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グリフォンパピーを救え!

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第2章 狂気の翼
 計40発ものプロペラの回転音は、飛蝗の大群をほうふつとさせる不吉さをもって、すでに上空を圧している。
 10機の機体から無差別、無秩序にはなたれる銀糸のような機銃弾が左右に散開する生徒たちの間を通過して、砂を蹴散らす。
月島 悠(つきしま・ゆう)は、顔を上げた。敵機のフロートのなかから、擬装した機銃がせり出すようすがスローモーションのように見える。この至近距離である。発射されれば、回避しようがない。そばには、他の生徒もいるのだ。
 彼女は、幼い頃から戦場で育った。殺すことや死ぬことよりも生きるほうが困難であることを、肌で知る少女である。そして、彼女は、生きるために、その場に適した戦い方を直感的に判断するちからを併せ持っていた。
「借りるぞッ!」
「悠くん!」
 パートナー、麻上 翼(まがみ・つばさ)が驚く間もなく、彼女の手から光条兵器を奪い取ると、悠は、大地を蹴った。プロペラが巻き起こす風の渦流をたくみに避けながら、右翼にひらいた銃口の真正面に身をさらす。
「あのバカッ!」
 悠の姿に捨て身を感じた樹月 刀真(きづき・とうま)が、
「おれも借りるぜ」
と、パートナー、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)から黒い光条兵器を引っつかむと、大地を駆け、跳躍する。高く飛ぶ必要はない。もう飛行艇は目の前だ。
「刀真、危ない!」
 月夜が思わず空に手を伸ばす。
「よく見ろ月夜! おれより危ねえやつがいるだろう!」
 その声に、悠が眼の端に刀真をとらえる。
 黒い光が空間を薙ぐ。右翼をささえていたプロペラが根こそぎ斬り払われる。機体が安定を失い、大きく右に傾き、翼端が地面に触れながら、なおも突っ込んでくる。
 そのまま、着地した刀真は、肩をならべた悠を見ることもなく言った。
「ときには、俺だけじゃあ対処できないこともある。倒れるなよ。お前にだって悲しむやつのひとりくらいいるんだろう
「わかっている!」
 悠は走り出す。長大な針となって射出される銃弾の群れ。その悪意めがけて突進していく。
「邪魔者は…」
 光の剣は、悠のあらゆる熱を具現化するように弾丸の軌道を紙一重で避けながら、真下から斬入し、彼女の飛翔するままにフロートが切断される。
「排除する!」
 空中で叫んだ悠の下を、飛行艇は、重量のバランスを失っていく。左翼のプロペラによる惰性で回転しつつ、不時着し、プロペラが地面に食い込んで停止した。生徒たちが風防を破壊し、なかからパイロットを引き摺り下ろしている。