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グリフォンパピーを救え!

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グリフォンパピーを救え!

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「見事なものだな、女性とは思えん。さしずめ斬艦菊一文字というところか」
 手に煙を吐くアサルトカービンを携えたその青年を、悠は見た。菊一文字は、新撰組・沖田総司の愛刀の名と言われている。
 悠も刀真も、その青年を知っていた。教導団にあって軍規、自他ともに対し厳しいとされるレーゼマンである。
「君が人を褒める才能をもっているとはね」
「褒める? 違うな。私は評価しただけだ」
 にこりともせず、そう言うレーゼマンに悠と刀真が顔を合わせて、かすかに微笑む。
「刀真」
 そのまま歩み去ろうとする刀真は、呼び止められて振り向いた。
「ありがとうというべきなのだろうと思う。だって、あなたは、あのパイロットを殺そうとしなかったから。その想いは、私も同じだったから」
 そう言って、ためらいがちに手を差し出す悠。その手を握ろうとして、相手が女性であることを思い出し、あわてて服に手をこすりつけ、握手をする。
「いろんな学校にいろんなやつがいる。いけ好かないやつ、生意気なやつ。けど、そのなかに、ひとりでもいるか? 死んでもいいやつとか、殺してもいいやつなんてさ。やっぱり、人殺しはしないに越したことは…」
 刀真の言葉が終わらないうちに、
「理想論は後にしろ! 来るぞッ!」
と言うレーゼマンの怒声のような声がはじけ、彼のカービン銃が正確な射撃で接近する敵機のプロペラのひとつを破壊する。
 つづけて放たれるスプレーショットが飛行艇の上空から両翼と胴体を直撃し、機体が燃え上がる。その血の色をした炎に照らされて、レーゼマンは昂然と顔を上げた。
戦士なら、自分と隣人を守るべく、敵を撃ち滅ぼして進むまでだ
 彼が、もう興味はない、と言うように炎上する機体に背を向ける。その途端、大爆発とともに吹き飛ぶ機体。
「すごいのう、レーゼマン。なんせ、容赦がない」
 ルビーナがほっほっほと笑いながら爆風の中を進んでくる。右方向から撃ってくる機銃を見ることもなく、鮮やかにランスで跳ね返す。
「じゃが、そうやってパイロットを殺しては、やつらの目的がわからぬままじゃぞ」
「目的など、はじめからわかっている」
 そう言うレーゼマンをルビーナは見つめる。
「私と戦うためだ」
 そのまま去っていくレーゼマンを見送りながら、サファイナの胸にはある不安が膨らみつつあった。
(グリフォンパピーの墜落と飛行艇の来襲。ほとんど同時に起きたふたつの異常な事件に関係はないのかしら…)
 全身を黒い闇が覆った。はっとして振り返ったとたん、飛行艇の巨大な影が彼女に肉薄していた。しまった! そう思った瞬間だった。
 なにかが大気と空間ごと断ち切ったような戦慄が全身を駆け抜けた。
 バスタードソード型光条兵器「エース・オブ・ハート」。ルビーナの奮う閃光の弧線が飛行艇の胴体を両断したのだ。
 浮力と安定をなくした機体は、轟音をたてて、ぶざまにその場に墜落。気絶しているらしいパイロットを生徒たちが担架に乗せている。
「つまらん、じつにつまらん。なかなか、わらわを楽しませてくれる敵には出会えんのう」
 そう言って渋い顔で作り笑いを浮かべながら、じつは、サファイナがケガをしていないか気遣っているのだ。
「ありがとうございます、ルビーナさん」
 そう、この人のほんとうのやさしさは、私しか知らない。
 そのサファイナにこうやって心を込めて接せられるのが苦手なルビーナである。さてと、次の獲物はどこじゃいな、と言いながらひょこひょこ歩いていく。それをくすくす笑いながらついていくサファイナ。
「名乗りを上げさせていただきます、不意打ちは好きではないのでね」
 突然、コクピットの真上に現れた青年を見上げたパイロットの顔にかすかに驚きの表情があらわれる。
「私の名はイレブン・オーヴィル。あなたの名やご趣味については、基地でゆっくりとうかがいたいのですが」
 だが、パイロットには誘いに応じるつもりはないらしい。翼を振り、イレブンを振り落とそうとする。そのていどで振り落とされるイレブンではないが、彼は眉をひそめる。パイロットが普段着なのだ。
(パイロット・スーツすら着ていない。この人たちはいったい…)
 その間も地上では、彼のパートナー、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が、手をぐるぐる振り回しながら、
「いまだッ、突撃ィ! 全軍突撃だあ」
と、おおはしゃぎである。
 剣の花嫁である。プリースト(僧侶)である。ついでに美少女でもある。が、彼女は病に犯されていた。三度のメシより戦争が好き、という不治の病である。
 しかし、まあ、こうして繰り返し聞かされていると、いまだッ、突撃ィが「今田の積み木」に聞こえてくるなあ、と妙なところで感心していると、督促の声がした。
 さっきから胴体に座り、葉巻をくゆらせ、しかも信じがたいことにこの激震の飛行艇の上で、ティータイムを楽しんでいる青年がいるのだ。
「そのティーセット、どうやって運んだの、ロブ」
 呆れて訊ねるイレブンに、ロブは、言う。
「この青空のもと、英国紳士にそういう愚問はカンベンしてくれよ。自分で運んだに決まってるじゃないか。ドライ・ジンも持ってきてる。飲むか?」
 その問いに溜息混じりに首を横に振ると、イレブンは言った。
「パイロットさんには、丁重にお願いしたんだけど、私との同行はイヤなんだそうだ。ということで、はじめますか」
「そうしますか」
 すべては、一瞬だった。セイバー(剣士)であるイレブンのはなつツインスラッシュの軌道が両翼を切断すると同時に、ロブのアサルトカービンが乱射され、客室の窓が砕け散る。