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グリフォンパピーを救え!

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グリフォンパピーを救え!

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 え! そう思う間もなく、遠ざかる落下機体に一台の軍用バイクが飛び込む。そのまま、ふたりの女性を抱きかかえ、機体後部を爆発させると、その風圧すら利用して、機外に飛び出す。
 闇に灼熱の爆光が刻まれた。遅れて爆風が全方向に輻射される。が、岩盤は無事だ。洞窟に被害はない。
 音子と健勝は、自分たちを助け、空飛ぶ箒に乗せたレヴィアーグの後姿を見つめる。
「礼など口が腐っても言わないでいただけますか。空の散歩中、出来心でやっただけのことですわ」
 レヴィアーグは振り向くこともなく言う。パピーを殺そうとしたレヴィアーグさえ変わろうとしている。グリフォンパピーはちいさく弱い。が、その存在感は、生徒たちひとりひとりのなかで一秒ごとに大きくなっていく。
 同じ想いを、同じく助けられたレジーナたちも抱いている。女性とはいえ、ふたりを片腕にがっちり抱えたまま、難なく着地したレーゼマンは、礼を言おうとするふたりに言った。
「私はパピーにいかなる興味もない。死のうが生きようが、しょせんはモンスターの境涯である。すべからく生物とはそういうものであり、人間においてもそれは例外ではない」
 あらゆる人間は偶然に生まれ、いつか目的を持ち、その目的のために生きようと努力を始める。
 あなたたちが神なるものや、女王を崇拝し、それら信仰の一環として人間を、パピーを守る人生を選んだのなら、それがあなたたちの境涯である。
「おのれで選んだ境涯を、その手で否定する。それは、なんとも矛盾に満ちた寓意のように、私には思えるのだが」
 最期の一瞬までともに生きる方途を模索しなかったことをレーゼマンらしい言い方で叱責され、フランソワとレジーナは、口唇をかみしめた。反論の余地はない。
「すみませんでした。もう、私、迷いません」
 レジーナが闇に溶け込むように去っていくレーゼマンに呟く。
「プリーストは、なにも捨ててはならぬのでござるな。我らは、光を掲げるものであった。この大陸に生きるいのちたちに光の存在を知らしめる使命があったのだな」
 フランソワも呟く。
 ふたりは、無言で頭を下げた。助けられたことに、ではない。真に大切なことを思い出させてくれたことへの、それは精一杯の礼儀であった。