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それぞれの里帰り

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それぞれの里帰り

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「アクセサリーにいかがかな?」
 声をかけていたのは武神 雅(たけがみ・みやび)。彼女は銃の形をしたネックレスなどの小物を売っているようで、パッフェルに薦めたのも、その内の一つだった。
「…… これ、可愛い」
 ステンレスで作られたネックレスは、表面が小銃、裏面はイルカに見えるトリックアクセサリーだった。彼女は何度も表裏を交互に見つめるを繰り返していた。
「そんなに気に入ってもらえるとは。少し意外だな」
「…… そう?」
「あぁ。いや、そんなに可愛いものに魅かれるなんて思わなかったから」
「……可愛いものは好き…… 銃も好き。これなら、気分に合わせられる」
 そう言った彼女は、小さく笑ったように見えた。
「そうだ。面白いものがあるぞ」
「…… これは?」
 見た目はただのモデルガンだったが、弾倉部分に携帯電話を収納できる改造ようされたものだった。
「今回は一点しか用意できなかったが、気に入ったなら差し上げよう」
「…… いいの?」
 パッフェルが真剣な目つきと素早い手つきで弾倉部を開閉している様は、まるで武器の手入れをしている様にも見えた。生き生きとした様子を見ると、プレゼントした甲斐があるというものだ。
「ちょっとパッフェル!」
「……? ………… セイ…… ニィ?」
「どうして首を傾げるのよっ! そうよ、あたしよ!!」
 ダボ丈をパタパタさせた娘に怒られた。あ、いや、セイニィなんですけどね。
「………… 可愛い」
「そうじゃなくて! どうしてメイド服のままなのよ!」
 2人が再会した事で、彼女たちに帯同していた生徒たちも無事に合流を果たしていた。カメラ小僧たちではないが、みな、セイニィの学ラン姿に喰いつき、頭を撫でたりクルクル回転させたり、キャッキャッしていた。
「居たぞ。パッフェルとセイニィだ」
「どこ? どこです?」
 声を弾ませるティセラに、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は細めた視線で指した。
「あの騒がしいヤツだ」
「……………… なるほど」
 目立っていた、それはもう大いに目立ち散らしていた。変なサークルよりも人も集まっているし、テンションの高さも抜群だった。
 カジ服のティセラが合流したら大変なテンションになりそうだな、と思いながら恭司は彼女の背を見送った。辺りを見回せば、携帯を手に、高速で指を動かす者や隠れるように通話する者が見えた。怪しげな動きをする者が出る前に牽制しておこう、と思ったのだが……。
「ふっふっふっ、間に合ったようだな」
 怪しげなオーラを纏いし波羅蜜多ツナギ男がパッフェルの前で跪いていた。
「この暑さだ。蒸れ蒸れだろう?」
「…… ムレムレ?」
「あぁ。しかし、もう安心だ。ギンギンに冷えているからな」
 自ら包みを解いて差し出したのは 『冷やし縞パン』 と称されたパンツだった。ひんやり冷たい履き心地が自慢だという。
「本当はセイニィにも履いて欲しいんだがな、居ないんじゃ仕方がない」
「居るでしょ! あたし、ここに居るでしょ!!」
「おぉ! ちんまりブカブカ学ランで登場とは。安心したまえ、君の分も用意してある」
「ちんまりって言うな! ていうか欲しいなんて言ってないでしょ!!」
「遠慮は要らんぞ。 被るも良し! おでこに当てるも良し! この場で履き変えたなら尚のこと良−−−」
 ペーィッ。 『冷やし縞パン』 は宙を舞いましたとさ。掴み投げ捨てたのはティセラだった。
「下品な事は、その位になさい」
「ティセラ?!」
「まぁ! セイニィ、とっても似合ってるわよ」
「ティセラこそ。ジーンズなんて」
「…… 可愛い」
 きゃっきゃきゃっきゃが再びに、ティセラが加わって再燃した。笑っていられなかったのは恭司戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)であった。
「これは……」
「えぇ。いよいよもってマズイですね」
 即売会の会場ならば、周囲の視線は各ブースに向くだろうとの算段で集合場所にしたのだが。あれだけ騒いで注目を集めていては、せっかくまいたカメラ小僧たちが集まってくるのも当然だろう。
 ナメていた訳ではない、ただ、あっという間だった。衣装チェンジを果たしていたティセラにもセイニィにもカメラが向いている、囲まれている!! ただでさえ人で溢れている会場内だけに、すぐに身動きが取れなくなってしまった。
「今一度、退散した方が良さそうですね」
「えぇー、またぁ?!」
 ムクレるセイニィの手を取って、小次郎は駆けだした。
「パッフェル殿、ダメですよ」
 購入した物だろうか。エアガンを握りしめるパッフェルに釘を刺しておいた。
 実際、再びに逃げると言っても同じ事の繰り返しになる可能性はある。みんなの買い物が済んでいる以上、このまま駅に向かって帰った方が騒ぎも小さくて済むのではーーー
「みんな! こっちだ!!」
 緋山 政敏(ひやま・まさとし)が手を挙げて先導先頭を示した。
「秋葉原散策は、まだ終わらないぜ!!」
 迷いのない先導を、みなで追っていった。
 駆け向かう先は 『イベント大好き!』 で、オンラインゲーム 『蒼空のフロンティア』 を手掛けている会社のビル。
 そのビルの名を 『フロンティアビル秋葉原本社』 という。



