リアクション
ラボNo1に残ったフューラーは液体化したアルジーから水を取り出そうと、貴瀬と瀬伊に手伝ってもらいながら作業している。
「丸底のフラスコに入れたこれを、マントルヒーターの上に置いてください」
「後はクランプ止めしておけばいいか。さて…100度くらいになるまで待たないとね」
貴瀬はセットを終えると温度の計測を始める。
スイッチを入れた数秒後…。
シュ〜、シュゥウ〜と湯気が立ち、ガラス管を通り水の成分だけ別のフラスコへ抜け出る。
「少しずつだけど…思ったより早く水分が蒸発し始めているよ」
「うーむ、130度まで上がったぞ。むっ、250度だと?かなりハイスピードで温度が上がっているのだが、貴瀬…止めるか?」
「アルジーの影響かもな、念のため止めくれ。熱量として消費されると困るからな。冷えたらまた水のみを気化させよう」
フラスコにセットした温度計を見ながら、温度が下がるのを待つ。
瀬伊がマントルヒーターのスイッチを止めたとたん、急激に温度が下がっていく。
「気泡の動きが鈍くなっていってない?」
「温度が下がった影響かもしれないぞ」
2人が透明なガラスの中にあるエネルギーの液を眺めていると、ぷくぷくと音を立てることもなく静まった。
「もう一種類の方の抽出終わったよ。そっちはどう?」
アルジーが自生している洞窟の中で、そんなに進まないうちに発見した藻の方を抽出を終えたアゾートたちは、貴瀬たちが蒸留を行っている様子を見に来た。
「冷ましながら水のみ気化させている感じかな」
「―…冷えると気泡はただ浮いてるだけに見えるね?」
「さっき熱していた時は、活発的に動いていたんだけどさ…」
「きっと熱として消費されようとしていたのかもね。何度で止めたのかな?」
「瀬伊に見てもらっていたが…確か250度だったよ」
確認するように貴瀬は瀬伊に視線を移すと、彼は黙ったままこくりと頷いた。
「本当は暖房をつけた部屋にでも置いておけばいんだろうけど。それじゃ時間がかかりそうだし」
「200度以下の温度をキープするといいかもね。藻の状態じゃないから、熱を吸収しやすくなってるはずだし。高温すぎると、抽出した分も消費されちゃうかもしれないよ」
「うん、そうするよ。蒸留はこっちでやるから、抽出だけやってもらえる?」
「そうだね、役割分担した方が早いかも」
「まぁー…数日は確実にかかるよね。でも焦っちゃうとろくなことないし。じっくり作業するよ。―…うーん、まだ混ざった水が残ってるね」
アゾートからパソコンへ視線を移すと貴瀬は、水成分の量を計測する。
ビリジアン・アルジーのエネルギー抽出作業を始めてから終日後…。
ラボNo3に集まった生徒たちは、洞窟の近場と奥で採取した藻の熱量と魔力を調べる。
いきなりアダマンタイトで試すより、手近な物で実験しようと、まずは鉄が溶ける早さを計測する。
「どっちもトロトロした感じの液だね…」
シリンダーの中の液をスポイトでちょこっと取り、アゾートが鉄にポトンと垂らす。
「魔法を使わないで、マッチの火をつけてみよう」
「火傷したら危ないから、オレやるよアゾートのお嬢ちゃん」
フィリップは彼女の手からマッチを取り、シュボッと火をつけて液を垂らしたところへ置くと…。
「量が少ないせいか?ロウソクに灯った火のような燃え方だが、炎の色は薄暗い青緑色をしているな。あっ、もう消えてしまったぞ」
解けた部分は赤々とした色のまま、鉄の下に敷いているトレイの上にドロリとこぼれた。
「液をつけた箇所だけ、穴が開いたね」
アゾートがちまっと空いた小さな穴を覗き込むと彼の目だけが見えた。
「消えるまでと、穴が空くまでの時間って。何秒くらいだった?」
「穴が開き始めたのは2秒くらいで、消えたのはだいたい10秒かな」
ストップウォッチで計っていた貴瀬は、パソコンに記録してアゾートたちに見せる。
「今のは近場で採ったやつね。熱量と魔力の数値も入れておいて」
「うん…えーっと。わぁっ、凄いよ!1535度以上ある!!魔力も相当あるね」
「見た感じは激しく燃えたりしてないのに不思議だね」
「アダマンタイトを溶かす時は、もっと凄いのかな。純粋な鉄で試しただけだし!」
そのデータにアゾートは満足そうにうきうきしながら、奥地で採ったアルジーを試してみる。
「むー…うまくマッチの火がつけられないよ」
「アゾート先生、ヨウエンがやってあげます」
夢中になるあまり液の近くまで指をつけそうで心配になり、代わりに火をつけてあげる。
「さっきよりも、少し燃え方が強いですね。色は鮮やかな感じがします」
