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リアクション
「おお、まだ使えるかなー」
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)たちは機晶姫を相手にするものたちの後ろについて、ジャンクパーツを回収していた。
「ああもー、キズだらけやんか…もったいないもったいない。キレイに回収したら、なんとかプログラム書き換えたり、モニュメントして使えそうやのに。そんでもって鉄道計画のマスコットになったりして…おっ?」
五体満足で倒れ伏すものを見つけたが、即座にレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)に押しのけられた。
「お退き下さい、まだ生きています!」
ソードブレイカーで咄嗟に首元を制す、整っているが人間味のない作り物じみた顔が敵を認識して、剣をぎりぎりと掴みしめ、首に刃が食い込むこともかまわずにもがいた。
「機晶姫たちは造物主の、私は泰輔さんの、それぞれ命に従って戦っている。どちらが戦闘力としてより優れているか…たまには腕試しもいいですかしらね」
闘いの際にはその頬にめずらしい微笑がのぼる、戦うために生まれた存在である彼女は、今は泰輔のために動くことが喜びなのだから。
「いらんことをするな、レイチェル、下がれ」
讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)がその逸りをおさえ、ライトニングブラストをぶつける。
「うわわわっ」
突然突き飛ばされてフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)はより分けていたジャンクパーツをばらまいた。
新たな機晶姫がフランツをまたぎ越して、ライトニングブラストを放ったあとの顕仁に剣を突きかかる。狭い洞窟の中、スピードを生かすために剣を振りかぶるような真似はしない。
レイチェルがその背をバックラーで防ぎ、体勢を立て直した顕仁がアルティマ・トゥーレで氷付けにした。
「泰輔! 危ない!」
「おおっと、命あっての物種や」
フランツが叫ぶ、先ほどライトニングブラストで叩き伏せた機晶姫が復活していた。登山用ザイルでぐるぐる巻きにして動きを完全に止めて、ようやく息をついた。
そこにフランツの悲鳴が響く。
「ああっ、せっかく集めたパーツを何処かになくしてしまいました…」
「ちょ、ボクはペットじゃないってばー!」
シャンバラ大荒野の中心で、首輪をつけられて引きずられている水鏡 和葉(みかがみ・かずは)が不満を叫んだ。
「うるさい、迷子はひとりで十分だっての、手一杯、満員御礼! …ってだからそっちじゃない!」
ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)が手綱を引き戻しながら負けじと叫び返した、何せ迷子はこいつだけではないのだ。
もうひとりのパートナーのメープル・シュガー(めーぷる・しゅがー)もまた、とんでもない方向音痴なのである。現時点で共にいないということは、そういうことだ。
「さあ、さっさとあの方向音痴連れ戻しにいくよー」
そう言ってルアークが手綱を引こうとしたが、手応えがあっさりとすり抜けた。がっくりと肩を落とす。
「…はい迷子二人目いっちょ上がりー…」
「まだめぇとはぐれて二日目だもん、大丈夫だけど早く探さなきゃねえ…」
和葉が人のざわめきを感じてふとあたりを見回すと、洞窟があった。周りにイコンや契約者達が集まっている。人がいるならめぇを見た人とか、行きそうな心当たりがあるかもしれない。
「へぇ、機晶石の発掘かぁ」
めぇの手がかりは得られなかったが、あの方向音痴のことだもの、洞窟に入っているかもしれない、などと自分のことを棚に放り上げて和葉はつぶやくのである。
洞窟に足を踏み入れてしばらくすると、機晶姫に出会った、ここを守るガーディアンなのだろう、挨拶して、ちょっとめぇのことを聞いてみよう。
「あの、すいません、ここに女の子が…」
強制的に言葉がとぎれた、そばの石が何か攻撃をくらってはじけ飛び、機晶姫が武器をこちらにかざして姿勢を低めた。泡を食って和葉は逃げを打った。
「か、かわいい顔なのに、こわいよー!」
気がついたら、メープルは暗い洞窟の中を歩いていた。火術を明かり代わりに灯らせて進んでいく。方向音痴と洞窟とはげに恐ろしき組み合わせだ。
やがて向こうの方から足音が聞こえる、誰か来たのだと思って声をかけた。
「こんばんは、お邪魔…きゃっ」
返答は突風のような攻撃で報われた、とっさに回避できたが、それからひたすら逃げ回るしかなかった。
「あらあら…ここは、どなたかのお家だったのかしら? きっと私ちゃんとしたご挨拶もなく入ってしまったから、怒らせてしまいましたのね…」
ばたばたとにぎやかな足音が響き、メイプルと和葉はばったりと再会した。
