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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・ガーナ×サフィー×三姉妹


 空京大学、工学研究棟。
「ガーネットさん、サファイアさん、頼みがあるの」
 朝野 未沙(あさの・みさ)は、五機精の二人にあるお願いをしようと考えていた。
「なんだ、言ってみろ?」
「二人の身体がどうなってるのか、ちょっと調べさせてもらっていいかな?」
 未沙は五機精の秘密を知るべく、二人の協力を仰いでいるのだ。
「ガーナ、どうすんの?」
「別にあたいは構わねーぜ。っつっても、どうすんのかによっけどな」
 ガーネットはそれなりの乗り気だが、サファイアはそうでもない。
「ちょっと中を覗かせてもらうくらいで構わないよ」
「中かー、そいつはちーっと難しいぜ」
 ガーネットが苦笑する。
「あたし達のベースは、生身の人間なの。まあ、自分達の中がどうなってるのか、あたし達五人も知らないのよね」
「なんでかってのは、見りゃ分かるぜ。ほら」
 ガーネットがおもむろに服を脱ぎ始める。
「ちょっと、ガーナ!?」
「ん? ここには女しかいねーんだ、問題ねーだろ」
 恥ずかしがる事もなく、ガーネットが上半身を露にする。なぜか隣のサファイアが顔を赤らめている。
「そうだけど……く、なによ……」
 どこか悔しそうである。
 ガーネットはすらりとして背も高く、さながらモデルのようである。
 一方のサファイアは顔立ちと雰囲気で十五歳くらいに見えるが、ガーネットに比べるとまだ発育不足な感じであった。特に、胸が。
「変なヤツだなー。で、どうだ?」
 未沙はガーネットの身体を隅々まで見る。触って感触を確かめたりもする事で、ガーネットが言わんとしている事が分かった。
「やわらかい。人間と変わらないんだね。それに、継ぎ目のような部分もない」
 外見に機械的なものが微塵もないのは見て取れていたが、表面的な部分も生身の人間と変わらなかった。
「だろ? 腹がパカって開いたりはしねーぜ。なんなら、下も見るか?」
 今度は下も脱ぎだそうとするガーネット。
「ガーナ!!」
「そう叫ぶなよ、サフィー。脱がすぜ?」
「ちょ、な、なんであたしまで、やめてってば!!」
 ガーネットがサファイアを無理矢理押さえ込もうとする。が、このままだと二人だけの世界に入ってしまいそうだと感じ、未沙は二人を制止する。
「まあまあ、二人とも。身体の表面的な部分は分かったから大丈夫よ。それに、別の方法だってあるんだからね」
 幸い、空京大学には機晶姫や他の機械類の研究を行うだけの設備が充実している。
「スキャナーがあるから、それで見させてもらうよ」
 室内には二台のスキャナーがあった。機械の異常を見つけやすいように、機晶姫用に調整されたものである。
 そこにガーネットとサファイアが入って撮影が始まる。
 終わるまでの間は、別の調べ物だ。
「資料の取り込みが終わったの」
 朝野 未羅(あさの・みら)が報告する。彼女がやっていたのは、ヒラニプラの遺跡で見つけた資料の読み取りだ。
 それらをデータ化し、自らの内に保存する。『機甲化兵と魔力融合型デバイスにおける構造比較』のような、機晶姫や五機精との内部比較が出来る資料も中には存在した。
 読み取りが終わったものはファイリングしながらの作業だったため、現物も整理されている。
「未羅ちゃん、機構化兵の内部構造のデータをお願いしますぅ」
 朝野 未那(あさの・みな)が言う。
 彼女が行っているのは、ヒラニプラから持ち帰った片腕が欠けた機甲化兵の解析である。
「どうぞなの」
 未羅が現物の方の資料を手渡す。それと目の前の機甲化兵とを照らし合わせて、構造についての確認を進める。
「人工機晶石を組み込んだら、また動くかな?」
 未沙は回収した人工機晶石を元あったスペースに収めようとする。
「えーっと、配線はどう繋がってかな……」
 収まっていたスペースはあるものの、それと循環系統を形成する各種配線がどう繋げるのかは構造比較の資料には記されていない。
 機晶技術を用いて、三姉妹は機晶姫の内部構造とも比較、それによってどうにか繋げてみる事にした。
「うーん、中身は機晶姫に比べればシンプルなんだけどね」
 装甲の内側は、人工機晶石を埋め込むスペースと、そこに繋ぐ配線、そして駆動部と金属骨格といった具合だ。見た目に反し軽いのは、中身がスカスカだからだ。
