薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

温室管理人さんの謝礼

リアクション公開中!

温室管理人さんの謝礼

リアクション


7.タネ子と一緒に。

「熱き拳に想いを乗せて! 殴るっ、燃やすっ、ぶっ壊す!! 烈火の拳姉、ここにさんじょー☆」

 透乃がポージングをしながらノリノリに台詞を叫んだ。
 軽身功の力で駆け、近くの触手が迫ってきたが殺気看破で察知し、等活地獄で散らした。

(ダメージを与えるなら火を使った方が良さそうだけど、食べれる部分まで燃やしかねないから、火は使わない。
 武器が思いっきり炎熱属性だけど…)

「どうだこの肉体。食い応えがありそうだろう! さあ、かかってこいよ!」

 泰宏が隣で叫んだ。

 タネ子が徐々に迫ってくる。

 泰宏は固く目を閉じ──

ばくっ。


 案の定、食われてしまった。

(いいんだ……私が食べられていれば、皆が動ける。私が耐えさえすれば……。死ぬ前に頭を採って助けが来ることを信じる…)

 でも最後に──

「私が透乃ちゃんと契約した理由!? 体目当てだー!! 巨乳のお姉さんいやっほおおおおおっっっっっ!!」

 外には漏れないうに、ハマグリの中で泰宏は奇声を発した。

「ヒール!」

 陽子はだらりと垂れ下がった泰宏の足に向けて延命措置を図った。
 けれどその状況は、ドMの陽子にはあまりにも魅力的過ぎた。

「私を…もっと…苛めてください…」

 自分に置き換えて妄想を始めた。

「──やっちゃん、今助けるよ!」

 透乃はそう言って駆け出そうとしたが、無性に茎や触手の味も気になってしまい、泰宏は後回しで茎に噛み付いてみた。

「マズっ!!!!」

 透乃は食べた物を口から吐き出すと、憂さ晴らしにそれを殴りつけた。

   ◆

「で、でかいな……」

 洋兵はタネ子を見上げて呟いた。

「よし! 行け!」

 洋兵は意味不明の言葉を綺人に投げかけた。

「え……?」

「食われてこい」

「ななななんで僕が!!」

「そうですよ! どうしてアヤがタネ子さんに食べられなきゃいけないんですか!?」

「……可愛いお嬢ちゃん? 俺は女性には紳士、若い男には鬼なんだ。それが洋兵クオリティー」

「は、はぁ……」

「いくら外見は可愛くても、男は男! 俺は鬼と化す! おじさん、貧乏だから腹減ってんの!! 囮になってくれ!」

「!!!!!」

「お前の死は無駄にしない! 喰われてろ! 後で助けてやる!!」

 突き飛ばされ、辛うじて堪えた綺人は、両手を振り回して怒った。

「ひどいよ!!」

「……おい綺人、そんなに腕を振り回すな。慎重に行動しろ…、って、あ……」

 ユーリを無視して暴れていた綺人が、ぱくりとタネ子に食われてしまった。

「だから言ったのに……」

「うわあぁああ! 食われた〜〜〜〜」

 必死にハマグリを押し上げ、脱出しようともがきまくる。
 その光景を見ていた変熊は両手を叩いて笑った。

「瞬間見た、瞬間! 最高!! 頑張れタネ子! 触手も使って、そいつだけじゃなく、全員素っ裸にしてやれ!」

 植物栄養剤をタネ子に差し入れ、頭の採取妨害をしてやる!
 みんなみんな大惨事を起こしちまえっ!!

ばくっ


「……え?」

 暗転。
 そして暗闇で光る二つの目。
 闇に慣れてきた変熊の目が、不適な笑みを浮かべている綺人を捉える。

「仲間だ……」

「ぎゃあああ!!! 俺様まで食われた〜〜〜!!!!」

「──今のうちです!」

 満夜は前に飛び出した。

「タネ子さん、いい加減おいたはやめなさい!」

 満夜に気付いたタネ子が、うようよと触手を近づかせ始めた。
 艶かしい動き──…満夜は後ずさった。
 間近で見ていたアンナの額にも、汗が流れる。

(な、なんと破廉恥な触手…! 波音ちゃんがあの触手の餌食になる可能性が…!)

