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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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第三章


・情報管理部


 空京大学内、PASD情報管理部。
「司城先生が、ジェネシス・ワーズワースですか!?」
 情報管理部長、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)からイルミンスールで起こった出来事についての報告を受けた。
「うん。はっきりと、そう言ってたよ。伊東さんって人も仲間みたい」
 伊東については情報屋、アレン・マックスからの報告で既に知っている。歩の話により、伊東がワーズワースと、少なくとも三日前までは行動していた事が明らかとなった。
 彼女は一通りの説明を終えると、ロザリンドのもとを後にし、パラミタ内海への遺跡へと向かった。
 PASD本隊が空京大学から出た直後の事である。

「なるほど、PASDの責任者がワーズワースだったわけか」
 アレンが到着し、ロザリンドから説明を受ける。
 情報管理部にはPASDの内部の人間でも、パスを持っていなければ入れない。そのための手続きは済ませてあった。もっとも、素直に情報屋と言うわけにはいかないので、コンピューターの調整に来た技術者という事にしてある。
「まあ、それならこちらの情報が筒抜けだったのも納得がいくね」
 アレンが自分のパソコンを開く。
「しかし、どうにも不自然な点が多いです」
 司城が黒幕であるなら、傀儡師の依頼主でもあるという事になる。傀儡師はワーズワースに関係する重要人物の排除、並びに五機精もしくは有機型機晶姫の回収が引き受けた依頼だとも、かつては言っていた。
 この一ヶ月間、やろうと思えばリヴァルトを襲撃させる事も、ガーネットを引き渡す事も出来たはずだ。
 しかし、むしろ司城は二人を守ろうとしていた。
「ならば、その司城とやらの仲間二人のどっちか、あるいは両方が情報を漏らしていたんだろうね。仲間だったら、話くらいは聞いてるでしょ。よし、準備完了」
「では、データをアップします」
 ロザリンドが、まとめたイルミンスールとヒラニプラの遺跡の調査報告書を情報システムにアップする。
「今、オレが入れたのは、アクセスデータ抽出プログラムだ。もちろん、ただのデータ抽出用じゃない。逆探知して、端末そのものを特定出来る。アクセスデータと端末データが一致しなければ、一発で分かる。誤魔化しは一切通用しないさ」
 システム本体に上げられた情報は、アクセス権限がなければ閲覧する事が出来ない。今のところPASDで権限があるのは、司城、ロザリンド、そして学長のアクリト・シーカーの三人であり、情報管理部員と『研究所』の最深部を知る者はリヴァルトを含め、部分的に認められている。その他のPASDの一般メンバーはエミカも含め、公開データベースまでである。
「ついでに過去の閲覧履歴も見てみよう」
 アレンがPASDのデータがある四月からの履歴を抽出する。
「私と司城先生がほとんどですね」
 アクセス場所は情報管理部。他の場所で閲覧した形跡はない。不正アクセスも一切存在しなかった。
「これから食いついてくるのがいるかもしれないけど、おおむね情報は二つのルートで流れていたと考えられる」
「司城先生から傀儡師か、司城先生から芹沢・伊東、そこから傀儡師か、ですね」
 特に、後者であれば司城=ワーズワースはよほどの信頼を置いていたと考えられる。
 そこへ、予期せぬ訪問者が訪れた。
 レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)だ。
「用件を伺って下さい」
 管理部員を通し、訪問の目的を伺う。口頭ではまずい話のようで、手紙を用意しているとの事だった。
 ロザリンドとしては直接会って受け取るのが筋だと考えたが、今はアレンが隣にいる。疑うわけではないが、出来れば目を離したくはない。
 そのため、手紙を受け取るように指示する。
 すぐに、それを受け取った管理部員がやってきて、彼女に手渡した。
「情報提供の件は内密に、との事です」
 万が一にも外へ知られてはまずいという事なのだろう。
 ロザリンドはそれを確認する。

『傀儡師の雇い主と、その仲間が分かった』

 最初にそのような文が目に留まった。そこに書かれていたのは、次のような事柄だ。

・依頼人は男、それもかなりの年配である。リヴァルトの事は知っているようだが、詳しい事は分からない。
・傀儡師の夢幻糸は、光の屈折と糸自体の細さを利用して不可視にしている。
・夢幻糸を操るのは身体に相当な負荷がかかるため、過度な戦い方をすると耐え切れずに自壊する。
・傀儡師に協力している人間について。元々の仲間は、白い髪で紅眼の女、伊東、額に傷のある男、傀儡師の五人。他には、佐伯梓、カデシュ・ラダトス、メニエス・レイン、ミストラル・フォーセット、ロザリアス・レミーナ、ナガンウェルロッド、駿河北斗、クリムリッテ・フォン・ミストリカ、東園寺雄軒、バルト・ロドリクスらが協力している。
・エメラルドの力で蘇った者がいる。だが、その正体は分からない。
・何かを動かそうとしている。そこには魔導力連動システムがある。

 手紙は匿名ではない。情報を信用してもらうために、高崎 悠司と署名があった。
(内部に、潜入したんですか……?)
 それは、実際にその目で見ない事には分からないものだ。
「アレンさん、これを」
 情報屋にも手紙を読ませる。
「……予想はまあ当たったか。伊東が元から黒幕についていたわけだ。それで、司城から情報を聞き出し、流していた」
 要するに、伊東は司城を裏切ったわけではなく、始めからスパイとして取り入っていたのだ。
 その事を、手紙の内容を含めてパラミタ内海のエミカ、歩に伝える。司城特製の高性能通信機を、二人とも持っているはずだ。
 連絡を終え、今度は司城とリヴァルトの家系と経歴についてアレンと調べるとともに、傀儡師に関する情報をさらに追う事にした。

            * * *

 同刻、空京。
『無事、伝わったか?』
 悠司はレティシアに確認を取る。
『本人には会えなかったけど、手紙にして渡しておいたよ』
『そうか、かなり厳重になってるんだな』
『悠司、今大丈夫なの?』
 パートナーからすれば、悠司は敵の本拠地にいるはずであった。
『ちょっとあってな。今、空京にいる』
 いきさつを話し、敵側の動きについてを伝達する。

『傀儡師はクリスタル・フィーアの回収に向かった。で、敵さんは全員で内海の施設に飛んでったぜ』