 時は幾らかに遡る。
「あの〜、すみません」
 秋葉原駅から、さほど離れていないビルの中。緋山 政敏(ひやま・まさとし)は、エレベーターを降りてすぐの扉を開いた。
「ちょっとお願いしたいことが…… って、あれ?」
 先客が居た。
 秋葉原四十八星華のメンバーである白砂 司(しらすな・つかさ)サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が、『蒼空のフロンティア』 の運営役員の一人、栗たんこと栗田氏と向き合っていた。
 共に眉を寄せ合い、低い声が交わされている。資料から目を上げて、が切り出した。
「では、『キャラクエ』 の3D化については」
「もちろん、参考にしましょう」
「その際には、エンカウント方式の導入も」
「えぇえぇ、参考にしましょう」
「それから、アイテムの擬人化についてですが」
「擬人化? あぁ、アイテムへのキャラクター登録ですか。えぇえぇ、こちらは検討中です」
「本当ですか? 是非とも前向きに検討して頂きたいですね」 
「それはまだ何とも。報告できる段階になれば、すぐにお知らせ致します」
「そんなのは、どぉ〜でも良いのよっ!!」
「えぇっ!!」
 バシッと立ち上がったサクラコは、バシッと言った。
「秋葉原四十八星華の独立ユニットの件! 忘れてない?!」
「そんな、忘れるなんて事は決して… その、ただいま検討中ですので」
「本当に?! じゃあアレは? 私の 『抱き枕』 は完成したの?」
「えっ、あ、いや、あれはまだ…」
「何やってるのよー! オリジナルグッズの作成はだいぶ前にお願いしてあったでしょう?!」
「いや、しかし 『抱き枕』 は、ちょっと…」
「良いのよ! とにかくもう、私に注目が集まれば良いのよ! 私はチヤホヤされたいのよっ!」
「…サクラコ、少し黙ってろ」
 さすがに止めた。が止めに入った。身を削る覚悟は見上げたものだが、安売りは身を滅ぼしかねない。
「あの、白熱してる所わるいんだけど…」
 政敏が切り出した。まぁ、だいぶ待ちましたよね。
「ビルの屋上を貸して欲しいんだ。花火をしてやりたくて」
「花火?」
「あぁ。あ、いや、仲間たちと秋葉原に遊びに来たんだけど、秋葉原が初めてだって奴も居てさ。そいつ等に作ってやりたいんだ、アキバの思い出をさ」
 サクラコに圧倒されて涙目になっていた栗たんだったが、政敏の話を聞いて今度はボロボロと涙を流し始めた。
「そうか、仲間の為に、うぅっ、パーツ屋の親父さんの所にまで足を運んで、くぅっ、熱い! 熱いですねっ!」
 何か、えらい感動されてる。というか、親父さんの事は、まだ言ってないよな… なぜ……?
「その熱さ、好きですよ! 熱いハートに涙で打ち水をっ!! 良いでしょう! うちの屋上! 是非! 使って下さい!!」
「本当ですか?! ありがとうございます!!」