「タネ子さんの触手相変わらずエロすぎ〜! 寄るな近寄るな〜! 変な所触るな〜! ひぃ!」

 波音は逃げ惑った。

 タネ子に対しトラウマを感じながらも、アンナの喜ぶ顔が見たくて再びやってきた。

「あたしが囮になるから、その隙にアンナは首の根元を狙って!」

「でも波音ちゃん……」

「あたしなら大丈夫だから!」

「は…はい……」

 何度も振り返りながら駆け出した。

   ◆

「タネ子って食用だったんだね…どんな味するのかな〜?」

「これが終わったらいよいよ食せますよ。楽しみですね」

 エレンは葵に微笑みかける。

「前回、管理人さんが襲われたのってタネ子の頭を採ろうとしたからだよね? 怖いな」

「皆がいますし……それに私もいます。葵ちゃんに何かあったら、私が命に代えても守ります」

「エレン……」

「さぁ、可愛い姿を良く見せてください」

 今日の服装は、猫耳に、二股に分かれた尻尾をつけた、体操服姿の葵。
 エレンにじっと見られていることが、恥ずかしくてたまらなかった。

「も、もう、行こう……!」

 照れ臭さを隠すかのように、エレンディラの脇をすり抜ける。

「…葵ちゃん……可愛いです!!!」

 後ろ姿の葵を見ながら、エレンディラはぎゅっと自分の腕を抱きしめた。

 【空飛ぶ箒】に乗ってタネ子の首(?)の根元辺りを氷術で作った氷をぶつけ、そこから葵は根元に飛びつくつもりでいたのだが──
 イングリットが、既にタネ子の茎をよじ登っていた。

「イイイイ、イングリットちゃん!?」

「んーと〜頭の所叩けば取れるんだよね。楽勝だね。イングリットが、落としてきてあげる〜」

 だが。
 握力が弱いのか、上ってはずるりと落ち、上ってはずるりと落ち……を繰り返している。
 そして近づいてくる触手。

「うにゃ。はーなーせぇー。こうなったら食べられる前に食べてやる」

 イングリットは触手にガブリと噛り付いた。

「……イングリットちゃん…」

「後でお薬を飲ませた方が良いですね……」

 葵とエレンディラは苦笑しあった。

「…なんか……茎は食べないほうが良いのかも…」

 イングリット達の様子を見ていたミルディアが呟いた。

「えぇ!? いしゅたん、ちょっと齧ってみたかったんだよ?」

「え……」

「あ、ぁああ、違う違う、なんでもない!」

 慌てて白を切ろうとするイシュタン。
 聞かなかったことにしてあげよう。

「触手はほとんど向こうが引き付けてくれていると思ったけど……やっぱりタネ子さんの周りにもいるんだね。まずはこの触手を何とかしないといけないのかなぁ〜」

 ミルディアが、プラスチックの軽い鉢植えを一つ、触手に向かって投げつけてみた。

 ボコン! ごろごろごろ。

……当たった。

 その数秒後に、マッハの勢いで触手が伸びてきた。

「ぎゃああ〜〜〜!!!」

 ミルディアとイシュタンは、これでもかといわんばかりに逃げ出した。

   ◆

「……やっぱりこうなったね」

 タネ子に食われている数人の足を見ながら、乃羽は苦笑した。
 何人か食われるだろう……と予測し、しばらく後方から静観していた。

「しょうがない……」

 乃羽は大き目の鉢植えの中の土を、タネ子に投げつけた。

「それ! それぇっ!! 花咲じいさん攻撃!!」

「──うわああ! 今のかっこいい! もっとやって!」

「え? えぇ??」

 いきなり声をかけてきたジョゼットに驚いて、乃羽はしどろもどろになった。

「あたし、まだ修行中だから上手く描けてるかわからないけど…変態じゃないよ!? ゲージュツ的に興味があっただけだから描いただけ!」

 スケッチブックを片手に、ジョゼットは胸を張った。

「その姿、スケッチさせてもらうからね」

 途端に仕事モードになった視線は、ドキリとするものがある。

「ほら! 投げて投げて!」

「え、う、うん……」

 何とも言えない気分で、乃羽は土を振りまく。

「……なんか、楽しそうだねぇ。頑張ってね〜」

 北都は笑顔で手を振り、タネ子の興味が乃羽に向くのを待って行動を開始した。
 軽身功で温室の壁を走って頭へ取り付く。

(空中では咄嗟に反応出来ないから、触手に捕まらない様に注意しなくちゃ)

