リアクション
● ネット配信の力をみくびるなかれ。誹謗中傷もさることながら、環菜様のお怒りまでもが勢い任せに広がっていくのである。そして、そんな環菜様の言葉に突き動かされた連中から逃げるのは、ムアンランドのオーナー、夢安京太郎であった。 「はぁ、はぁ……くそっ、なんだっつーんだよ、これ」 「は……はぁ……こりゃあ、身がもたないってもんだねぇ」 「で、でも、なんとか撒いたわね」 いつの間にか一緒に逃げていた美羽と一緒に、夢安たちは出店の裏側へと逃げ込んでいた。そもそもがオーナーである。文句を言われる筋合いはない。 「すみませーん、くーださーいなー」 「おっと、客だな」 金銭本能だろうか。客の声が聞こえると、夢安は無意識の内に立ち上がって巨大豆を取り出した。これだけ大きな豆を買いに来る珍しい客と相対する夢安。 すると、ふいに目を放した隙に、目の前の青年の目がギラリと光った。 「ダアァーイ!」 瞬間――奇妙な気合とともに青年の拳が夢安の懐を狙う。しかし、飛び込んできた拳に夢安が気づくと同時に、それは寸前で止まった。 「おっほ、ほれいひょうはひゃらせねぇよ」 「…………っ!」 口に豆でできた串焼きを咥えながら、トライブは青年の拳を受け止めていた。それまできっとこの辺で食べ歩きをしていたのであろうことは、一目瞭然である。 「おまえ、用心棒の仕事ちゃんとしろよ……」 「わかってねぇなぁ、京太郎。こちとら自由家業よ。代金後払いな分、自分も楽しまなきゃ……なっ!」 夢安に声を返す勢いで、トライブは青年を弾き飛ばした。弾き飛ばされた青年――エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、怒りに満ちた目でトライブを睨みつける。 「きさまああぁ、邪魔をするなぁ!」 「おいおい、なんだこの般若野郎は」 「こっちはそいつのせいで、装甲張り替えだけならまだしも、消耗品まで全とっかえすることになったのだ……! いっぺん殴らんと気がすまーん!」 殴りかかってきたエヴァルトに、トライブが対抗する。お互いの拳が幾度もぶつかり合うも、それが致命的なところまで届くことはなく……。 「んじゃ、あとはよろしく」 トライブを残して逃げた夢安を見て―― 「あ、こらまてこのカーネ野郎! ロートラウト、追え!」 「捕まえてボコボコにするの? まっかせて! ボクの友達を経済的に苦しめた原因だっていうなら、手伝うよ!」 実のところエヴァルトの言っていた装甲費云々が自分のせいだとは気づいていないロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は、エヴァルトの指示に従って夢安を追っていった。続けて、エヴァルトはトライブの拳をかわしてそのままロートラウトを追う。そして、 「あ、やべ……京太郎が捕まったらどうしようもねぇな……」 事の重大さに気づいた用心棒は、先回りするために別の道を走り出した。 ● 葉っぱを跳躍しながら登ってくるのは、一つの影であった。とはいえ―― 「……そんなに嬉しいか?」 「うん、嬉しい」 影は二つ重なっており、はっきりとすればそれが少女をお姫さま抱っこで抱えている若者だと知れる。樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)。それが二人の名だった。 「あ、あれ、京太郎かな?」 「……ぽいな。ったく、またなにか迷惑起こしてやがる」 遊園地を見上げられるぐらいの位置に辿り着く頃には、騒がしい音と姿を遠目で確認することができた。 ● |
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