リアクション
● 「誰かが正義を呼んでいる! 通りすがりの正義の味方バニー☆スリーが悪者さんにおしおきよ!」 ジャジャーン! 「どんどんパフパフー♪」 ところ変わって遊園地の中心部では、まるでヒーローショーよろしくばりに名乗り口上をあげた霧島 春美(きりしま・はるみ)がいた。彼女の横の一見すればペットのように見えるディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)は楽しそうに効果音を口にしているが、後ろのカリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす)はくたびれた様子で簡易SEを鳴らしていた。 「もう……ほ、ほんまボク疲れたわ……」 「まったく、お兄ちゃんはだらしないわね。ちょーっと走っただけなのに」 「あ、あないトラップだらけやと……誰でもこうなるわ」 「……?」 春美は気づいていないようであるが、カリギュラの身体はもうボロボロである。HPにすれば残り10を切るところだ。なにせ、トラップなどお構いなしに突撃するこの無茶苦茶な妹たちを守るため、兄ちゃんは必死だったのだ。 ドカーン! アーレー。 チュドーン! グシャッ! 誰が仕掛けたか知らないが、踏み込むと同時に巨大豆が襲ってくるのは勘弁願いたい。 「ご苦労様、兄貴。ふふふ……さて、じゃあさっそく夢安を捕まえる準備しないとね」 「とりあえず、トリモチおいとこうよー、トリモチ。夢安ホイホイの完成♪ 真ん中にアイスティとケーキと……きっと疲れて喉かわいてるからひっかかっちゃうよ、あの人」 くすくすと笑うピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)とディオネアと。カリギュラは顔しか知らないまでも、夢安を妙にかわいそうだと思った。 「あ、キタキタ!」 夢安の影を発見すると、春美たちはとっさに隠れた。どうやらやってくるのは夢安一人だけではないらしく。 「どこに行ってたと思ったら、罠なんて仕掛けてたのか」 「そっ。だから追っ手はある程度撒けたでしょ? 感謝してほしいわね」 カリギュラが見事に引っかかったトラップの元凶――羽瀬川まゆりは自慢げに胸を張った。うーん、見事な胸のハリ。夢安は一瞬その色気に誘われながらも、ぶんと首を振って話を戻す。 「んで、どんな罠を?」 「落石ならぬ落豆トラップ! 恐怖! あみだくじエレベータートラップ! 蔓が吊るし上げるつるつるトラップ! などなど」 「……ちょっと待て。あみだくじ? お前、エレベーターにそんなのつけたのかっ!」 「悪い?」 「客も一緒に登ってこれなくなるだろ!」 「あ……」 まゆりも夢安の心配に気づいたようで、彼女は誤魔化すように笑った。 「あ、あはは、まあいいじゃない? どうせすぐに壊れるようなトラップだし、お客にまで被害出ないって」 「あのなぁ……」 夢安は呆れたように声を漏らした。 ふと、そんなとき彼は鼻に漂う甘い匂いに気づく。これでも犬に負けないぐらいの嗅覚は自負しているつもりだ。 「おおっ! あれは……!」 いかにも――というべきか。ご自由にお飲み下さいと書かれてあるフリップとアイスティにケーキ。誘い込もうとしか思えないその罠を見て、まゆりは顔をしかめた。 「ったく、あんな馬鹿げた罠に引っかかる馬鹿がどこにいるかっての、ねぇ……あれ?」 それまで側にいたはずの夢安の姿が見えず、嫌な予感に向き直ると、 「がつがつむしゃむしゃちゅーちゅー……ぐわっ、なんだこれ! ぬあああぁ、はずれねぇ」 「……あの馬鹿」 飲み物とケーキに食いついた夢安は、見事にトリモチに引っかかっていた。疲労した体では、考える頭もなかったというところか。いや、むしろ最初から馬鹿か。 「引っかかったわね、夢安京太郎! さあ、観念してお縄につきなさい!」 しかも今度は白スーツにゴーグル姿でうさぎ耳をぴょこぴょこと動かす少女が出てくるではないか。なんだこの寸劇は。 いずれにしても夢安は助けないといけない。まゆりが彼のもとへと駆け寄ろうとしたとき、それを追い抜いて小さな影が夢安へと張り付いていたトリモチを切り裂いた。 「だ、だれ……っ!」 「あれは……」 人知れず彼を見守っていた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が飛び出してきたのだ。これまでどこにいたのかと思っていたら、こんなところで出てくるとは。 「……仕事じゃ。悪く思うな」 幼い少女の外見をしながらも、まるで刃物のように研ぎ澄まされた瞳をした刹那が春美たちを見据える。服の袖と裾に手足を隠されたその容姿は、きっと黙っていれば人形のようにも思えるはずだ。 しかし……いまは夢安を守る用心棒の一人である。 「うぬぬぬ……悪人の味方をするなんて、バニー☆スリーが許さないわ! ピクブラック! ディオイエロー! いくわよ!」 「ファンタスティックビューティー、ピクブラック!」 「食いしん坊なニクい奴、ディオイエロー!」 色気のあるポーズからイエローの愛くるしいポーズまで、三人が集合する。 「えっと、すんません、とおります」 まゆりの前を過ぎて定位置に着いたカリギュラは、運んできたBGMのCDをプレーヤーに差し込んで音楽を鳴らした。第14話「謎の敵現る!? バニー☆スリーピンチ!」の回であった。 「えーと……とりあえず、刹那ちゃんがんばれー」 その場のノリに身を任せることにしたまゆりの声が、僅かに響いた。 ● |
||