 ソーマはバニッシュで襲い来る触手に範囲攻撃をかました。

「俺がひきつけとくから早く行け!」

「触手にやられないでねぇ」

「うるさい! とっとと行け!」

「はいはい」

 色よい返事はしても、急ぐ気配はまるで無し。
 下で戦っている人たちを眺めながら、博識の北都は過去のデータから最も適正なルートを割り出して進む。

「あはは……みんな叫んでるねぇ」

 阿鼻叫喚をBGMに、首の根元までやってきた。

「ここ、かなぁ?」

 ポコッと叩いてみる。

ずずずずぅううぅううん。


 面白いように頭が落下していった。

「あ……下の人たち、潰されてないかなぁ? ま、いっか」

 頭が消えて見晴らしの良くなったタネ子のてっぺんから、北都は優雅に温室を見回した。

   ◆

 永太は火術を触手に放った。

 タネ子の気を引いて隙を作る! 

「タネ子! 可哀想ですがあなたを食べさせてください!」

(ザインが食べることが大好きなので、食べさせたいのです)

「頭は任せましたよ! ザイン!!」

「承知しました! 先ずは【六連ミサイルポッド】を触手に向けて連射!」

「ちょちょちょっと! 頭を傷付けちゃダメですよ」

「分かってます!」

 ザインは【加速ブースター】二基を全開にし、全速力でタネ子に突撃した。
 衝突した勢いでタネ子の頭を落とす─予定だったのだが、上手くはいかなかった。
 危うく触手に襲われそうになった時──

「こっちだ、こっちー!!」

 阿童の声が辺りに響いた。

(タネ子の囮は……俺もした方が良いな……確か触手には服を溶かす粘液が出てるんだっけか……
 女性陣にやらせたくはないな……裸を他人に見られるのは一生もんのトラウマだろうからな)

 阿童は触手を自分にひきつけた。

「あーくん……」

 理子はその様子を離れた場所から、見ていた。

(タネ子ちゃんを採ってくるって張り切ってたけど私はあんまり戦いとか得意じゃ無いんだよね……私は後方支援で良いかな?)

「あれがタネ子ちゃんかぁ。近くで見ると迫力だね」

 皐月がのんびりと答える。

「でもタネ子ちゃんって美味しいの? 味次第では調理の方法を考えなくちゃね〜」

 それ所では無いのに、あれこれと調理法を思案する。
 しっかりタネ子対策として耳栓をしているため、周りの音は何も聞えていなかった。

「──タネ子にはあんまり近づきたく無いんだよね〜…」

 理子は小さく呟いた。

(タネ子って服溶かすし……誰も居ないなら別にいいけど今回は阿童君がいるし……阿童君が囮になるって言ったから平気だとは思うけど……)

「とりあえず後方支援! って、あ!」

 触手が近くまで来ていた。
 じりじり後ろに下がっていると、目の前の触手が一瞬にして消し炭になった。
 顔を上げると、阿童が笑っていた。

「大丈夫か?」

「ありがとう〜」

(理子や皐月に絡みついたらただじゃおかねぇ……特に皐月の服を溶かしやがったらタネ子の野郎を八つ裂きにしてやる!
 あと皐月の裸をみた奴は即座にその場で皆殺しにしてやる)

 笑顔の裏で、物騒なことを考えている阿童だった。

「しかしこのままじゃ……あれ?」

 思わぬ伏兵がいた。
 ヴァーナーが頭を叩きに、頑張ってよじ登っていた。
 あんまり派手に動くと攻撃されることを想定して、まるで芋虫のように、のんびりじんわりと、のぼっていた。

