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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

リアクション

『すみませんが、撮影させていただきますよ』
『ええ、邪魔はしませんから』
 樹月 刀真(きづき・とうま)はデジタルビデオカメラのモニターを覗き込み、自分が最初に声だけで相手に許可を取っている画像が映っている。一瞬間違って音声だけかとひやりとしたが、ごとごとと音が響いてきちんと映像が現れ、胸を撫で下ろした。一連の、裏コード【凸列車でいこう!】の最初の仕事がつまずかずにいてよかった。
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はその横で銃型HCのオートマッピング機能で書き出しておいた地図を照らし合わせて、インタビューをとった人々の流れを記録する。
 記憶術で流れのチャートを書いて、レポートの下書きの下書きに手を付け始めている。撮影した写真も並べて分類し、すでに写真集が出来上がりそうな分量だ。
『危ない…!』
 不意に自分の声が響いて、月夜はびくっとした。洞窟の中で契約者たちがサラマンダーや機晶姫の対処をする場面もしっかり収めているため、自分たちもその余波を食らって何度か武器を取っている。
「後でちゃんと加工しますよ」
「う…うん刀真、お願い…」
 彼女は予想外の所で聞いてしまった自分の悲鳴が照れ臭かったのだ。あわてて下書きに戻り、刀真はムービーチェックの続きに戻った。
 【御神楽環菜鉄道記】の作成はまだ始まったばかりだ。

 ―ここに、御神楽環菜が想い描く鉄道計画の一端が着手された。
「うん、ナレーションはこう言う感じで、通しでムービー作ってから改めて合わせよう」
「じゃあ、もう一度最初から流してチェックしましょう」
 二人してモニターをのぞき込み、今までのインタビューを一から見直していく。

『パラミタ横断鉄道とは、デコ校ちょ…いや、校長じゃないカンナも面白いことを考えるのだなあと…』
 だから少し手伝いをしたいのだと閃崎静麻はマイクに答えた。
『今から俺達が機晶石を採掘しに行く洞窟には、ガーディアンとして立ちはだかる敵性の機晶姫がいる』
 クローワイヤーを点検して肩に担ぎながら、これから向かう先には危険が待つのだと伝える。
『最初からスムーズに行くはずはないし、資源のある場所にはかわいそうな機晶姫がいることが多いからね』
 朝野未沙が、できれば戦いたくない、傷つけたくはないとその思いをささやいた。
『私たちは盗掘者とはなりたくない。鉄道計画の一端にそのような汚点はよろしくない』
 コア・ハーティオンはそのように胸をはった。
 次のシーンは静麻が洞窟の前で声をはりあげていた。
『皆、すまんがガーディアンとまず話がしたい、話をつけて穏便に…』
 その脇を一足早く未沙とハーティオンが進んでいく。

『鉄道計画! その障害は排除するぞ!』
 拳をにぎって健闘勇刃は意気込んだ、鉄道計画というよりも戦いのほうに比重が大きな覇気だった。
 宇都宮祥子は己の魔鎧との会話をとめ、マイクへ顔を向けた。
『汽車の道、いいわよねえ。私は日本人だからかとてもノスタルジックなものを感じるわね。
 あ、環菜様に「鉄道王を目指すって、どんな心境の変化か?」ってインタビューしといてくれない?ちゃんと聞き損ねたの。
 どうせならそういう大事なところ、ちゃんとドキュメンタリーで残しときましょうよ』

『ヴァイシャリーまで鉄道が通るって、とっても楽しみ!』
 桜月綾乃がカメラに向かって乗り出すようにそのわくわくを伝えた、マイクが少し音割れしたので、もう一度撮りなおさせてもらっていた。
 桜月舞香はそんなパートナーを嬉しそうに見守っている。
『綾乃がこんなに鉄道が好きなんてね。もちろん完成に向けて存分に協力させてもらうわ』
 きっと綾乃はとっても喜ぶでしょう。その様を想像して舞香は頬をほころばせ、その微笑みはビデオカメラに収められる。

『…れ、中のマッピングデータです』
 インタビューではなく、個人的な和泉北都とのやりとりの途中からシーンは始まっていた、ここはカットするべきなのかもしれないが、刀真はインタビューばかりではない生きた行動をもおさめるべきだと考えた。多少画像が足りないのだけは惜しいが。
『洞窟内マップはまだこれで全部ではないけど、ベースにはなるかなあ』
『後で俺達も中に入る予定だから、使わせてもらうよ』
『くあああああぁ…』
 その後方では白銀昶が狭苦しい洞窟からようやく解放されて、思い切りのびをしていた。
『あ、何見てんの?』
 こちらを見るカメラの存在に気がついていぶかしげに顔をしかめる。
『大きなプロジェクトになりそうだからね、ドキュメンタリー用のインタビューなんだって』
『なら、かっこよく撮ってくれ』
 パートナーの言葉にポーズをとりつつ悪ノリをはじめた昶をたしなめ、カメラにむかって北都は唇をひらいた。
『僕達は、機晶石が正しく鉄道計画のために使われるように見守っていきたいね。きっとみんなが一丸になって初めて成功するんだろうね』
 それくらい大きなものになるだろう。そういう夢を、すべての人は既に見ているのではあるまいか。