 機晶姫については、機械を組み合わせて一から造る技術は失われてしまっているが、心臓部である機晶石以外は、個体によって様々である。
 造られた時期もまた、バラバラなので一概にこうだ、というものはない。共通するのは機晶エネルギーを体内に流す事で身体を動かす仕組みになっているという事だろうか。
 機甲化兵には人工知能はなく、プログラムが組み込まれているらしいチップのようなものが内部にあった程度だ。それも、人工機晶石を埋め込む場所のすぐそばに。
 結局、機甲化兵が再び動く事はなかった。
「どうしてなのかな……あ、スキャンが終わったみたい」
 サファイアとガーネットの体内データが映し出される。
「骨格と内臓はほとんど機械だけど……人体とほとんど同じ並びだね。それに、脳はそのままみたい」
 二人とも、脳以外の臓器は機械に取って代わっているようだ。ただ、ガーネットの肌を触った感じだと、肉の部分までは生身、もしくは生体細胞で出来ているらしい。
 機晶技術、先端テクノロジー、博識を駆使して未沙は推測する。
 いくら体内が機械とはいえ、封印されていたとしても生身の部分が五千年も耐えられるはずがない。吸血鬼や魔女のような特殊な例を除けば。
 おそらく、体内の機晶石のエネルギーが細胞を常に活性化させた状態で維持させているために、彼女達は姿形を保つ事が出来るのだろう。それは、機械と機晶石のエネルギーに対して身体が拒否反応を起こさなかったという事になる。
 PASDのデータの情報を思い出す。一万人のうち、人の形を保ったのはわずか十人。
 ほとんどの人間は機械に対して拒否反応を起こし、肉体を維持出来なかったのだ。
「どう、何か参考になったかしら?」
 スキャナーから出てきたサファイアがそっけなく聞く。
「うん、かなりね」
 五機精と他の機晶姫の共通点は、機晶石を動力に動いている、体内に機械がある、それだけだった。
 彼女達の動力源が機晶石である以上、機晶姫である事に変わりはないのだが、彼女達は一般的な機晶姫のような『無機生命体』ではない。その意味では、非常に異質な存在なのだ。
「二人に聞きたい事があるの」
 未羅が尋ねる。
「なに?」
「五機精の能力と個体には何か関係性があるの?」
 サファイアとガーネットが、互いに顔を合わせる。
「ガーナ、分かる?」
「いんや。まあ、おっさんはずっと性能テストをやって、あたいらの力を調べようとしてたみたいだけどな」
 二人には、自分達の能力がいかにして身に付いたのかが分からないようだ。
「アズ、ジャスパー、ヘリオ、リオン、ルチルの五人は単に身体機能が異常なまでに高まっただけだっつーけど、あたいら五人はどういうわけか身体能力が上がる代わりにそれぞれ特化した妙な力が身に付いたんだ」
「でも、ガーナは身体能力向上みたいなもんじゃない?」
「まーな。あたいの場合、必要に応じて身体の一部に『力』を集中させて強化するわけだ。拳に力を集約すれば、殴った時に塵も残らず粉々に消し飛ばす事だって出来んぜ」
 逆に防御に徹する時は、攻撃を受ける瞬間にその部分を能力で硬化させればいい。瞬間的な身体能力は、人間の潜在能力の限界を遥かに上回るらしい。
「で、サフィーの場合……おっと悪い」
「……いいわよ、別に。あたしの場合は破壊、いえ分解というべきかしらね。今は三割の力しか使えないから、手で触れたものだけにしか効果がないけど、本来ならあたしの身体に触れたものは全て消滅するわ」
 だからこそ、彼女は双子のエメラルド以外を遠ざけたのである。
 彼女とは対極の力を持つエメラルドは、彼女の能力でも分解される事はない。
「そうだ、思い出した。おっさんが言うには、あたいらの能力は、元となった人間の『願望』から生じたものだっつーんだ」
「ガーネットさん、どういうことなの?」
「元となった子達は、平和な世界のために戦おうとして、おっさんの実験台になる事を選んだんだ。その時、そいつらが欲しいと願った力が、今あたい達に備わったんだとよ」
 ある少女は、皆を癒したいと願った。
 ある少女は、守る力が欲しいと願った。
 ある少女は、人の心を動かしたいと願った。
 ある少女は、悪しき者達を消したいと願った。
 ある少女は――
「クリスの元となった人間は、どんなヤツよりも平穏を望んでたんだろーな。だから、一人だけまるで別次元の力を手に入れた。しかも弱点を補うために、おっさんは翼を与えもした」
 五機精の最後の一人は、過去の調査資料から『唯一の完成体』とある。
「その人の能力は、どういうものなの?」
 その問いには、サファイアが答えた。

「――『支配』よ」