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リアクション
「パラミタ大陸を横断する鉄道なんて……ホント、環菜は考えることがすごいよね!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はくるりとはねて、訪れるだろうわくわくを表した、ミニスカ注意。
「そうですね、美羽さん、この後は魔列車の発掘も行くのだから無理はしないようにね」
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は環菜さんにも言われたでしょう?とはしゃぐ彼女をたしなめた。
彼女らはビリジアン・アルジーなる賢者の石に連なる材料を採取しに来たのだ。ひとえに御神楽環菜の手伝いをしたい一心で彼女の元に訪れたが、残念ながらヴァイシャリー近郊の施設を今ひとときの足場と定めて、いろいろなところに繋ぎをつけ、携帯電話も手放せず、ネット電話のためにモニターからもあまり離れられない彼女を引っ張り出すことはかなわなかった。
彼女らのいる洞窟が、機晶石の採掘現場から少し離れたところにある、ビリジアン・アルジーが自生するとされる場所だ。
「みんな、遅くなってごめんね!」
アゾートが想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)のNT−1に乗って現れた。彼女はそういうが、他の契約者たちが集まってからさほど時間は経っていない。洞窟へ突入するのはこれからだ。
最初彼女はヴァイシャリーの施設で資料の整理をして、連絡と藻の到着を待つ心づもりだった。一度洞窟を目にして、存在を確認したのだから、障害はサラマンダーのみ、あとは契約者たちに頼んで藻を手に入れ、こちらは体勢をととのえておこうと思っていた。
「やっぱり、見に行ってみよう」
一度見たつもりでも、遠くでは見落としてしまうものがあるかもしれないのだ。
「誰か、今から洞窟に行く人はいないかな?」
そこに夢悠が現れて、アゾートを自分のイコンに誘ったのである。
「アゾートさん、あっちへ行くならイコンに乗れば早く移動できます。よ、良かったらオレのに乗ってください!」
ありがたくアゾートはその好意を受け取った。
「あ、乗り心地悪くないですか?」
「大丈夫だよ、でもごめんね、もう一度資料をチェックしておきたいから、できたら静かに進んでくれるとうれしい」
「はいぃっ!」
幸い、夢悠の必死の慎重な操縦のおかげで、アゾートは酔いもしていない、…そのかわり夢悠は精神を消耗しきってぐったりしている。イコンはまだ最近乗り始めたばかりの若葉マークなのだ。あこがれのひとを隣に乗せるプレッシャーは、純情な少年の心を幸福のうちに疲弊させている。
「お…俺も錬金術や地質学、勉強、してます…。手伝えることあったら…」
「うん、ありがとう、また頼むかもしれないから、今は休んでてね」
イコンを降り、洞窟やあたりの様子を調べてアゾートはつぶやいた。
「やっぱり、土地自体のエネルギーが濃い場所だね。機晶石と藻の洞窟が近くて助かったけれど、やはりこれは関連があるのかな」
御凪 真人(みなぎ・まこと)が、考え込むアゾートの横を通り過ぎて、洞窟に足を踏み入れた。
「とりあえず、サラマンダーをなんとかしないといけませんね、多少なりと自分達が囮になりますよ、みなさんは安全な場所へ」
「ボクが見たサラマンダーは一匹だけだったけど、気を付けてね」
「ありがとうございます」
洞窟に足を踏み入れ、わざと足音をさせながら歩く。意外な広さをもった洞窟は動きやすそうだが、敵には未だ遭遇していないので、相対的な大きさはわからない。
セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が、そのときぴくりと反応した。なにか物音が聞こえた気がする。洞窟で音がどうしても反響するが、なにかを引きずるような重い音だ。
「真人、向こうに何かいるわよ、サラマンダーかもね」
しかしなぜこんなところにサラマンダーがいるのだろう、ファイアプロテクトをかけながらさらに足を進めようとする。
「セルファ、気づいていますか?」
真人が先へ先へと逸るセルファを引き止めた、洞窟の壁に触れ、そこにあるものを指先にとった。
「…これ、藻よ! こんなところにもう…」
「どうやら、思ったより早く会えましたね!」
振り向けば、視界の先にサラマンダーの巨体があった。威嚇するように吠え猛るサラマンダーは、テリトリーを侵された怒りに震えている。
くわっとその顎を開き、その喉から火球が打ち出され、二人がとっさに避けた場所に炸裂する。
「しまった藻が!」
火球の赤が洞窟内をなめた、藻がその炎の向こうにかすんだ。はじけた熱が二人に吹きつける。
藻はアダマンタイトを加工する熱量になるものだ、火球で損なわれるようなことがあってはならない。反射的なこととはいえ、二人は青ざめた。
「…これ以上火を吐かせては…」
真人はブリザードを放つ、それにあわせてセルファのアルティマ・トゥーレの勢いがサラマンダーの鼻先をかすめた。
最初から当てる気のない牽制攻撃を重ねても、もちろんそれだけでは足止めにはならず、さらに火球が吐かれようとしたところへ、白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)が駆けつける。雅刀の切っ先がひらめき、増えた敵にさしものサラマンダーもその巨体を引いた。
「ピュアピュアエンジェルみこちゃん参上っ! 歩夢の恋のために、がんばりまっす!」
しかし刀を振り下ろしつつ口上を述べたのは、歩夢が纏った魔鎧の白瀬 みこ(しらせ・みこ)であった。
「きゃーピュアって自分で言っちゃった!」
てへっ、と付け加えて、ここまで行くともういっそ魔法少女のほうがいいんじゃないかというくらいの星が飛ぶ勢いだ。
「み、みこちゃん…! 目の前にサラマンダーがいるのにーっ!」
「ごめんごめん、でも今の歩夢はアゾートちゃんのおかげで百人力でしょっ?」
洞窟前で、行ってらっしゃいと手を振って応援してくれた、それだけで歩夢は目の前に立ちはだかっている怖いものなんてなくなった。
サラマンダーが体を回転させ、太く長い尻尾が振り回す、軌道上のものをなぎ払うその攻撃から三人は飛びすさる。
四足で低く地に伏せてなお、巨大なトカゲが彼らを威圧した。咆哮が世界をびりびりと震わせる。
「藻は…無事か!」
火球をくらったはずの藻は、あたりの壁は焦げはしているものの、それ自体はなんともないようだ。
魔力を秘めた藻は、それ自体は非常に安定しているようだった。
―隼人、僕だよ。そっちはどう?
