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リアクション
未開の地で、全くに右も左も分からないのに目的だけが明確に存在する、なんて、そんな時、あなたならどうするでしょうか。
あ、いえ、説明が足らなかったですね。『アニメイト秋葉原店』 に辿り着いたものの、各階の案内表示を見ても目的の物が何階のどこに陳列されているのかが分からない、それでも何としても目的の物は手に入れたい。なんて時、そんな時、あなたならどうするでしょうか。
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(えっと… 念のために… 上記の3点リーダはシンキングタイムですよ?)
……………………………………… しつこいですね。
「あの、初心者向けのBL本ってありますか?」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は 『店員さんに訊く』 という方法をとりました。それも見事に乙女系とBL系を取り扱っている階の、しかも女性店員に話しかけたのです。ミラクルですね。
「えっと… 初心者向けと言われましても…」
ごもっとも……… 否! ここで間髪入れずに押し寄せる泡波の如くに作品名を挙げるのが 『メイト魂』 を持つ、真の 『アニメイト店員』 だろ〜〜う!!! といった反論はアニメイト関係者の方からのもののみ受け付けますので、あしからず。
「あの… お相手の方は、どういった感じの……」
勇者でした。店員さんは勇者だったのでした。女性ばかりの階内の客々も呆気に取られている中、果敢にお客様の目的と好みを聞き出そうとしたのです。ただ………… 言い方が悪かった。
「あ、いや、その。自分は恋愛を今までした事が無くて、自分を 『好きだ』 という相手に対してどう返せばいいのか分からないから。だからその参考にと思って」
ハニカミながらに。そう言った彼よりも、店員さんの方がずっと顔を赤くしていた。彼女だけでなく、幾人かの女性客も同じに赤らめていた。ここはBL書籍を扱う階、そこにリアルBLの美少年が現れたのですから、それはもう、ねぇ、当然ですよね。
「あ、あのでは… こちらとコチラトこちらは如何でしょう」
「あ…… これ」
3冊のコミック本を手渡された。並ぶ表紙絵の中に、クナイにそっくりなキャラクターを見つけた。はだけたシャツ姿で 『受けっ子』 の耳元に唇を寄せて笑んでいる。
「ク、クナイは僕にこんなこと……」
こ、告白されたからって、こんな… クナイは、こんなに顔を近づけては来ない… よね。
北都は急に顔を真っ赤にして−−− ビクッと跳ね上げた。胸ポケットで携帯が暴れ出していたようです、それは体もビクッとしますよね。
「もしもし。私です」
「クナっ…… クナイっ?!!」
「何をそんなに焦っているのです? アニメイトには無事到着されたのですか?」
通話のまま。『行儀悪い』 とは思いながらも北都は慌ててレジで精算を済ませた。結局、薦められた3冊全てを購入した。帰ってからゆっくり読もうとは思っても、落ち着いて読める自信は…… 今から既に無理な気がしていた。
「ティセラ様とは合流されたのですか?」
「あ、ちょっと待って」
追い抜き禁止な名物階段を何度か昇降した後に、DVDの販売階で彼女を見つけた。キラキラと瞳を輝かせ、視線が陳列棚を駆け回っていた。
「凄ぃ、凄ぃですわ、私の知っているアニメが全て、これも、これも、これも知っています!」
品揃えの多さに感激していた。彼女が日本のアニメに興味を持ち、観始めたのはごく最近のこと。どうしたって触れるアニメは人気アニメが多く、そんな人気タイトルをアニメイトが品揃えていないはずがない。DVDーBOXだけでなく、単巻も数字が続き並んでいるのだ、ティセラが感激と共に、企業努力の数々に脱帽するのも無理はない事である。
「そういうビッグタイトルも良いけど」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が棚から一つを手にとって、ティセラに見せた。
「あら? これ……」
「気づいた?」
紅葉舞う並木道で5人の女子が振り向いて笑顔を見せている。彼女たちが着ている制服は…… 見たことがあるように思えて−−−
「このアニメの世界観は 『百合園女学院をモデルにした』 と言われてるわ」
「百合園女学院を?」
「そうなの! そうなのそうなのよっ!」
2人の間にズィと割って入りたリュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)が、同タイトルのサードシーズン第1巻をティセラに突きつけた。
「リュシエンヌがオススメするのがコレ! 『百合園女学院をモデルにした』 アニメ、『百合様も見てる』 よっ!」
「百合… 様……?」
「そう! 聖小百合女学園を舞台に、清純高貴な乙女たちが胸元のリボンを奪い合うの!」
「胸元のリボンを?!!」
「数だけじゃないわ! 如何に奪うのか、その方法も重要なポイントになるの!」
「そ、それは、武器の使用は認められているんですの?」
「構わないわ、ただし! 『優雅』 でなくては減点にされてしまうばかりか、2日間 『ハンカチの使用』 を禁止されてしまうの」
「ハンカチを?!! ハンカチが無くては口元も拭けませんわね」
「………………」
好奇と疑いの混眼でDVDを見つめるティセラを見て… 祥子はため息を吐いた。
「冗談みたいだけど、全部本当、なのよね、このアニメ」
「!!! ……本当ですか……? 半分くらいは悪ふざけかと思ってましたのに」
「ティセラ、それはヒドくない?」
「ふふっ、冗談返しですわ」
「だから! 冗談なんて言ってないってばっ!」
華やかなるガールズのテンションに当てられているうちに遅れをとってしまった。この俺にだって 『おすすめDVD』 はあるんだ! とエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は意を決して… 平静を装った。
「『バトルもの』 が、お好きかぃ?」
ふっ、何も言わせはしまいさ。見るがいい!