『僕、がっつがっつ機晶石掘りますさかい、後でだれかねぎらってーな』
 大久保泰輔がカメラにむかってよくわからないアピールを繰り返していた。これから洞窟へ向かうというのだが、すでに獲得すべき獲物の算段があるらしかった。ビデオチェックしているこの現時点では既に機晶石の採掘は終わっていて、彼がどれだけ貢献したかどうかは、残念ながらここでは定かではない。
『あとちょっと考えたネタがあるんやけどな…』
 しかしそこで映像が途切れた。月夜があっと声をあげる。
「あ、思い出した。漫才やるのかと思って切り上げちゃったんだ」
「…一応ドキュメンタリーだから、みんなの普段の様子も撮るべきでしたね」
「やっぱ撮らなきゃだめかあ…」

『ああ…行っちゃった…』
 月夜のつぶやきがビデオに収まっている。
「このとき、声をかけたらさっさと行っちゃって、結局インタビューできなかったんだよねえ」
 立ち去る和泉絵梨菜にフォーカスが当たっている、遠くでかすかに『めんどくせえ』という声がはいっているので、纏っていた魔鎧に叱責でもされたのだろうか、それは彼女らにはわからない。しかしいつかまた改めて話が聞ける日がくるだろう。鉄道計画はこれで終わりではない。

『…! ……』
 どこかに電話をかけているザカコ・グーメルの姿を少し遠くからパンしておさめ、会話が終わったのを見計らってインタビューに向かう。
『今、機晶姫のことについて報告を入れていたんです』
 洞窟へ向かいかけた足を止めて、インタビューに応じてくれる。彼女らを救うのは、望み薄そうですと残念がっている。
『でも、パラミタを又にかける鉄道とは、これはまたフロンティアのある話ですよね。だから、仕方のないことなんでしょうねえ』
 その諦念が枷になるか、それでもはねつけたいと思うかは、残念ながらすべての人が一致を見ることはないのだろう。

 カメラは洞窟を、須藤雷華のヘキサポッドウォーカーについて進んでいく。幸い機晶姫にはぶつからないが、何よりも変化する天井の高さに苦心していた。
『…ここから先はさらに天井が低くなってるわ、ここに停めておきましょう』
 パートナーと共に飛び降りて、その奥に足を向ける。マップと時折入る報告によれば、そこは現在最もホットな採掘場所である。
『うおおおおおおお! みなぎってきたぜえええええええ!!』
 内部からは木崎光の絶叫が響き渡り、ややあって明かりのかすかな光を反射して、機晶石のきらめきがあちらこちらから現れ始める。

 機晶石を詰めた袋を担ぎ、天城一輝はパートナーに話しかけているところだ。
『…これ、何処に運べばいいんだ?』
『では、環菜様に聞いてみましょうか』
 その間に彼はトラックに石の袋を乗せている、再び石を取りに戻ろうとするところをカメラが追いついた。
『魔列車の燃料になる機晶石は重要だからな、いくらでも運ぶぜ』
 精悍な表情がふと上を向き、鉄道が延びるヴァイシャリーの方向へと向いている。

 洞窟の外では、トラックのほか、何対かのイコンが待機している。
 待機姿勢のクェイルに近寄り、インタビューを試みるが、降りてくる気がないのか、不可能なのかのどちらかでコクピットは開けられないままだったが、そのクェイルに搭乗したままのハイラル・ヘイルの磊落な声が、スピーカーを通してインタビュアーをねぎらった。ローアングルから収められたクェイルの影のコントラストがまぶしくなった。
『おまえら、鉄道計画のドキュメンタリーを撮ってるんだろ? ちょっと今降りられないが、オレ達は採取現場周辺の警戒、荷の護衛中だ、お互いに健闘を祈る!』
 ハンドサインが激励をあらわし、カメラは次のイコンを視界に納める。
 機晶石が次々運び出されていく様子を、カスタムされたイーグリット・アサルトの手のひらの上から、グラキエス・エンドロアとベルテハイト・ブルートシュタインが眺めているところが写っていた。
 そこで視界は他へと移り、月夜が不思議に思う。
「刀真、さっきのいちゃいちゃしてる人たちは? まあ想像はつくけど…」
「ああ、ここは邪魔するべきではないと思って…」
「一応ドキュメンタリーでしょう?」
 月夜に怠慢を軽くなじられて、さすがに言葉もない刀真だった。

 目の前でキラーラビットが機晶石を満載して走り出すシーンが写っていた。
「これは残念ながらインタビューに間に合いませんでしたね、」
 ヴァイシャリーの方へ向け、大型のボディを推し進める、重量のある音が次第に遠ざかる。
 カメラを振って、次はコンテナに機晶石を搭載しているクェイルをとらえた。
 叶白竜は足元のインタビュアーに気き、クェイルのコクピットを開けて敬礼した。
『鉄道については、多角的な利用手段を念頭におき、情報科としても参加する意義を見出した』
 堅苦しい答えが返るが、世羅儀は横からこっそりとカメラにくちばしをはさんだ。
『とかっつって、実はなんだかこいつそわそわしてるみたいなんだぜ、建前はああだけどさ』

 何人か入れ違いでインタビューをし損ねたものの、機晶石周辺の撮影はここで終っている。
 その次はビリジアン・アルジーのある洞窟周辺から始まった。