぁ、おまえもそう思うだろ?」 菊は偶然隣にいた風馬 弾(ふうま・だん)とエイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)に声をかけた。 ペットのミニキメラに嗅覚を頼りに探索をしていた風馬は元気よく答える。 「え? あぁ、あの女の子ですか? 『超平気』とか言ってましたけど、ちゃんと助けてあげないとですよね!」 「だよな! 超兵器ってのが面白そうだよな! 熱くなるよな!」 「?」 「?」 どこか会話が噛み合ってないようで、風馬と菊はそれぞれ首をかしげる。 それを眺めながらエイカはボソリと呟く。 「あははー、弾は『超兵器』と『超兵器』を完全に聞き間違えてるわねー。まぁ面白いから放置しとこ」 「何か言った? エイカ?」 「何もないわ。ただの戯言よ」 そんな会話をしているところへ、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)も加わる。 「私もその女の子には興味があります。出来る事ならば救助したいですしね。……『六本木通信社』としても彼女に一番最初に直接会って取材もしたいですし」 「ユーキ……何故か俺様には取材の方が優先順位が高いように思えるぞ」 横からアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が口をだす。 「い、いやいやそんな事はないですよ? そもそも救助しないことには取材も何も無いでしょ?」 「だからその救助の動機がよこしまだと言ってんだよ……。まぁさっさと助けてやった方がいいってのは同意するけどな」 彼は言いながら手に持つ袋をくるくると回す。 「そういえばなんですか? それ」 「これか? これはだな」 そう言ってアレクセイが袋から取り出したるは黒のゴスロリ服。 「あの少女の実体が裸って可能性もなきにしもあらずだろ? 一応用意しておいたんだ」 そこでアレクセイは気づく。 周りの視線が何か蔑むようなものになっているということに。 「……? メイド服の方がよかったか?」 「もう喋らないで下さい。あともっと普通の服持って来て下さい。……はぁ、でもその少女も何処にいるのか分かりませんし、どうすることもできませんね。彼女は幻として色々なところに出現しているようですし、向こうから出て来てくれると助かるのですが」 という優希の言葉に、蔵部 食人(くらべ・はみと)が反応する。 「あぁ、そうだな。うちの魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)にもマッピングとか策敵とか色々やらせてるんだけど限界はあるからなぁ。なんかノリのよさそうな幻だったし、ここはボケてツッコミ待ちしてみるか。呼んだら来るかもしれないし」 「そんな簡単に来るとは思えないけど……」 蔵部の隣を歩くシャインヴェイダーに口出しされるが、 「まぁ、やってみるだけやってみればいいだろ。……おーい、どこだー。自称古代の超兵器さんやーい」 蔵部はとりあえず声を張り上げてみる。 「おーい、居たら返事しろー。変な人たちに体の大事な所を弄られて大変らしい哀れな自称古代の超兵器やーぃ」 「おーい、助けに来たぞー。赤面してしまうぐらい恥ずかしいお礼をしてくれるという自称古代の超兵器やーぃ」 と、その時だった。 『てっ、適当なこと大声で言わないでくださぁーいッッ!!』 と、その場にいた一行が思わず振り返る程の大声が響く。 何事かと見てみれば、蔵部の背後に件の少女が出現していた。 「おっ……おぉ、ほんとにでた。呼べばくるのか」 相当な大声だったらしく、耳を抑えながら蔵部は言う。 『そりゃぁ出ますよ! 全部見てまし――』 少女の声が途中で途切れる。ドクター・ハデス(どくたー・はです)が会話に割り込んで来たからだ。 「フハハハ! みぃーつーけーたーぞぉ! 件の少女よ! さぁ、助ける為にも色々と調べさせてもらおうか!!」 突然高圧的な態度をとってきたハデスに驚いたのか、少しびくっとする少女。 『ふ、ふぇえ? し、調べるって? えぇ?』 明らかに怯えている。そんな少女を安心させるようにペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が語りかける。 「ハデス先生は、私のことも救ってくださいました。きっと、あなたのことも助けてくれるはずですっ!」 しかしハデスの相も変わらぬ高圧的な態度がどうしても目に入ってしまうようで、少女は落ち着かない様子である。というか目の前で怪しげな道具をちらつかせながら「調べるぞー!」などと言われたら誰でも怯えてしまうのは必然である。 そこで、 「ハデスさん、ひとまず……落ち着いてくださる? 彼女、怯えているわ。敵だと思われているかもしれない。まずは……こちらが何者かをはっきりさせた方がいいと……思うの。私に任せて」 とクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)がハデスを引っ込めさせる。 「私はアリア。私たちはあなたを助けに……来たの。だから……大丈夫。安心して」 アリアはゆっくりと落ち着かせるように話す。少女はアリアの話に耳を傾けようとしていた。しかし、 「ちょっと待って下さい」 サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が横槍を入れる。 「少女が味方でない可能性もあります。こちらの事を話すより先に、少女の事情を聞いた方がいいかと。……貴方は一体何者なのです? この神殿は何の為に何時からあるのです? そして、この世界はナラカに沈んだ滅びた世界……とかそういう事なのでしょうか? まずはソレを教えてください」 アリアが止める間もなく、次々と質問攻めするサイアス。とにかく落ち着かせようと、アリアは、 「教えて……頂けます、か?」 精一杯柔らかい笑顔を作ってみせたが、少女はまた警戒モードに入っていた。 アリアはため息をつき、もう! とサイアスを叱る。 一向に少女の信頼を得る事が出来ない彼らを見て、やれやれと呟き、シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)が動いた。ゆっくりと少女に近づき、 「みんな悪い人じゃないんだ。安心していいよ。俺はシルヴィオ。君を探し、助けに来たんだ。良かったら、君の名前も教えてくれるかな?」 少女に目線を合わせ、優しく声をかける。少女は幾らか警戒心が解けて来たようで、 『……エルピス。私の名前はエルピスです』 と、口を開いた。 「エルピスか。良い名前だね。そうだ、色んなところを弄られたって聞いたよ。酷い事をする奴もいるもんだね……怖かったろう? もう大丈夫だ。もうすぐ助けてやれる。でも君を助ける為に、何処にいるか、君自身とその周りがどんな状況かを知りたいんだけれど、何か判る事はあるかい?」 『私はイーダフェルトの中央にいるの。あ、イーダフェルトというのは、ここの遺跡のことね。分かるといってもそれくらいかなぁ?』 続けて、シルヴィオのパートナー、アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が質問をする。 「私はシルヴィオのパートナー、アイシスです。よろしくね。……助けに向かった際、注意すべき事はありませんか?」 すると少女は少し曇った表情を浮かべる。 『うーんと……もしかしたら、なんだけど、私の体をいじった人達がいるかもしれない。確か【エギル】とか【業魔】とか言ってたかな? すっごい強そうだったから、気をつけた方がい――きゃっ!?』 少女の言葉が途切れた。突然、空気が震え、地面が震え出したからだ。 「何だ……」 シルヴィオが呟く。そして見据える。何かが近づいてくるのを。 『来た……。気をつけて。『あいつら』が……来たんだ。私は呼んでくれたらすぐ出てくるようにする。……死なないでね』 少女はそう言い残し、フッと、消える。 「『あいつら』……?」 シルヴィオが疑問を持ったその時、『あいつら』が群れをなして現れた。 業魔と名乗る大男が、無数の亡者を従え、現れた。