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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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「うっりゃー!」
 サラマンダーとの戦いに、万を辞して緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が飛び込んで来た。
「炎勝負だよ、相手に不足はないもんね!」
「お、おい…!」
 炎の闘気をほとばしらせる烈火の戦気を左手に纏って、火属性のサラマンダーにあえて火をぶつけようとする透乃に周りから声が上がった。
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はそれに頭を下げる。
「申し訳ありません、今少しだけ透乃ちゃんのやりたいように願えますか?」
 尾にはティアンの剣が刺さったままだ、そこに向かって攻撃が飛ぶ、玄秀の氷術が剣を凍りつかせ、尾の内部にまで及ぶ。
 これにはさしものサラマンダーもただではすまなかった、尻尾を自切して悲鳴をあげ、その隙に透乃の拳が嵐のように襲い掛かった。陽子のアボミネーションが追い討ちをかける。
 人がどんどん増え、次第にサラマンダーは追い詰められており、この怒涛のラッシュがとどめとなった。
 とうとうサラマンダーはひっくり返り、泡を食って逃げ出した。巨体の影に隠れた洞窟の分岐に頭を突っ込み、積み上がっていた岩を跳ねあげて、皆が飛んでくる礫から身を守る間にその姿を消していた。
「この~! 逃げられちゃった!」
 追いすがるべく分岐に飛び込もうとしたが、残された瓦礫の下で何かがうごめいている、岩をかき分けたその下にはサラマンダーの千切れたしっぽが残されていた。しばらくのたうち回っていたが、やがて動きを止めておとなしくなる。
「いいもん、こいつをステーキにしてあげるもんね」
 サラマンダーが食材としてどうかということも気になる、喜々として透乃はそれを担ぎ上げた。
「何にせよ、殺さずにはすみましたね」
 幾人かはサラマンダーが逃げてくれたことに胸を撫で下ろした。多分追い討ちしない限りは、もう出てくることはないだろう。
 残された者達も、めいめい持てる限り藻をはぎとって、洞窟の外に戻りはじめた。

「…砂漠地帯ではトカゲ肉は貴重な蛋白源だというけど、…こんなもんなのかな…」
「…トカゲといっても、いろいろあるでしょうし…」
 洞窟を出て、隅っこでしっぽを調理していたが、どうやらスパイスが効き過ぎたのかもしれない、スパイス味しかしなかった…透乃はちょっとがっかりした。肉のつもりで噛んで、植物の味しかしないような感じだ。鶏肉に似ていると聞いたことがあったのに。
 あのサラマンダーは藻しか食べない偏食家だったんだろうか。そう思いながら陽子と共に残った肉を噛みちぎり、すっかり胃袋におさめて片付けた。

「で、お話って何かしら? 手短にね」
 藤林 エリス(ふじばやし・えりす)はカンナの前に仁王立ちし、要求を突きつける。
「最大の用件はこの鉄道計画の国営化です、他にも明文化してほしい疑問は山ほどあるわよ」
「とりあえず座りなさい、長い話にされるのは面倒だけど」
 アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)とともにソファーに座って、要求に関する書状の類をカンナに手渡した。
「まあ、はっきりしておいて欲しい部分は多々ありましてー、こちらのレポートにお答えいただけるとうれしいなーって」
 アスカのレポートに目を通し、カンナはふうん、と呟いた。
「他人に出資させるからにはきっちり株式会社化の手続きとって株主の経営監視を受ける義務があるってこと、お分かりよね?」
 エリスは強気だ。鉄道は庶民のためのものだ、ブルジョワ環菜の毒牙にかかれば安全度外視の金儲けの道具にされかねないのだ。
「…そういえばあなたたち、同じ話をもうエリザベート達のところでもしたのよね?」
 彼女らの言葉だけでは確信には到れなかったのだろう。カンナにも以前はそれほどのワンマンを行っていた自覚はあるらしい。
「ならわかってると思うとは思うけれど、既にエリザベートとラズィーヤがその役についているわ」
 エリスはひるまない、ひるんではならない。次に言いたかったことを、アスカがぽんと背中を叩いて促した。
「そ、そもそも! 環菜の資産は蒼空学園に預けてあるんだから蒼空学園行って返してもらうなり出資してもらうなりするのが筋じゃないの?なんで山葉に話もしないでいきなりイルミンと百合園に出資持ちかけるのよ。
 鉄道のヴァイシャリー延伸の恩恵受ける百合園はまだしもイルミンに何の利益も無いじゃない」
「馬鹿なこと言うわね、そしてひとつ訂正しておくわ。私は確かに資産を預けたけれど、それには条件があった」
「な、なんなの?」
「私の資産は蒼空学園や空京大学他、ツァンダや空京といった学校や都市のインフラ整備に使うということ。元々生き返ったら返してもらおう、なんてこと考えちゃいないわ」
 涼司は約束を守る男だ、すでに資産はそのように使われている。そしてそれらの道をエリスたちも利用しているはずである。
 質疑応答が一段落したところで、アスカが質問をはさんだ。
「あ、あと気になることが。今掘り出してる最中の魔列車について、なんでもう燃料がわかっているんですかー?」
「ああそれね」
 カンナは書類入れから迷いなく一束のレポートを取り出した、古い資料のコピーがついているので意外と分厚い。
「…空京の魔列車について?」
「過去空京で掘り出され、現在は補修されて地球と空京間を繋ぐ列車になっているものとの共通項が予想されているわ、それの燃料は機晶石よ」
 発掘中の魔列車の燃料は機晶石ではないかもしれない可能性はなくなりはしないが、それでも機晶石を所持さえしていればつぶしはきくのだ。
「…結局は費用の問題か…」
 やはりそこが目に付くのは、カンナのほうに前科があるからだろう。ワンマン、傍若無人、トレードの鬼、そう脳裏によぎらせたエリスの気配を敏感に察したカンナは、ちょっとジト目で彼女らを一瞥する。そろそろ話を終わらせて、次にやりたいことがある。
「資産がないなら他に迷惑かけるな、引っ込んでろとでも言いたいのかしら?」
「そ、そこまでは言ってないでしょ! でも、もうちょっと私達は見守らせてもらうわよ!」
「はいはい、話はこれでおしまいかしら?次はレールの手配をしないとならないのよ」
 執務室を辞する二人を見送って、カンナは息をついた。その事に少し疲労を自覚した。
 文字通り彼女は一度は死んだのである、今のカンナには確かに資産はなく、夢を収めきれぬ頭ひとつがあるだけだ。
 だが、それしきに微塵も怯まぬ者こそが、御神楽環菜というものだ。