「鉄に穴が空くまで0.2秒だね。熱量も奥地で採った方は、数倍あるよ」
まだ鉄を溶かし続けている様子を眺め、貴瀬がパソコンに記録する。
「魔力も桁違いだし」
「うん、素晴らしい結果だね!」
賢者の石の材料になるとしたら、どんな役割をしてくれるのかな…と思いつつ、アゾートはノートに数値を書き写す。
「エース君もちゃんとメモしてる?」
「ハイペースで進んでるわけじゃないから、全部記録してるぜ。やっぱり研究は資料だけで見るより、実際に見たほうが楽しいよな」
メシエにレポート用紙に書いたメモを見せてやり、実験の様子を観察する。
「アダマンタイトを溶かす時は、普通に火をつけるだけじゃ無理かもね。使えそうな道具を用意してきたから、それで試してみよう」
「普通の火では無理ということですか。火術などの魔法が、また必要になったりします?」
「うん、魔法や火力調節の知識とかもいるけど。それに魔列車を修理するための金属として、溶かすなら…。ボクが持ってきたやつを使ったほうがいいかも」
遙遠の質問にアゾートは小さな炉の容をした道具を見せる。
「使い方はエリザベートがネット電話を使って教えてくれるよ。列車はヴァイシャリーの駅の予定地近くで修理するわけだから。あまり長く学校を離れるわけにいかないと思うし…。わかりにくいところがあれば、ボクも教えるから大丈夫だよ」
「その時はお願いしますね」
「溶かすだけじゃなくって、修理する時は機械に詳しい人に担当してもらおうかな」
「っていうと…アダマンタイトの加工に必要な魔法的技術と、列車の修繕は別々の人でも大丈夫ってことですか?両方の知識がないといけない、ってことはないですよね」
「そうなるかな?とりあえず計測したデータをヒューラーにまとめてもらってから。その後で、もう一度皆に説明するよ」
「ん、資料を作るの?俺たちも手伝おうよ。瀬伊は鉄が溶けた時の秒数とか、火が消えるまでの時間と…。あ、それと魔力の値もね」
貴瀬たちはフューラーの傍で項目ごとにまとめる。
「あぁ、それだけでいいのか?」
「他にも頼んじゃうかもしれないけどね」
「私が抽出した熱量と同じなのね?一応、送っておいたわよ」
モニターをひょこっと覗き込み、サンドラが液体化させたアルジーのデータを、貴瀬のパソコンへ転送する。
「ありがとう。えっと、これかな」
「うん、送ったばかりだからそれね」
「これは奥地で採ったやつかな」
「たぶんそうだったはずよ」
「こっちで抽出出来た分と同じ感じだよ。方法は違うけど、取れれば同じなのかな?フューラーさんの方にも送るね」
計測結果を彼にもメール転送する。
「だいたい同じ数値ですね。使ってみても実験結果が出ると思いますよ。エネルギー元以外を取り除くの大変だったでしょう?ごくろうさまです」
「そうね…。少し疲れちゃったかな。他の部屋で少し休ませてもらうわ」
「はい!またお願いしますね。ふぅ…抽出方法を立体図と平面図に、やっとまとめ終わりました。そちらはどうですか?」
「画像の取り込み終わったし。項目ごとに分けて検索出来るようにしておいたから。誰でも見れるよ。ふぅ〜…俺も休もうっと」
貴瀬はぐーっとのびのびと背伸びし、パソコンの電源を落とした。
数日間も徹夜した生徒たちは休憩室で、泥のように眠り…仮眠する。
そんな彼らを、部屋の片隅の監視カメラや、設置されているパソコンに内蔵されているカメラを通して見ている少女がいた。
しばらく前からめまぐるしいデータの嵐がヒパティアを通過し続けている。自閉していた間とは比べものにならない濃度のきらめきを放ち、否応なく彼女を引き寄せて止まないものたちだ。
皆ごろごろと転がっているが、彼女の兄だけは眠い目をこすりつつ、まだデータのまとめのため起きていた。
久方ぶりに見るその姿は彼女を揺さぶってやまない。兄は彼女にとって、外界の象徴でもあるからだ。
それは人であるならばまさに『胸を焦がすような』衝動をもって、『知る』という本能に従えと、耳をふさぐ彼女に諦めを強いるのだから。
遅刻申し訳ありません、比良沙衛です。
次回は非常に重労働の予感です。
按条境一マスターと8月13〜16日にかけて共著いたしました。P16〜18の部分になります
【進行度合い】
機晶石発掘・完了
アルジー採取・完了
エネルギー抽出・完了
【次回の進行】
ヒラニプラからヴァイシャリーへのレール敷設(イコン使用)
ヴァイシャリー駅建設(基礎工事のみイコン使用)
列車内の掃除
それでは、宜しければ次回もよろしくお願い致します。
8/17:タグのリンクミスなどの修正を致しました。