「あっ!」

 ザインエンデが悲鳴をあげる。
 ヴァーナーの足が滑って、落ちてきそうになった。
 が。
 まるでひっつき虫のようにツタや反動を利用して、飛び移る。

「あんなにちっちゃいのに、華麗……」

 ようやく根元へと到着した。

「…ふふ。ジャックと豆の木みたいですね」

 ヴァーナーは楽しそうに笑った。

「えっと、えっと、首の根元? ……ここですか?」

 ぽこん。

「ちがう? ここ?」

 ぽこん。

「ちがいますねぇ」

「早く早くして〜〜〜!」

 石になったらこまるのでしていた耳栓がいつの間にか取れ、下から切羽詰った声が聞える。

「うひゃ!」

 焦ってしまい、どこをたたけば良いのか分からなくなる。
 ぽこぽこぽこ叩いているうちに。

もこ。


 一つだけ違う感触。

 当たった。

 ずどんと、頭が落下していった。

「わ……取れました!」

 ヴァーナーはその場で小踊りした。
 落ちた頭からは、泰宏が吐き出されていた。

「し、死ぬかと思った……」

 泰宏は頭を何度も振って、胸を撫で下ろした。

   ◆

「あと一つ……」

 ルイは大きく息をついた。

(あの姿から想像も出来ませんでしたよ、タネ子さんに食いついた子を前に目撃しましたが、本当に食用だったとは……)

「タネ子さんの採取、皆さんと協力して成功させましょう!」

 ジャングルの王者風に素っ裸に腰蓑一丁という男前スタイルでは、いまいち説得力に欠ける。

「協力してではなくて、あなたはんが犠牲になるんどすぇ?」

 またしても柚子がやってきた!

「ひっ……」

 まるでストーカーにでも出くわしたかのような驚き方で、ルイはリアの後ろに隠れた。

「……リアはん…?」

 柚子の微笑に、リアは何も言わずにルイを差し出した。
 自分に矛先が向いたら叶わない。犠牲は無駄にしない……生きろルイ。

「何て事をするんですかー! 鬼ー! 悪魔ー!! ……あ…」

 柚子の笑顔が消える。
 そして。
 縄で亀甲縛りもどきなマニアックな縛られ方をされた。
 素っ裸に縄。
 かなりアブナイ……

「ありがとう! それは囮なのだな?」

 樹はルイを借りるとタネ子の前に差し出した。

「樹様! チャンスです! 狙うは首根っこ一筋ですー!! 喰らえー、爆炎波ー!!」

 転がっているルイの心配はせずに、ジーナは爆炎を撒き散らす。

「ひぃー!」

「狙うは首一点のみ! 唸れ! チェインスマイト!」

 章も負けじと攻撃を繰り返す。

「うぎゃー!」

「……ルイはん、うるさいどすぇ」

 樹がタネ子に飛びついた。
 この際、服装は気にしていられない。
 隣を駆け抜けた樹の髪の香りが、鼻を掠める。

(あぁ樹様……良いニオイ…御髪だけじゃなくて、お肌も結構綺麗なんですー。
 わがまま言って、お風呂上がりのお肌のケアだけはさせていただいているのですが、何かもったいないー。
 出来るならいつもすりすりしたいですー。でも、それをしたら餅と同類になっちゃうですー。嫌ですー)

 ふんがふんがと、樹の香りを根こそぎ吸い取ろうと、ジーナは鼻腔を広げる。

 そして、茎に飛び移るときに踏まれた章。
 上を見上げると……下着が眩しい…

(いつもカラクリ娘に蹴られてばかりだけど、朝起こしに行っているとき、寝顔を見るのが大好きなんだ。
 あーでも、見ているときに色々想像するんだよねー。いや、さ、樹ちゃんが下着だけでいつも寝ているからなんだけど……。
 たまに、肩ひもずれてるしさー、ホック外れてるしさー。あ、まずい、鼻血が…)

 上を向いても、邪心を振り払おうと他のことを考えても、やはり樹のことで頭がいっぱいになる。

「行くのだよー!!!!」

 樹は拳を高く掲げ、思い切り振り下ろした。

ぽこん!


 直後に響く激しい音。
 ハマグリから、まるで汚物のように粘液交じりで吐き出された、綺人と変熊。

「………」

 二人の身体が、ぴくぴく痙攣していた。