「あら、和葉ちゃん。こんなところにいたのね」
「それはボクの台詞だよう! でもよかったあ!」
合流できたが、追っ手も二人に増えてしまった。揃って逃げまどう他はなくなり、一発の銃声とルアークの呆れた声が響くまで駆け通しだった。
「全く、あんまり手間掛けさせないでよねー。迷子になったらその場から動くな。これ鉄則でしょ?」
スナイプで放たれた弾丸はひとりの機晶姫の頭を打ち抜き、その体を吹き飛ばしてそのままもう一人にぶつかって足止めになった。
「あら、ルアークちゃんもこちらにいらしたのね」
「ルアーク、どこほっつき歩いてたのさ」
「…お前等がそれを言うなぁ!」
もはやルアークはちょっぴり涙目だ。
「…ぁあああもう、採掘させやがれ! おまえも俺の邪魔をするのかぁ!」
ジャック・メイルホッパー(じやっく・めいるほっぱー)が唸った、組み合った機晶姫の腹を蹴りとばして体勢を整える。
結局、体を動かさねばならないのは僕なんですけどね。と魔鎧である相方を纏っている和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)は思うのだけれど。
この先に機晶石がとれるポイントがあるのはわかっているが、そこに機晶姫がなだれ込まないように阻止するので手一杯だ。
「でも、僕らがこうやって阻止していれば、他の人が安全に機晶石を掘れるんです、役割は分担したほうが効率がいいでしょう」
「…ふん」
少なくともジャックはその言葉に不平をおさめた。
「ええ、そうなんです、というわけで一番手っとり早いのはその命令を解除することだろうと思うんですよ」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はガーディアン達のことをカンナへ報告していた。
「今更ね、そこに主がいるならとっくに話をつけてるわ」
「まあ確かに、命令云々については現実的ではないかもですけどねえ…」
何せ話し合いをする間にも敵は現れるのだ。対処がする最中に次が来て、状況を悪化させてゆく。
「機晶姫に関するそういう報告はすでにいくつもあるわ。とにかく貴方たちは何をしに来ているのか忘れないでほしいわね」
その言葉を最後に連絡を切り、ザカコは洞窟に足を向けた。
どのみち戦って退けることが何よりの障害の排除であることは、結局よくわかっているのだ。
「ふふふははは…! 鉄道っつったら鉄道王! 鉄道王っつったらやっぱロマンじゃん!? 男のロマンの最高峰じゃん!?」
「…いいか、ロマンで世界は回らないよ」
ラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)は、あまりに賑やかな騒音の源に向かって、半ばかき消されながらもとうとうと演説を続けている。
一息ついて借り物のツルハシを肩に担ぎ、頭にタオルを巻き、ガテン系の笑みをこぼした木崎 光(きさき・こう)は、再びがっつがっつとその切っ先を振り下ろした。
「ロマンならこの俺様に、超まかせておきな!」
それにしても薄暗い洞窟の中だというのに、真夏の空の下にいるような熱気と、スマイルとともにキラリと輝く白い歯がセットだ。
「シャンバラに鉄道を、この俺様が敷く! そこを列車が走る! うおおおおおおお! みなぎってきたぜえええええええ!!」
ビシビシ飛んでくる石つぶてを避けながら、ラデルはなおも演説を続ける。ちなみに題は『鉄道を用いた物流網の有用性』についてだ。
「…鉄道が敷かれれば物流のラインが太くなる、それまで個人単位で移動し、損耗率の非常に高かったものが束ねられ、さらに単位の桁があがる、物流の結果経済が動けば富が生まれる…」
それらの結果を積み重ねたことを考えた上でロマンを叫ぶのはかまわないがねえ…
光のいうロマンは鉄道のみと直結しているようだ、短絡思考はやめてください。
ガゴッ!とツルハシが石の間に食い込んだような音がしたので、もしかすると?と思った光はさらにテンションが上がった。
岩盤の隙間をさらにツルハシがねらう、あまつさえ爆炎波をまとい、猛然と掘り進んだ。いや増す勢いがさらに光を駆り立てる。
「光、石炭ではないから爆発の危険はないかもしれんが、相手は一応エネルギー源なんだ、爆炎波はやめたまえ…」
「てか、ラデルせんせー! 横でどーのこーのとうるせーんだよ! 俺様の華麗なる爆炎採掘をジャマすんなよ! あんまうるさくしてっと、おまえも掘るぞ!!」
「…というか、仮にも女の子が『男のロマン』とか、あまつさえ人に向かって『掘る』とかいわないでください、おねがいします…」
そうしてがっくりしたラデルの周りに飛び散る石つぶての中に、次第にきらめきが混じり始めた、ふとそれに気づいたラデルが顔を上げる。
大きなクリスタル状の固まりが、彼らの前に現れていた。
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