「熱く燃えるバトルといえば 『ロボットアニメ』 だろ!!」
DVDの山を床に置いた、いや、積んだ。『ドサッ』 ではなく 『がしゃしゃっ』 な擬音に一同は目を丸くした。
「こんなにあるんですの?」
「これでもまだまだ一部だ。ちなみに、この辺が90年代前半、ここが後半で、あっほら、これなんて 『ビックディッパー』 に似てるだろ? これなんて正にパッフェルの 『パワーランチャー』 だ」
「本当ですね。何だか親近感のようなものを感じます」
「だろう? そうだろう? 他にもあるぞ、例えば−−−」
「………… ちょっと…… 床に置くんじゃないわよ」
ティセラを奪われたリュシエンヌが唇を尖らせていた。
「っていうか、そんなに持ってくるなんて非常識でしょ! 見たい棚の前に足を運ぶ、これが基本でしょう!」
「おぉ… いきなりキレるとは。そんなに 『ロボットアニメ』 に驚異を覚えたか? まぁ無理もない。バトルに合体変形、人間の憎しみや多様な愛の形を描いた作品、それが 『ロボットアニメ』 だからな。まさに日本アニメの象徴であり歴史そのもの−−−」
「『百合・見て』 だって! 海よりも深い愛とか、ブレイクダンスよりも激しい嫉妬とかも描いてるもん!」
「『ロボットアニメ』 の神髄、それは! それらの要素と伝統を守りながらも常に作品を進化させ続けているスタッフの誇りと情熱にある!」
「あら、作り手の情熱なら、百合作品も負けてないわよ?」
穏やかな口調ながらも、聞き捨てならぬと祥子はDVDを差し出した。一見すると何の変哲もないDVDに見えるのだが。
「これは?」
「百合アニメよ。それも、同人アニメ」
「同人アニメ?! そんなことが可能なのかっ?!!」
「ねっ? 凄い情熱でしょう?」
情熱? それはもはや執念だろう。作りだって決して悪くない。カバーにはマイクを持った乙女たちがライブをしている様が描かれているのだが…… あれ? この衣装って……。
「あっ、これ!! 『秋葉原四十八星華』 じゃないかっ! きょ、許可は取ってあるのか?!」
「同人だから、ねぇ?」
「くっ…… しかも百合だとぉ……」
「情熱、負けてないでしょ?」
裏面を見ても、その映像に陳腐な匂いを感じることは無かった。恐ろしいほどの情熱を感じる…… これは、認めたくはないが……。
『ロボットがロボットの型で舞い戦う姿が美しいんだから』
パートナーであり、機晶姫であるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)の言葉が、ふと脳裏に浮かんだ。
『アンドロイドとかみたいに人間にしか見えないロボットなんて、ロボットの意味無いじゃない! ロボットがロボットの型で戦う、それがロボットの誇りなんだから』
………… そうだ、俺は負けられない。
パートナーの為にも、全ロボットアニメファンの為にも俺は戦う。作り手の情熱で並ばれたのなら、ファンの情熱を見せつけてやるまで!
あらぬ方向へ盛り上がり始めた 『ティセラへのオススメ合戦』 という戦場へ、決意を新たにエヴァルトが舞い戻った頃、ロートラウトは店外のガードレールに寄りかかっていた。
どれくらい経っただろうかと考えて、空を仰ぎ見た。小さな雲が、ゆっくりとビルに重なり消えていった。
「エヴァルト、忘れてないかな」
自動ドアが開いて、店内から数人が出てくる。チラリと見える店内の通路は、変わらずに狭い幅をしていた。
体の向きを変える度に商品を落としそうで、『少女マンガのアニメ』 はエヴァルトに頼んだのだが…… いつまで経っても出てこない所をみると、また何かに熱中して時間も場所すらも忘れているに違いない。
「はぁ…… 早く戻ってこないかなぁ。面白そうなのに」
振り向いて道の向かいに瞳を向ければ、ちょっとした広場に多勢の人が集まっている。テントや机まで出ていて、人がお金を出して冊子やらを買っているように見えた。
「何かの即売会なのかなぁ?」
真夏の祭典! 国際展示場が情熱に燃え上がる一大イベント!! ……が昨日、3日目を無事に終えていた。即売会に加えて、ライブパフォーマンスやアニメ上映会など、その内容と規模も年々の発展を見せていたようで、本年も大盛況のうちに終幕したようですよ。
しかしそれでもどうしたどうでしょう。皆様はご存じでしょうか、真夏の祭典には 『幻の4日目』 がある事を!
彼らが戻りましたら、一緒に立ち寄ってみましょうか。