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温室管理人さんの謝礼

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温室管理人さんの謝礼

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8.果物食ったら……

「あははっ、三つ目来た来た!」

 歩は溢れんばかりの笑顔でタネ子運びを手伝う。
 管理人さんはまだ帰ってきていないが、準備は出来た。
 いつも使っているという巨大な網を三つ用意して。

「えーと……どうしましょう? 結構人数多いし、細かく切っちゃった方が良いでしょうか?」

(一応あたしはメイドだし、こういうところでも盗める技術があったら盗んで成長していきたいな)

「ワタシは……タネ子の貝柱のしゃぶしゃぶを作ろうと思ったのです。先ず口の部分から包丁を入れ貝柱部分を切り、タネ子の頭を半分にわります。貝柱部分を取り出して薄くスライスし……つけだれは、2種類。一つは魚介系のだしを使ったこってり系の醤油味。もう1つは、梅肉、唐辛子、青しそにカツオ出汁を加え、メカブを摩り下ろして加えたつけだれです。」

「貝柱のしゃぶしゃぶ? すっごい美味しそう!」

 弥十郎はその言葉に少し照れながら言った。

「クニョクニョしたタネ子の貝柱の食感を、爽やかな酸味とヌルっとしたつけだれで楽しめるはず……そう思ったのですが……」

「?」

「管理人さんのお話を聞くと、どうも調理をする必要性を感じなくて」

「先生が解体した頭を私は料理しようと思ったんだけどな」

 真名美は唇を尖らせた。
 何となくウチワサボテンににているので、頭のステーキを作ろうと考えていた。
 まず熱湯に頭をくぐらせて、冷水につけ湯剥きをし、それからステーキのサイズに切り分け、唐辛子とにんにくで香り付けしたオリーブオイルで焼く。
 ソースは焼いた跡の油にカットしたトマトとバルサミコ酢を加え、とろみがつくように小麦粉を少々加えて。

「諦めるのは早いかもしれないけど、でも……ちょっと残念」

「この状態は……本当、バーベキューみたいなものなんかもしれないね」

「先生……」

 歩が苦笑する。

「でも、うん。頑張って皆でおいしく作ろー!」

   ◆

「そこのぐーたら外道! 紅茶飲んでないで手伝いなさいよ!」

「えぇ? めんどくせぇよ……」

 悠はティーカップを片手に、温室の壁に寄りかかって寛いでいた。

「さては出来上がったものだけを食べようって魂胆ね」

「あったりー」

「そんなのダメに決まってるでしょ」

「オレの分もミィルが働けばいいじゃん。オレのパートナーっしょ?」

「………」

「オレを選んだミィルの負けー」

「ぐっ………ふんっ!」

 ミィルは踵を返すと、タネ子運びに向かった。
 悠はこくりと紅茶を一口。
 二人の喧騒がうるさかったのか、近くで寝ていた…いや、気を失っていた翡翠が目を覚ました。

「あ、気付いたのか?」

 レイスが顔を覗きこむ。
 翡翠はゆっくり起き上がると、レイスの上着がかけられていることに気づいた。

「これからタネ子食うみたいだ。大丈夫か?」

「気絶……しちゃってたんですか。あ〜やっぱり、昼間だと運、最悪ですねえ……」

 翡翠は小さく溜息を漏らした。

「まあ、いつもの事だろ? 気にするなよ。タネ子お食えるのに間に合っただけ、良しとしとけよ」

「……はい」

 翡翠は寂しく微笑んだ。

   ◆

──パチパチと、何かが焼ける音が聞える。
 温室前では、タネ子が三つ網の上に置かれて焼かれていた。
 つい先程戻ってきた管理人さんが、火加減調節をしていた。

「かかかかかんりにんさん!」

「くひがくひが〜〜〜」

「たふけてくだひゃ〜〜〜〜〜い」

 祥子、エレン、リアクライス、大地、剛太郎、コーディリアの六人が、温室から飛び出してきた。
 痺れた口で必死に訴える。

「なんだ? 一体」

「おんひつの奥のしろひ果物食べたらこうなったんれふ〜〜〜」

「たふけて〜〜〜」

「びりびりしゅる〜〜〜〜」

「ありゃ、お前らあれを食ったのか?」

「ごめんなさい〜〜〜」

 管理人さんは頭をかいた。

「その痺れに解毒剤は無いんだよ。まぁ…ちょっと時間はかかるがじきに直る。安心しなさい。とりあえず水でも飲んで少しでも早く回復するようにした方がいいな」

「ふわ〜〜〜い」

 水を飲んでも一向に痺れは消えない。
 これからタネ子を食せると言うのに! こんな時に〜〜!!!!

「エレン〜〜〜口の痺れが取れなひよほ〜〜」

 祥子が顔をくしゃくしゃにしてエレンに泣きついた。

「私だってそうでふよ〜〜かなひぃでふ〜〜」

(せっかくの料理趣味を生かす機会。調理特技もとれましたし、料理の腕前を披露してみましょうと思っていたのに!)

「この口でタネ子ふぁんを食べたら、どうなるのふぁなぁ?」

「分ひゃりません……」

 珍品高級品な果物は「なんだか珍しかったから持ってきた」で皆の前に出そうと祥子は計画していた。
 それが全て水の泡……

「やっぱりタネ子ふぁんは蛤みたいな味がするのはひら? ……でもこれじゃ…」

「あ〜〜〜〜ん」

 二人は抱き合って悲しみを分かち合った。

   ◆

「くひが……くひが……」

 リアクライスは唇を引っ張ったり伸ばしたり。

 大地はそんなリアクアイスを苦笑しながら見ていた。

「……はひ?」

「大丈夫でふか? リアクはん」

「大丈夫じゃなひよほ〜! こんなになるなんへ〜〜」

 天を仰いで不幸を嘆くリアクアイスに、大地は笑った。

「何で笑ふのほ〜! 大地だって口痺れてるんでひょ〜〜? タネ子ひゃん食べられないよほ〜〜〜」

「俺はもともとリアクふぁんに会いに来ただへであって、食べることは二の次でふから」

「な……っ、な…」

 大地の優しい笑顔に、二の句が告げなくなる。

「……んもうっ!」

 真っ赤になって地団駄を踏むリアクアイスは、妙に可愛かった。

「──…ラブラブでありまふな」

「そうでふか? そうでもないんじゃないでふか」

 剛太郎とコーディリアが、椅子に座ってぼんやりと二人を見ていた。

「タネ子さん……食べれるの、たのひみにしていたんでふが…剛太郎様はタネ子はどんな味だと考えていまひたか?」

「……自分は、キノコの様な味ではと思っていたでありまふ。松茸みたひな」

「松茸……それは…食べてみたかったでふね」

「食べられるに決まってふ! 絶対へったい!」

「味するんでひょうか?」

「うぅ…っ」

 剛太郎は言葉に詰まった。

「わ……わからなひ…」

 自分の口の中の状況は深刻だった。多分他の連中も、一緒だろう……


 そして。
 先に味見させてもらった六人は、涙を流した。

「口が痺れてて、何食べてるか分からなひよ〜〜」

「味がしなひ〜〜〜」

 べそべそと、口をへの字にしながら、タネ子を食べる面々。
 痺れが取れるには、もう少し時間がかかりそうだ。