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グリフォンパピーを救え!

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グリフォンパピーを救え!

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第4章 守るべきもの
 悲鳴とともに、カナンの長身が岩壁に叩きつけられる。
「カナンさん!」
 優菜が、駆け寄り、カナンを抱き起こす。
「次は、わたくしが」
 ハンスの右手がかざされるが、エネルギーがそれに吸い寄せられるように逆流し、ハンスだけでなく、そばにいたクレアや怜史までもが放電に撃たれ、吹き飛ぶ。
 今度は、ティアがいっきに駆け寄りながら治癒の白色光をぶつけようとする。だが、
「…!」
今度は、悲鳴すらあげられない。5メートルほどの天井まで巻き上げられ、墜落する。それを辛くも巽がキャッチして、事なきを得る。
「な、なんてことだ…」
 すでに倒れたままのカオルが痛みに耐えて呟く。
ヒールのパワーが逆流してくるなんて…!
 ロットも必死に立ち上がろうとしながら、荒い息を吐く。
 多くの支援のもと、700キロの巨躯をもつグリフォンパピーは、洞窟の中に運び入れられた。生徒たちのてのひらは破れ、血にまみれている。が、一刻の猶予もない。
 洞窟は、一見なんの変哲もなく奥行きも4メートル程度しかない。が、入り口には防弾耐熱シャッターが設置されている。
 しかも、地下は簡易シェルター化されていて、自家発電・空気正常化システム、エアコン、食糧、水、医薬品、医療機器のほか、防護服、ガスマスクなどが完備されている。
 まず、エアコンの温風で低体温のパピーをあたためようとした。が、発電システムが生み出すエネルギーそのものに、パピーの銃創からあふれだす高エネルギーが干渉し、一瞬で全電力が停止してしまったのだ。
 これで、エアコンはおろか、医療機器のほとんども使用不能となった。
 激痛に波打つようにバタつくパピー。そのからだに近寄って、人肌であたためることすらできないなのだ。
「もういちど、私が!」
バウエル・トオル(ばうえる・とおる)の強力な手かざしのちからが放射される。今度は、そのパワーがパピー前方の空間に帯電し、増幅して跳ね返ってくる。
「トオル!」
 岩壁に激突しそうになるパートナーを棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)が身を挺してかばうが、ふたりとも固い地面に叩きつけられる。
「亞狗理!」
 晶が、駆け寄り、ふたりを抱き起こす。それを振り払うように亞狗理は、立ち上がった。そのまま、地下から大量の包帯を抱えてもどってくる。
「待って、亞狗理、やめて」
 右腕を電光で撃たれた鈴花が、動く左腕で、この波羅蜜多実業の生徒を止めようとする。が、その手をふりほどき、よろよろと亞狗理はパピーに向かっていく。
「俺様はの、地球で農業高校、通ってたんじゃ」
 優梨子は、壁にもたれたまま、目の前を歩いていくモテなさそうなツンツン頭の生徒を黙って見送っていく。
「農業はええぞお、あれはええ。いくらパソコンにくわしくても、地球は、そんなもん知らんのじゃ。パソコン通りになんぞ、いくわけない。地球はそれ自体、でっかいでっかい生き物で、俺様たち人間にはどうにもならんちゅうことを、農業は、しっかり教えてくれるんじゃ」
(亞狗理…)
 黎は、ランスを杖にすることで、かろうじてからだを支えながら、亞狗理の姿をにじむ瞳で見つめている。
「農業はどこでもできる。このパラミタでもできる。ただな、農業はの、土だけあればできるっちゅうもんじゃないんじゃ。実りをはぐくむいい土をつくるのは微生物じゃ。微生物を育てるのは栄養分じゃ。栄養分は自然豊かな森林や山、海、川から地下を通って土ん中にはいってくる。森林、山、海、川。そこにいるのはなんじゃ」
 モンスターじゃろが、こういうパピーみたいなモンスターじゃろうが!
