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リアクション
・ノーツ一族
空京大学図書館。
ジョシュア・グリーン(じょしゅあ・ぐりーん)はずっとここに篭り、調べ物に没頭していた。
『司城・ノーツ予想』という未証明のままになった科学予想。
それを理解できるように、知識を得ようと勉強していたのだ。
『過去、魔法により、自然界のある状態(事象)を変化させていたとしよう。その場合、実際の働きかけを行うのは魔法ではなく、魔力である。本来、事象の変化は一人の人間の働きかけでは起こらない。それは観測者が複数存在し、その中で一部の事象のみが無意識下で共有されているために、共有外の変化は認識されない。しかし、魔力というものが存在するならば、それは事象を変化させうる未知の物質とする事も出来るだろう(中略)この物質の存在が証明されれば、超常現象の類も、全て科学的見地から説明出来るようになるだろう』
(魔力と呼ばれるものが物質ならば、魔法は科学的に説明できる。そうなれば、その『魔力』を科学で応用出来る。そういうことなんだ)
何十冊もの本を読み進めた事で、漠然とではあるが理解出来るようになった。
(それだと、魔法使いの存在を知っただけじゃ証明しなくていいって結論にはならないよね)
魔力は物質である、なんて仮説が証明されてしまっては、数千年と続いてきたヨーロッパの魔法使い達の存在意義が脅かされる事になる。だから研究は中止せざるを得なかったのだ。
もし証明したりすれば、EMUを敵に回さざるをえない。そんな危ない橋を、今のご時世で渡ろうとする者はいない。
(そういえば、ワーズワースの魔導力連動システムや魔力融合型デバイスってのも、科学的なものに魔力を合わせる事で最大限の力を発揮できるようにしているみたい。ワーズワースは魔法を超常的なものじゃなくて、科学の一部だと考えていたのかもしれないな)
そうでなければ、あんな研究の発想すら出てこないだろう。ワーズワースの研究は、それこそ多くの論証によって実現可能かまで検討された上で行われているのだ。
司城がワーズワースだと名乗った事は、まだジョシュアは知らない。だが、それを知れば司城・ノーツ予想との関係にも納得がいくだろう。
(ノーツ博士が主導で、彼の専門から少し外れる部分に関しては司城さんが行ったんだ。この書き方だと、そうやって取れるよ)
文献を調べていくうちに、ノーツは博士と司城の事が分かってくる。
だが、彼には一つ気になる事があった。
(この前の写真、あれもう少し見やすくならないかな)
それは俗に言うネタ本にあった、ノーツ博士と思しき人物の写ったピンボケ写真だ。
彼はその本を持ち、精細に表示してもらうよう頼みに行く。大学の技術によって、ピンボケ写真の本来写さんとした姿がはっきりとした。
(似てるけど、違うね)
ノーツ博士には似ているが、おそらく別人だろう。横顔だという事もあって、似ているように見えているに過ぎない。
よくよく考えれば、死んだ当人と今現在同じ姿だというのは、おかしな話である。十一年の月日が経っているのだから、一切変わらないなんて事はない。ノーツ博士は偉大な科学者ではあったが、人間である事に変わりはないのだから。
そこから、今度はノーツ博士の死亡記事を探し出す。ノーツ一家惨殺事件。
アントウォールト。
リヴァルトの両親であるクラウス、シルヴィア。
そして姉、ヘイゼル。
葬儀は懇意のあった『新世紀の六人』の司城 征と、ジール・ホワイトスノーによって執り行われたとなっている。リヴァルトは二人につき従う形で参列し、ホワイトスノーの手引きでドイツからロシアに渡った。留学生扱いで。
その後、司城によって引き取られ、正式に日本の学生となったという事である。
遺体は埋葬され、墓も彼の母国にちゃんとある。
(『事件の具体的な経緯は不明。目撃者であるはずのリヴァルト・ノーツは、ショックによる記憶障害が見受けられる』か。しかも、遺体はひどい有様だったみたいだ)
一番損傷が激しかったのが、リヴァルトの父、クラウスであり、歯型とDNA鑑定でやっと本人だと確認出来たほどだ。
他は比較的損傷が少なく、原型を留めていたという。その事から、犯人はクラウス氏に恨みを持つ者だと推測されたようだ。
だが、十年以上経った今も、この事件は未解決のままである。
(父親の線はない、かな)
リヴァルトの父もまた、既にこの世の者ではない。そうなると、関係者で一番怪しいのは司城という事になる。
彼が容疑者にならなかったのは、きっと何らかの手段があったのだろうが、ノーツ博士と近しい人間であった司城には、チャンスはいくらでもあったはずだ。
インタビュー記事にあった、ホワイトスノー博士の、二人は同類ではなく『同じ』だと考えると、司城が自らの研究欲のためにノーツ博士を殺したとは考えられる。
だが、それならクラウスの死体の説明がつかない。
どうにも不可解だった。この引っ掛かりが取れれば、おそらく確信に近づける、そんな気はするのに。
(まだこのくらいしか分からないけど、情報管理部に伝えとこう)
自分なりに調べた情報をまとめ、報告をしに行く。