風祭 隼人(かざまつり・はやと)は意識をノックするテレパシーの気配に視線を上げた。相手はよく馴染んだ双子の兄である風祭優斗だ。これから洞窟に入ろうという所だが、その手を止めて辺りを見回す。
「こっちはサラマンダーが出てきた、だがまだ数はわからん。そっちは?」
―こっちも機晶姫が出てきたよ、数はいるけど、みんなで対処できてる。
―そういえばそちらにアゾートさんが来ているって、彼はどう?
隼人はその言葉に、彼女に恋する己のパートナーを見やった。
「相変わらず、一生懸命だ」
その視線の先で、ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)が洞窟から出てきた者に話を聞いている。
「そ、そうなんですか! なるほど…」
一旦補給やマッピングの共有をするために外界に戻ってくる者達に、内部の様子を聞きだしてメモをとっているのだ。
いそいそとこまねずみのように動き回るその姿は、とにかくアゾートのために役に立とう、内部のことを調べていざと言うときになんとかできるようにしようと備えるいじらしさがある。
ソルランはアゾートの元に駆け寄り、調べた何がしかを一生懸命伝えている。
「へぇっ、藻は直接火を受けてもなんともなかったの!? それは早く調べてみたいね…」
「そうらしいんです。あでもアゾートさんはここにいてくださいね! 僕らが守りますから!」
…できればソルランに彼女の前で武器を握らせないようにせねば。平和主義の彼だが、武器を手にすれば性格が変わってしまうのだった。
「じゃあ、とりあえず俺はこれから斥候を送る、今のところサラマンダーは一匹らしいんだが、他にもいないかどうか」
テレパシーを中断して、ペットのサラマンダーがちょろりと手のひらに乗ってきたのを見る。
「いいか、中にサラマンダーが何匹いるか探ってくれ」
キュ、と一声鳴いてサラマンダーは洞窟の中へ走っていく。
すでに交戦ははじまっている、穏やかには行かないだろう、できれば説得をしたかったが、無理はするまい。
「弱点さえわかっていれば戦い方はあるもの。それほど苦戦はしないと思いますけれど…」
高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)は先達を追いかけて洞窟に足を踏み入れた。いくつかの情報を仕入れ、気を引きしめる。ティアン・メイ(てぃあん・めい)はその隣で気炎をはいていた。
「サラマンダー…大物ね。相手にとって不足はないわ!」
その時はシュウ、援護をお願い!と剣を握りなおすティアンに、玄秀はファイアプロテクトの用意をうながしておいた。
「(たまには、ティアに花を持たせてあげましょうか)」
「アゾートのためだもん、賢者の石も面白そうだし、って…なにこれ」
その足元に、ちょろりとサラマンダーがあらわれた。
でも…とても小さかった。手のひらサイズで一瞬でぷちっとやれそうな…
「…これもサラマンダーっぽいんだけど…」
手にしたバスタードソードをかざして、手前の地面をひっかいた。サラマンダーは威嚇にぺちりと小さな炎を吐いた。
「ま、待った! それは俺のペットだ!」
そこに風祭隼人が現れた、斥候に送ったペットがトラブルに巻き込まれたと悟って走りこんできたのだ。
「ご、ごめんなさい!」
早まらなくてよかった、ティアンは慌てて剣を引く。すばやく隼人に駆け上るサラマンダーがきぃきぃと何事かをささやき、隼人はうなずいた。
「どうやらここの洞窟のサラマンダーは一匹だけで住み着いているらしい。そこへ案内してくれ」
彼は玄秀たちにも声をかけ、ペットのサラマンダーの導きで洞窟の奥へさらに踏み込んだ。
「トカゲのカス野郎が何匹来ようが…知るかぁ!」
武器を握って性格の変わったソルランが剣ごと肩を回したので、みんな慌てて避けねばならなかった。
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