「そうだな」
 デゼルが自分に向けて呟く。
「グリフォンやドラゴン、そういう強い生き物がおらんと、草食動物ばかりが増える。すると、草は食い尽くされ、土は弱っていくんじゃ。そんな土、いくらたがやして、田畑こしらえたって、なあんにも生えやせん。地球もパラミタ大陸もおんなじなんじゃ。みいんな、つながって生きとる。生態系という絶妙な輪っかでつながってる」
 亞狗理は、涙を流していた。そして、パピーを力強く指さす。
「たしかに、こんパピーが一頭死んでも生態系は崩れんじゃろう。だがの、一頭殺せるヤツは、二頭殺せる。二頭殺したら、三頭目を殺したくなる。そうやって、人間はたくさんの貴重な動物たちを絶滅させてきた。そうやって、人間が生態系を破壊してきたこと、知ってるじゃろうが。おい、貴様ら」
 ここでも、このパラミタ大陸でも、おんなじこと繰り返すんか?! モンスターだから、皆殺しにするんか?!
 サミュエルの右目から静かに涙が流れていく。
「俺様はやらせんぞ。そんなこと、絶対にやらせん。まず、このパピーを守ることからはじめるんじゃ。こいつ守れなかったら、俺様は」
 結局、ただのバカでクズの不良で一生終わりそうで…それが…それが、メチャメチャ怖いんじゃ!
 雄叫びがせまい空洞に反響する。亞狗理の声帯がひびかせるものすごい声である。その雄叫びをあげながら、亞狗理は、スパークしつつ、のたうち回るパピーに抱きついたのだ。
 亞狗理ッ!!!
 棒立ちのまま叫ぶクレアたち。亞狗理の全身を光速で黄金の雷電が疾駆し、少年は絶叫をあげる。だが、抱きしめた両手を離すことはない。
 パピー! 聞こえるかアアッ! 俺様は、いや、ここにいる全員、貴様の仲間じゃ。信じてくれ。
「頼むよ、人間、信じてやってくれや!」
 みんな泣いていた。
 なにか崇高な感情が胸の奥深くから圧倒的な質感をもって湧きあがってくるのだ。だが、生徒たちは、ただ泣いてはない。泣きながら全員が立ち上がる。痛みをこらえて立ち上がる。
「亞狗理さんの迫力にパピーが圧されている。今をおいてチャンスはもう巡っては来ないわ!」
 睡蓮がほとばしる涙をぬぐうこともせず、叫ぶ。
「もうヒールの能力があるとかないとか関係ありませんよ」
 怜史がめずらしく拳をにぎりしめる。
「正義のヒーローは、こういうときのためにいるんです」
 クロセルも足の痛みに耐えて声を振り絞る。
「みなさんのちからを貸してください!」
 優希の声に、巽が不敵な笑みを浮かべる。
「遠慮するな。貸すさ。全力でな! ここまで運んできたいのちを、それを守ろうとするいのちを失うわけにはいかないんだよ」
「みなさん、イメージしてください」
 プリーストのトオルがカナンに肩を借りながら、説明をする。
「生きろ! そのイメージをそれぞれが身につけたちからに乗せて、パピーと亞狗理様に照射するのです」
 全員が頷き、目を閉じる。洞窟の狭隘な空間に白いエネルギーが光の球体となってふくれあがる。だが、すぐさま、パピーから放たれる無数の稲妻が、無数の鎌首を持つ黄金の竜と化して干渉をはじめる。
「押し返せッ!」
 ロットが叫ぶが、言われるまでもない。全員の最大のちからが対抗しようと増幅していく。だが。
「…!」
 亞狗理だけではない。全員が弾き飛ばされ、天井に、壁に、地面に叩きつけられてしまう。
「ここまで増幅したエネルギーの壁さえ突き破るなんて…!」
 優梨子は絶句するしかない。これで、まだ乳飲み子なのだ。これが成獣になったら、まさにこの生物を倒せるものはどこにもいなくなるだろう。
「あ…亞狗理…様」
 トオルが、自分の指の骨折もかえりみず、倒れたままの亞狗理のそばに転がっていく。その声に、亞狗理は目を開けた。
「見たか、トオル。これが自然のちからよ。人間なんぞちっぽけなもんじゃ。どうにもならんじゃろう。さすがじゃのう、こんなちいさいのに、俺様たちよりはるかに強い。けどな…やっぱり、子供は子供、パピーはパピーよ」
 亞狗理は立ち上がる。立ち上がり、包帯を拾い、またパピーに歩きはじめる。
「なあ、パピー、怖いじゃろ、寒いじゃろう。待っとけよ、また抱っこしてやるからな」
 あっためてやるからなあ。